各々の状況・男の復讐
ドッドを追っていた筈のアンベシャスとカイネは七天塔へ戻っていた。
2人は情報収集が苦手で、ドッドがいるリゼンブルまで辿りつけなかったのだ。
「アンベシャス、カイネ。
七天塔へ戻っていたのなら連絡位寄越せ。」
「消費アイテムを使いたくなかったから・・・。
でも、結果オーライじゃない。解決したんでしょう?」
「・・・まあな。」
アインは目を伏せる。
「ん?お主がドッドを倒したんじゃろ。最嬉しそうにせんかい。」
アインは彼らに石化現象解決に協力した人物がいる事を話していなかった。
嘘をつかないアインは救世主の立場である七王道を守る為ならどんな手でも使う。
「そうだな。」
アインは笑みを浮かべる。
一方、アインが管理する七天塔内で待機するカイル達は
心配そうな表情を浮かべていた。
「レイダスさん大丈夫かな~?
高熱を出していたみたいだけど・・・。」
「オルドレイ殿に負担をかけてしまったな。」
俺が倒れた後のカイル達は、アインの指示で部屋を退室していた。
その為、俺が石化現象の責任を背負わされた事を知らない。
只純粋に俺を心配していた。
「レイダスさんならきっと大丈夫。今は俺達にできる事をしよう。」
カイルの発言にイリヤとゲイルは頷く。
そして、少しでも強くなる為に鍛錬を開始。
相手をイメージしながら剣を振り、魔力を練り上げる。
彼らは自分達がどれだけ無力か理解していた。
アインの弟子になったとはいえ、石化現象解決に貢献出来ていない。
逆に足を引っ張る形となった。
自分達が強ければ、もしくはあの場に自分達が居なければ、
アインがドッドに勝っていたかもしれない。
そればかりが脳裏をよぎる。
カイル達は今日も邁進する。
強くなる日を夢見て―――
その頃、ガランとフェノールは新王都でセレスチアンと会っていた。
「あんたの頼みを達成できたと言えない内容だが、結果的に解決したんだ。
俺と交わした《血の誓約書》通り、今後俺達の前に姿を現すなよ。」
「ええ、分かったわ。」
セレスチアンは報酬をガランに手渡しフェノールに視線を向けた。
視線にフェノールは敏感に反応し、ガランの背後に隠れる。
「貴方達の前から姿を消す前に、フーワールから伝言があるのだけれど、
これ、受け取ってくれないかしら。
《巫術の小太刀》の効果で持っているのが辛いのよ・・・。」
フェノールは、身体をピクリと動かす。
「ガラン、取って。」
「おう。」
ガランはセレスチアンからメモを受け取り、彼女はすぐさま離れる。
「じゃあ、私は行くわ。達者でね。」
セレスチアンはガラン達に背を向けて、口元を微かに歪める。
振り返る事もなく、彼女は黙って去って行った。
そんな彼女を気にする素振りも見せず、
フェノールはメモを読む。読み終えたフェノールは微笑んだ。
その表情は幸せに満ちており、セレスチアンとは違う魅力を放つ。
フェノールに視線を向けていたガランは頬を微かに赤くしていた。
「と、取り敢えず冒険者ギルドで依頼探そうぜ。
又金が無くなったら大変だし・・・。」
フェノールはガランの動揺っぷりに首を傾げながらもコクリと頷く。
冒険者ギルドに向かって歩きだした2人・・・。
目と鼻の先に見えてきた辺りで2人は声をかけられる。
振り返ると黒い番犬のライラが荒い息を上げて、肩で息をしていた。
大粒の汗を流し、かなり慌てている様だ。
「ライラじゃないか。」
「はあ・・・ガランさん、フェノールさん・・・レイダスさんを見ませんでしたか?」
ガランとフェノールは互いに視線を送り、ライラに言う。
「あいつは、リゼンブルの王城で療養中だぞ。」
「それは、本当ですか?」
疑り深いライラにガランは尋ねる。
「何かあったのか?」
「これを見てください。」
ライラがガラン達に差し出したのは一枚の手配書。
3億と記載された人物の名はレイダス・オルドレイ。
その額の高さと俺の名前が載っているという事実に2人は目を丸くした。
「どうなってやがる・・・。」
「何かの・・・間違い。」
「その手配書は、国から正式に発布された物です。
間違いではありません。」
ライラの否定的な言葉に2人は暫く絶句する。
「こんな・・・だってレイダスはリゼンブルの石化現象を解決したんだぜ?」
「濡れ衣着せられてる・・・。」
「濡れ衣かどうかは私達には分かりかねます。
ですが、正式に手配書が出回っている以上貴方達も協力してください。」
「捕まえるもなにもあいつは療養・・・。」
「王城から逃亡したそうです。皇子に怪我を負わせて。」
「それは、お前達が手配書を出すからだろ!
濡れ衣着せられて「はいそうですか。」なんていう奴はいない!」
ライラは、顔を俯かせて拳を握りしめた。その様子にガランは尋ねる。
「・・・お前はそれでいいのか?」
「いいわけ・・・ないじゃないですか。
でも、これが私達の仕事だから・・・仕方ないんです。」
ライラは、声を震わせていた。
俺を捕まえる自体が本意ではないライラに国は酷な要求をしている。
真面目な彼女に仕事を断る決断は出来ない。
その為、彼女は板挟みにされ、苦しんでいた。
「じゃあ・・・会いに行こうぜ。レイダスに!」
「え?」
「俺達の証言だけだと足りないんだろ?だったら、本人に会う方が一番手っ取り早い。
あっ・・・因みに捕まえるのは無しだからな。」
ガランの提案にフェノールは首を縦に振る。
ライラは王都を離れる事に不安を抱くが、
自分を捻じ曲げたくない彼女はガランに同意を示す。
「早速出発しようぜ。レイダスは行動が早いからな。」
「はい。」
ライラは、黒い番犬が所有する馬を勝手に拝借。
ガラン達と一緒に新王都を発った。
その頃、俺はセレスに食事を勧められて食べていた。
「1日3食は基本です!」とか・・・。
「上手い。」
「ありがとうございます。」
最初は気が進まなかったが、食べてみるとセレスの料理は美味しい。
俺の知る日本食ばかりが並べられている。
「お前は日本料理の知識を何処で得たんだ?」
「召喚魔法は魔法陣を介し我々に召喚者の知識や記憶を与えます。」
「つまり、召喚時だな。」
「左様です。」
俺は、黙々と食べ続けるが、徐々に食べる速さが遅くなる。
「ん?召喚者の知識や・・・記憶?」
セレスは確かにそう言った。
「お前、俺の前世の記憶を持っているのか?」
「はい。」
セレスの肯定発言に、俺は項垂れた。
『マジか・・・。』
俺の記憶は俺だけのものだ。
セレスと言えど、他人に過去を知られるのは気持ち良い物ではない。
「ご主人様の記憶があっても無かろうと私は開示致しません。
ご安心ください。」
セレスは、ニコリと笑って見せる。
「完璧執事。」
「悪口になっておりませんよご主人様。」
俺は、食事を終えて紅茶を嗜む。
試作していた紅茶がセレスの手によって完成し、俺はご満悦。
カモミールの香りが最高だ。
セレスと会話をした俺の精神は正常。
今後の行動を冷静に考えるまでに回復していた。
紅茶を飲み干した俺は、セレスに物騒な発言をする。
「これから、姫様、リゼンブル国王、ファルナ皇子、及び
七王道を殺しに行く。」
「私やガルムもご同行致します。」
セレスは否定しない。
それ所か俺に着いて行くと言う。
「いや、万が一お前達に被害が及んだ場合、俺は発狂する。
跡形もなくなった世界を見たくはないだろう?」
「ご主人様、逆も然りでございます。」
「そこまで言うなら、1つ頼み事をしてもいいか?」
「何なりとお申し付けください。」
「冷蔵庫の食材が底を尽きかけていると言っていたな。
魔法のカバンを持たせるから入るだけの食材を購入して来い。」
「転移はどう致しましょう?」
「俺特製の巻物を預ける。《空間転移》と《念話》だ。
《念話》は緊急事態に備えた物だ。問題が生じた場合、俺に念話を飛ばせ。
特に問題が起きなければ、そのまま《空間転移》で夢見の森に戻って構わない。」
巻物には種類があり、魔法用とスキル用の2つに分類される。
魔法用巻物製作は簡単だが、スキル用巻物製作は面倒だ。
製作方法は同じだが、素材を追加しなければならない。
巻物に施すスキルによって素材は異なり、貴重な素材を使用する事が稀にある。
「畏まりました。」
「ガルムには悪いが今回も留守番だな。」
俺は優しくガルムを撫でる。
ガルムの耳は垂れており、残念そうな表情を浮かべていた。
ガルムを連れ出せない理由は、シンプルに俺の従魔だからだ。
手配所が張り出され、追われる身となった俺の従魔と知っている者は多い。
その為、セレスはともかく、ガルムを外に出すのは危険だ。
俺とセレスはログハウスを出る。
そして、《空間転移》でセレスごとメイサの森へ移動した。
ここから先は別行動。
俺はリゼンブル、セレスは新王都へ向かう。
俺の復讐劇が幕を開ける。




