男vsドッド・レネゲスト
世界は自分を中心に回っている。
自分が王様―――
自分の楽園―――
自分が頂点に立つ世界を脅かす存在が現れたら捻じ伏せる。
奪わせない。
奪わせてたまるものか!
ドッドは保身に走る。
俺が透明化を解除すると同時に戦闘が開始。
俺はドッドから距離を取った。
放たれた矢は綺麗な曲線を描き俺に飛来する。
剣で弾き落とし、最後の1本を素手で受け止めた。
矢先には、黄色い蜂蜜のようなドロッとした液体が付いており、
バチッと音を立てる。
雷属性が付与された矢だ―――
俺は、屋根から飛び降り着地する。
それを追うようにしてドッドも屋根から下り、矢を放ち続けた。
リゼンブルに設置されている街灯が点滅を繰り返している・・・。
俺の弾いた矢が街灯に当たり、ガラスの破片が地面にバラバラと落ちていく。
『魔眼を使ってこない・・・。』
俺はドッドの矢を剣で落としながら、目を細めた。
戦闘慣れした者が最初に取る行動は決まって様子見だ。
相手の力量を測り、作戦を固める。
『舐められているのか?』
俺を甘く見ているのなら好都合・・・。
ドッドが矢を放った直後を狙って俺は急接近。
《ファイアーボール》を破裂させ、視界を奪う。
「取った。」
俺の片手剣がドッドの喉元に触れる瞬間―――
鼓動が高鳴り、息苦しさに襲われる。
視線を下に向けると足先から石化が始まっていた。
俺の剣筋は鈍り、ドッドの喉元の皮を薄く斬るにとどまる。
「驚いているね。石化のお味はいかがかな?」
『言い訳ねーだろうが・・・。』
視界を事前に奪ったのに、何故平気でいる?
俺は、ドッドの顔面を見て驚愕する。
《ファイアーボール》によって焼け爛れた彼の顔がそこにあった。
ドッドは確実に俺を石化させる為に、敢えて魔法をその身で受けたのだ。
「ぐっ!?」
石化が胸まで到達し、鼓動が止まる。
俺は腕が動く内に《瞬間移動》でドッドの視界が届かない場所に移動した。
カバンから《メドゥーサの抗体》を取り出し服用する。
これで残り1本だ。
『殺す殺さないで悩んでいられない。』
「覚悟を決めろ・・・。」
俺は自分に言う。
俺が本気を出していれば、先程の攻撃でドッドを仕留めていた。
殺してしまったのなら、蘇生させればいい。
でも―――
「こんな所にいた!」
『見つかった!?』
俺は、《透明化》を発動させ、姿を隠す。
しかし、ドッドには《采配の指針》がある。
俺の場所を割り出し、ドッドは弓を引く。
「それで隠れたつもりかい?」
放たれた矢は爆散し、俺を吹き飛ばす。
身体に物理的なダメージはないが、俺の精神には多大な影響を与える。
「出てくるな・・・。」
久しく、俺の中の何かが顔を出す。
何かは俺の中で暴れまわり、俺を駆り立てる。
囁く―――『殺せ。』
囁く―――『殺せ。』
俺は、剣を握り直しドッドに迫る。
ドッドの両目を斬りつけ、視界を奪った。
それにより、《透明化》が解除される。
「うっ!?」
彼は、《未来予知》を発動させ、俺の攻撃を予測。
初撃を回避し、距離を取る。
着地後、彼は回復ポーションを服用。
失った体力を元に戻す。
「やるね。」
ドッドは俺を褒めるが、俺にそんな余裕はない。
「《破滅の魔導士専用魔法/第10番:三つの罠》」
四角、三角、丸の三つの物体が俺の周囲に出現。
俺は指先をドッドに向け、三つの物体を飛ばした。
「!?」
正体不明の物体の効果をドッドは《未来予知》で知る。
三つの物体に囲まれ、自分が死滅する光景を見たのだ。
ドッドは《メドゥーサの眼光》を発動させるが物体は石化しない。
物体の石化を諦めたドッドは俺を睨みつけるが、
俺は《壁離遮断》を唱え、壁を形成。
彼は舌打ちした。
『魔法に対して《メドゥーサの眼光》は無効なのか?』
俺の推測は当たっており、彼はひたすら俺の魔法から逃げる。
彼は、俺への攻撃よりも魔法の無力化を優先し、俺から目を逸らした。
「これなら・・・。」
『捕まえられる。』と思った時―――
俺の鼓動が高り、息苦しくなる。
石化だ・・・。
ドッドは、俺の魔法で手一杯。
俺を視界に納めていない彼に石化は不可能だ。
「こんな時に・・・。」
それが意味する所は、ドッド以外のもう1人が出現した事を表している。
戦闘に集中していた俺は《探知》を疎かにし、接近を許したのだ。
後方に顔を向ければ、フェノールが言っていた特徴と合致する人物が立っている。
彼は俺に微笑んで、口から汚い言葉を吐いた。
「さっさと死ねよ汚物が・・・。」
『戦闘中に乱入してきた分際で・・・。』
俺は、乱入者に《炎》属性魔法をお見舞いして、その場を撤退。
路地裏に身を隠し《メドゥーサの抗体》を服用した。
俺は、その場で一度冷静になり、乱入者の顔を思い出す。
『姫様護衛依頼でテペリと王城に訪れた時、
門番や部下に指示を出していた兵士がいた・・・。』
それが、ドッド以外で完全な石化が可能なもう1人―――
あの時の恰好と現在の彼の恰好は驚くほど変わっており、
まるで、どこぞの貴族・・・。あれから高い地位を得たのかもしれない。
それだと余りに不自然だ。
『高い地位を得ながら、何の不満がある?』
そこで、先程の彼の発言が脳裏をよぎった。
「どいつもこいつも自己中心的にも程があるだろ。」
俺は、抑えていた何かを自由にさせる。
俺の中の何かはドロドロとした物を吐きだし俺を侵食。
感情が希薄になり、脳内が殺意で満ち満ちた。
まず先に仕留めるのは俺に「汚物。」と言った兵士だ。
遠目から見ていたが、ドッドは俺の魔法に未だ悪戦苦闘している。
その間に蹴りを付ければ、戦闘に支障はきたさない。
俺は《透明化》を発動させ、俺を探す兵士を発見した。
静かに歩く仕草は優雅で、貴族の風格がある。
いや・・・なった気でいるのだろう。
『彼が何故石化を使えるのか・・・。それは後で考えよう。』
俺は、殺す事だけを考え動いた。
「手加減はしない。」
俺の瞳に黒い炎が灯る。
音速を超える俺の速度に彼の動体視力はついて行かなかった。
俺は、瞬時に彼を絶命させ、ドッドの元へ向かう。
ドッドは、《トライデントトラップ》の最後の物体に矢を射り、破壊する。
丁度そこへ俺が姿を現した。
ドッドはニヤリと口角を上げて舌なめずり・・・。
「カモが来た。」と言わんばかりの表情は置いといて、俺は攻撃を仕掛ける。
ドッドは《メドゥーサの眼光》を発動させるが、俺は石化しない。
何故なら、《壁離遮断》で生み出した壁を《重力》で浮かせ、
それに《透明化》を付与しているからだ。
ドッドからは俺が見えてるだろう。しかし、魔法の壁越し・・・。
魔法によって《メドゥーサの眼光》は途中で遮断され、俺まで届かないのだ。
「ざまあみろ。」
俺は、《重力》を操作して《壁離遮断》の壁を勢いよくドッドに叩きつける。
「うごあ!?」
彼は地面に強く背中を打ち付け、動けない。
俺は好機を逃さず、剣でドッドの胸を刺し貫いた。
俺の刺し貫いた剣はカタカタと震えており、
最初の内は理解出来ていなかったが、震えているのは剣でなく、俺の腕だった。
このままドッドを殺せば、俺が俺でなくなる予感がした。
だけど、自ら何かを自由にした所為か逆らえない―――
彼は死に際にこう言った。
「君みたいな人間が生涯、天涯孤独なんだろうね。」
俺は、剣を捻りドッドを殺す。
ドッドを絶命させた瞬間、感情の一部が欠落した。
こうして、リゼンブルでの石化現象は幕を閉じる。




