七王道戦 男vsアイン・ロウネル
俺は「《スキル:瞬間移動》」を使用し自分の間合いに彼をおさめる。
10m離れていようとも俺には関係ない。
俺は、片手剣を軽く振った。
斬撃は、アインに真っすぐと飛んでいくが、彼は容易に避ける。
加減したとはいえ、俺の攻撃を完全に避けるとは考えていなかった。
「この程度!」
アインは攻撃に転じる。
大剣を振る速度は、片手剣を扱うSSランク冒険者に匹敵すると思われる。
彼は、大剣を巧みに操り、俺を襲う。
大剣を地面に突き立て蹴りを繰り出す。
俺は、腕で受け止めて後ろに後退。
そこへ大剣が俺の頭蓋を破壊すべく、振り下ろされた。
横に回避した俺は、剣で突く。
俺の剣はアインの頬を掠めた。
彼は、大剣の柄で俺の腹部を攻撃するが、俺は手の平で受け止める。
ギリギリと音を立てながら、俺とアインは睨みあった。
「貴様・・・私の剣を知っているな?」
「ああ、知っているとも・・・。」
剣技と格闘技の合わせ技―――それが、アイン・ロウネルの戦術だ。
『FREE』をプレイしていた当時、七王道に勝つ為、動きを研究した俺には、
彼の攻撃パターンが脳裏に焼き付いている。
「3人が来る前に決着をつける。」
俺は、アインから距離を取り、魔法を唱えた。
「《破滅の魔導士専用魔法/第10番:雷神の一撃》」
ブエノス大森林でも使用した高威力の雷がアインに向かって飛んでいく。
バリバリと音を立てる雷をアインは大剣で受け止めた。
『忘れていたな・・・。』
攻撃パターンは覚えていたが、武器に付与されていた効果を忘れていた。
彼の大剣に付与されている効果は《雷針》。
雷属性の魔法を引き付けるというものだ。
雷を纏った大剣をアインは振りかぶる。
「お返しだ!」
俺の放った魔法がアインの攻撃が上乗せされ、戻ってくる。
だが、それも想定範囲内だ。
俺は、上空に跳躍し、《雷神の一撃》を回避する。
そこから、突きの連打。
遠距離から剣による突き攻撃をアインは回避しきれず、左肩と右足に穴があく。
彼は痛みを堪え、倒れる事を拒否。
そして《自動回復力向上》をスキルとして有している彼は、直ぐ様活動を開始した。
『機動力を削いだと思ったのだが・・・残念だ。』
『FREE』をプレイしていた当時、アインと戦っていて苦しめられたと言えば、
タフネスの高さだ。
設定で、回復系スキルや防御系スキルを多く有しており、持久戦になりがちだった。
現在の俺なら一撃で屠ろうと思えば可能なのだが、
NPCとしての彼ではない戦いを見てみたいという欲求にかられる。
ただ―――
『残りの3人が来る前に終わらせないといけないんだよな・・・。』
「はっ!」
アインは、大剣を延々と振るう。
「どうした、手も足も出ないのか?」
彼は、自分が押していると思い込んでいた。
傷が完全に癒えていないにも関わらず、彼の剣筋は衰えない。
流石と称賛すべき場面なのだろうが、俺からしたら滑稽だ。
途中で、格闘技を織り交ぜてくるので、俺は受け止めたり、回避を繰り返した。
そして、俺に飽き時が訪れる。
『FREE』をしていた当時と今の彼の戦い方は、ほぼ変わらない。
『つまらない。』
「終わりにするか。」
俺は、アインから距離を取ったと見せかけ、瞬間的にアインの足を斬りつける。
そして、拘束系魔法を唱えた。
「《破滅の魔導士専用魔法/第8番:捕縛の鎖》」
天地から魔法の鎖が出現し、アインに巻き付く。
「この魔法は!?」
彼の口ぶりから、
《捕縛の鎖》が魔導士職で習得出来る魔法だと気付かれている。
七王道のlvは、90。
第9番代以下の魔法を知っていても可笑しくは無い。
ここで、アインを始末すれば、他の七王道が俺を殺しに来る。
だが、俺が他職の魔法を使用出来ると知られる訳にはいかない。
俺に迷いはなかった・・・。
俺は、もう一つ魔法を唱える。
「《破滅の魔導士専用魔法/第5番:毒の死爪》」
俺の左手に毒々しい魔法の爪が出現した。
毒液が地面に落ちる度「ジュウッ・・・。」と焼ける音がする。
「終わりだ。」
「くっ!」
俺は、左手を大きく振り上げた。
そして――――
「師匠!と・・・レイダスさん!?」
予想よりも早く、残りの3人が到着。
俺は、声を聞いて、毒の死爪を消す。
『この声は・・・。』
聞き覚えのある声・・・。
振り返るとカイル、イリヤ、ゲイルの3人がいた。
彼らが身に付けている防具と武器は、
俺が七王道のアインを倒して運営から貰った物と酷似していた。
しかし、鑑定した結果、運営から貰った物とは異なる事が判明。
それよりも―――
「師匠?」
『こいつが?』
俺は、アインに向き直る。
彼は、捕縛の鎖を解こうと暴れていた。
七王道なだけあって、既に魔法が解けかかっている。
『まあ、そんなに魔力を込めてないし、逆にlv90で解けないのはダメだろう。』
「青年。こいつが師匠とはどういう事だ?」
俺は、彼らに説明を求めた。
カイルがオロオロとしているので、代わりにゲイルが説明してくれた。
ゲイルによると、lv上げをしている最中、大型の魔物に襲われたという。
その時、助けてくれたのが、現在捕縛されているアインだ。
彼らは、アインが七王道の1人である事を知り、そのまま弟子入り。
七王道の1人、ドッド・レネゲストを追いながら、鍛えて貰っていたそうだ。
「成程な・・・。」
『道理で、見かけなかった訳だ・・・。』
ここ暫く、彼らの姿を新王都で目撃していなかった。
話しと辻褄が合い、俺は納得した。
「レイダスさんはトーリカの森で何をしてたんですか~?」
イリヤが俺に尋ねる。
「ストレス解消。」
「それで・・・森を破壊ですか?」
「そうだ。」
カイルは、苦笑いしてから項垂れた。
「危険な魔物が暴れていると思っていたのに、
その正体がレイダスさんだったなんて・・・。すみません。」
「謝罪をするなら、俺を魔物カテゴリーから外せ。」
会話に華を咲かせ始めた頃、隣で「バキン!」と砕ける音がした。
俺は、「ようやくか・・・。」と呟いて、そちらに顔を向けた。
《捕縛の鎖》がバラバラに砕け散り、消え去る。
「私を無視するな!」
アイン・ロウネルは、ご乱心。
そして―――
彼は、自分の弟子達に取り押さえられるのだった。
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