男は擦り付けられる。「濡れ衣だ!」
俺は、王城内に石化した人間をかき集める。
《瞬間移動》で姿を消しては現れを繰り返し、フェノールは動揺していた。
「フェノール。ガランはまだ目を覚まさないのか?」
不意に問いかけられたフェノールは首を横に振る。
「そうか。目を覚ましたら、石像をなるべく固めて置いておいてくれ。」
俺はそう言って再び姿を消す。
夢見の森に戻った俺は、ログハウスの扉を開けた。
そこには、セラスと仲良くなり、頭を撫でられるガルムがいた。
尻尾をパタパタと揺らし、表情は緩んでいる。
「お帰りなさいませ。ご主人様。」
セラスは俺に気付くと立ち上がり、丁寧なお辞儀をした。
「仲良くしている様だな。」
「はい。」
ガルムは俺に擦り寄る。
俺は、ガルムの頭を撫でながら、セラスに言った。
「戻ってきて早々だが、セラス。
2階の魔法倉庫から《真祖の血》、《メドゥーサの目玉》、《白天玉》
の3つをありったけ持ってきてくれ。」
「畏まりました。」
俺は、セラスに素材を持って来させる。
「俺は、リゼンブルに戻る。2人で留守を頼むぞ。」
「ワフッ!」
「お任せください。」
そして、リゼンブル王城内に戻った俺は、《メドゥーサの抗体》を生産する。
ドッドとの戦闘で精神的に疲れた所為か目が霞む。
それでも、手を休めなかった。
生産途中で、服を引っ張るフェノールに気が付いた俺は、彼女に
「どうした?」と尋ねる。
ガランが目を覚ましたようで、俺に状況説明を求めているらしい。
「悪いが今は手が離せない。後で説明するから待ってくれ。」
《メドゥーサの抗体》の生産を終えた俺は、
《メドゥーサの抗体》を使用し、国王、皇子、姫様と順番に生き返らせる。
彼らはバタバタと床に倒れた。
アイン、カイル達も石化から元に戻し、俺は息を吐く。
「後は・・・。」
俺は、死体になったドッドに向き直り、彼の胸に手の平を当てる。
《死体蘇生》で生き返った彼は勢いよく起き上がり、
身体中を触って自分が生き返った事を確かめた。
「君、蘇生が出来るんだね・・・って顔が真っ青だよ!?」
ドッドは俺の顔を見て驚く。
「五月蠅い・・・静かにしろ。」
「はい。」
ドッドは、返事をしてから俺との約束で「七天塔へ帰る。」と言い出すが
彼の襟元を掴み、俺は逃がさない。
ドッドを部屋の隅に放り投げ、複数の罠系魔法を唱える。
《メドゥーサの眼光》が使えないように《壁離遮断》で四方を囲むおまけ付きだ。
彼は「帰る。」と言いつつ逃げる気満々だった。
それを見逃す程俺は馬鹿ではない。
俺と彼との間に交わされた契約は絶対だが、効果はランダム。
発揮される状態異常の効果が弱い可能性がある。
それを知った上で逃げようとしたのなら、大したものだ。
「大人しくしていろ。
逃げようなどと考えようものなら殺すからな。」
脅しではないと察知したドッドは、黙り込む。
俺は、フェノールにドッドの監視をさせ、石化していた人間達の回復を行う。
立ち眩みで一瞬倒れかけるが、俺は踏ん張る。
「ん?ここは・・・?」
「私達は生きているのか?」
国王、皇子、姫様は生き返った事実に喜ぶ。
その間にアインとカイル達を回復させた。
「うう・・・。」
「レイダスさん?」
「ここ・・・王城の中ですか?」
カイル、イリヤ、ゲイルが目を覚まし、俺は頷く。
「うっ・・・ドッドはどうなった?」
「部屋の隅に閉じ込めている。」
俺は、親指で後方を指さす。
それから、立ち上がってガランの元へ向かった。
「レイダス!一体全体どうなっているんだ!?」
俺は騒がしいガランの顔面に拳をぶち込み、壁にめり込ませる。
「五月蠅い・・・少し黙れ。」
ドッドの見張りをしていたフェノールがガランに駆け寄り、
壁から引っこ抜き作業を開始する。
俺は、壁にもたれかかりズリズリと床に腰を下ろした。
身体中からは尋常じゃない汗の量が噴き出し、水分が抜けていく。
ダルさで身体が重く、動かす気になれない。
そんな俺の元に姫様が駆け寄る。
俺の両肩を掴み揺すった。
「レイダスさん!これはどうなっているんですか!?」
姫様は巻き込まれた被害者だ。
状況を知りたがるのは当然・・・。
「そこにいる・・・アインに聞いてくれ。」
俺はアインに丸投げした。
姫様は立ち上がり、すぐさまアインに駆け寄る。
『他人を優先に考える人間だと思ってたんだけどな・・・。』
石化していた人間達はアインに言い寄り、群がった。
彼らは石化現象の一件について強く追及。
アインはたじろいだ。
『助けた結果がこれだ・・・。』
他人を助けて得られる物は無い。
見返りを求めるだけ、損をする。
余りにも不公平で、理にかなっていない・・・。
そんな事を考えながら、俺は横になった。
ひんやりと冷えた床が気持ちいい。
俺の異変に気が付いたのは、
1人だけアインに近づかなかったフェノール。
俺の頭を持ち上げ、俺の名を呼ぶ。
「レ・・・ダス!」
聴こえない―――
聞きたくない―――
俺の瞳は虚ろ委でいき、やがて意識を手放す。
・・・ザザ・・・ザザ・上限・・・解放・・ガガガ―――
ステータス・・・上昇・・・上昇―――上昇・・・上昇・・・
目が覚めた時には、王城内のとある一室で寝かされていた。
額には、キンキンに冷えたタオルが乗せられ、
横に視線を向ければ使用人らしき女性が椅子に腰かけている。
「お目覚めですか?」
使用人が顔を近づける前に俺は上体を起こし、
左側に置かれている自分のカバンを手に取る。
中から取り出した物は、銀色の短剣だ。
俺の警戒する様子に使用人は戸惑い、入り口で待機していた姫様を呼ぶ。
部屋に入ってきた姫様の表情は何処か不安げで申し訳なさそうだった。
「レイダス様・・・警戒しないでください。」
俺は姫様を信用せず、警戒を解かない。
ベットから下りた俺は、
近くに置かれていた自分の剣と防具を装備して、一室を出る。
廊下を見渡すと貴族や王族で溢れかえっており、
俺を見るや否や驚きの表情を浮かべていた。
「待って!」
待たない―――
俺は、王城の出口を探して廊下をズカズカと歩く。
廊下の突き当りに差し掛かると、剣の切っ先が俺の喉元に突きつけられる。
「シャーロットが待てと言っているのが聴こえないのか?」
聞きたくない―――
俺は、右足でファルナ皇子の左足を払う。
バランスが崩れた所で左手を叩き、剣を落とさせた。
そして、床に倒れた拍子に、がら空きとなった腹部を踏みつける。
彼の落とした剣を拾い上げ、俺の歩みは再び再開した。
後方で「ファルナ皇子!」と叫ぶ声が聞こえるが無視する。
コツコツと歩いて出た先は、王城内の大きな広間。
上を見上げれば、シャンデリアがあり、右を見れば門がある。
俺は、右へと真っすぐ進んで行き、門に手をかけた。
外に出た俺は、日差しの眩しさに視界を奪われる。
慣れてくるとそこには、リゼンブルの住民達が集っており、
門番達が必死に荒波を押さえていた。
抵抗している様子に内心で笑う。
そうしていると後方から足音が近づいてきた。
振り返るとそこには、諦めの悪い姫様がおり、俺は舌打ち。
俺は王城の裏手に回り、見張りの目を掻い潜って柵を飛び越える。
王城から脱出した俺は一息つく為にリゼンブルの酒場に足を運んだ。
酒場のマスターに酒を一杯注文し飲み干す。
追加でもう一杯注文し、俺は周囲の会話を盗み聞きする。
「王城前にすげー人だかりが出来てたけどよ~。イベント事か?」
「さあなー。」
「嫁に逃げられてよ・・・。俺もうやっていけねー・・・。」
「はいはい。酒を飲んで忘れろ。」
これと云った情報は得られず、俺は酒場を後にする。
外に出るとリゼンブルの兵士達に囲まれ、逃げ道を塞がれた。
「レイダス・オルドレイだな?」
兵士達は、各々武器を構え臨戦態勢に入る。
「国王の命により拘束させて貰う!」
知るか―――
俺は、兵士達の後方に回り首に手刀を入れた。
全員気絶させた俺は、国外へ逃亡。
『犯罪も犯していないのに拘束とかふざけるな。』
しかし、現実は残酷だった。
新王都に戻った俺は、建物に張り出された一枚の手配書を目にする。
俺の人相書きがされた手配書―――俺に3億もの賞金がかけられていた。
俺はその手配書をグシャグシャに握りつぶし、怒りに身を震わせる。
「やられた・・・。」
石化現象の責任を全部俺に被せられた。
救世主である七王道が国に被害をもたらす・・・。
それは決してあってはならない事だ。
ならば、行動は一つしかない。
別の誰かに擦り付ける。
「俺は幸せになる為、この世界に転生したんだよな?
何故こうも裏目に出る!」
俺の声を聴きつけて、賞金稼ぎが俺に襲い掛かる。
俺は剣で賞金稼ぎの骨と内臓をズタズタに斬り裂いた。
それから、3日間―――俺は飲まず食わずで戦い通す。
移動しても移動しても賞金稼ぎ達が俺の前に立ちはだかった。
朝も夜も関係ない。彼らは好機を伺い、身を潜めている。
ログハウスに戻る頃、精神は既に限界を超えていた。
脳内ではゲシュタルト崩壊が始まり、「何故?どうして?」と疑問が絶えない。
2階に上がった俺は、個室に籠りとある行動を取る。
攻撃力の高い銃を取り出し、頭に突きつけた。
そして―――引き金を引く。
「ズドン!」という銃声と共に俺は死ぬが《不老不死》で生き返る。
何度も何度も何度も何度も何度も・・・同じ行動を繰り返し、
100回到達した時点で俺は諦めた。
「セレス・・・掃除を頼む。」
「・・・畏まりました。」
セレスは室内を見て驚くが表情に出さない。
掃除を終えた彼は、ベットで憔悴する俺の姿を見て心を痛めた。
優しく毛布を被せて彼は言う。
「お休みください。」
彼は、2階へ上がり自分の寝室となった別の部屋へ行く。
セレスの優しさに気付かない俺は、一つの想いを胸に刻みつつあった。
復讐―――
俺を苦しめる人間を殺す。
俺を不幸にする人間を殺す。
俺の中の何かが囁く―――『裏切りを許すな。』
俺の中の何かが囁く―――『復讐だ。』
俺は、闇へと堕ちて行った。




