ドッドと・・・もう1人?
俺は石化した人間の状態を調べていた。
石像を鑑定すると《石》と表示され、アイテム扱いされていると知る。
アイテムに蘇生魔法を唱えても、魔法は正常に発動しない。
俺は彼らの状態を仮死状態であると考え、魔法が無効になると推測した。
彼らを元に戻せるのは現在《メドゥーサの抗体》だけ。
俺達のいる部屋で石化している人間は、国王、皇子、姫様を含め16人。
この世界で重要な人間である3人を元に戻せば、残り7本。
生産は可能だが、素材の関係から50本が限界だ。
俺としては、《メドゥーサの抗体》以外で元に戻す方法を模索したい。
貴重な素材の入手が再度可能でも集めるには時間が掛かる。
手間は極力省きたい所だ・・・。
俺は、考えられる手を実行していく。
「これならどうだ?」
俺が石像に向けて手をかざした時―――
テーブルに置かれていた書類を
黙々と読んでいたアインが「カイル?」と呟く。
「カイル達に何かあったのか?」
「分からない。しかし・・・かなり動揺している様だ。」
俺は《瞬間移動》でカイル達の元へ移動する。
周囲には人間の石像がそこらたじゅう置かれていた。
腰を抜かすカイルとイリヤ・・・。
呆然と立ち尽くすゲイルを発見した俺は、彼らに駆け寄った。
俺は、彼らが見つめる一点に視線を向ける。
そこには、石化したガランとフェノールの石像があった。
槍を振り上げ、魔導書を開いている様子から戦闘していたと思われる。
『石化から戻せば、情報が得られる・・・。』
「ガラン達を元に戻す。」
俺はカイル達を連れて、ガラン達に近づく。
そして、《メドゥーサの抗体》を使用した。
石像の頭から足先にかけて液体が伝う。
徐々に石化が解除され、ガラン達は倒れ込んだ。
フェノールは辛うじて意識を保っていたようだが、直ぐに気を失う。
『FREE』でも同様だが、死から蘇生による復活直後の体力は1だ。
鑑定で彼らのステータスを確認すると体力は1になっていた。
その事から石化した人間は死亡と断定される。
俺は、カイル達にガランとフェノールを担がせ、《瞬間移動》で、
アインのいる王城内へ戻る。
彼は、カイル達が部屋中にある石像に驚愕しているにも関わらず、
至って冷静だった。
「戻ったか・・・。ん? その2人は?」
「冒険者のガランとフェノールだ。
石化を解除した。」
「無暗な使用は控えた方が賢明だぞ?」
「お前にだけは言われたくない。」
俺は、カイル達に指示を出し、ガラン達を横にさせた。
彼らの意識は戻っておらず、体力は1のままだ。
「体力を回復させれば、ガランとフェノールは自ずと目を覚ますだろう。
イリヤ頼むぞ。」
「はい!」
イリヤは回復魔法を唱えて彼らを回復させ始める。
イリヤはヒーラー職から2つ上の《賢者》職に変わっていた。
ガランとフェノールの回復も直ぐに終わるだろう。
その間に、俺とアインは互いに情報交換を行う。
「あいつらの石化を解除したのは、石化した相手の顔を見ているからだ。
ドッドが犯人か・・・これでハッキリするだろう。」
「そうか。私からはこれだ。」
アインは1枚の地図をテーブルの上に広げ、俺に見せる。
「・・・リゼンブルの地図か。」
地図には、幾つか×印がされていた。
「ああ。×が付いている場所は、事件が発生した場所を示している。」
×印はリゼンブル国内にまばらに散らばっていた。
法則性がなく、犯人の意図が全く理解出来ない。
「他に、こんな物も見つけた。」
俺が悩ましい表情をしているとアインは、巻物を取り出す。
消費アイテムのスクロールとは別物で、そこには、人名が記載されていた。
「被害者には共通点があり、全員ヒーラー職だ。」
「だったら妙だ。現にヒーラー職以外も石化している。
巻物と関係性が無い。」
「私なりの推理だが、ヒーラー職を石化している者がドッド。
他の人間を石化している人物が別にいる。」
石化現象の犯人を1人と決めつけていた俺の考えをアインは覆そうとする。
「ドッドじゃないよ。」
フェノールがそう言った。
彼女は、イリヤに肩を借りて立ち上がる。
顔は真っ青で冷や汗をかいていた。
「ドッドではないなら、誰だ?」
突如として湧き上がる疑問・・・。
その答えを知るのは、フェノールとガランだけだ。
フェノールは俺の問いに首を振り、「知らない。」と答えた。
「でも、特徴なら・・・。」
そして、彼女は戦った相手の特徴を俺達に教える。
俺は、聞き漏らす事なく特徴を脳に刻み込むが、
特徴をフェノールから聞く度、嫌な予感が強くなる。
『あったような気がする・・・。でも、何処で?』
フェノールの述べる特徴と一致する人物に心当たりがあった俺は、
この世界での出来事を振り返る。
『フェノールが目撃した人物の特徴からして影が薄そうなんだよなあ~。』
顎に手を当て考える俺の様子を、アインが横眼で見つめていた。
「もうすぐ夜だ。私はドッドの捜索を優先するが、貴様はどうする?」
「それは、別行動を許可しているのか?」
「貴様が行きたそうにしているからな。」
アインは息を吐き、肩を竦める。
アインの推測が正しく、ドッドがヒーラー職限定で襲っているのであれば、
リゼンブルのヒーラー職周辺に網を張る事で彼を見つけられる。
問題はもう一方だ。
この国に於ける重要な人間を石化している相手。
ドッドよりも危険と俺は判断した。
「ドッドの捜索中、鉢合わせするようなら俺を呼べ。」
ドッドを捕まえても、もう一方に妨害されては逃げられる。
何度も言うが《メドゥーサの抗体》は貴重なのだ。
「癪だが、貴様の協力は助かる。」
こうして、アインとカイル達は、ドッドの捜索。
俺はもう1人を追う事となった。
俺は彼らに《メドゥーサの抗体》を5本手渡し、別行動を開始。
意識を取り戻さないガランをフェノールに任せるのだった。




