表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~石化現象編~
141/218

ガランとフェノールと師


――――次の日――――


冒険者ギルドにガランとフェノールが顔を出す。

相変わらず、フェノールはガランの後ろで無言を貫いている。


「全員元気か!」


ガランは冒険者達に話しかけた。

冒険者達は、ガランの傍に集まり、ガランに挨拶と祝いの言葉を送る。


「ガランさん、おはようございます。

それと、Aランク昇格おめでとうございます。」


「おめでとうございます!」


「おお、ありがとうな!」


ガランは冒険者達の間に入って行き、頭をぐりぐりと撫で繰り回した。


「やめてくださいよ~。」


「はははっ!」


楽しそうなガランの様子をフェノールは暫く黙って見つめていた。


「んじゃあ、祝い酒で盛り上がろう!」


「朝からですか!?」


ガランがそう切り出した時、フェノールが彼の服を引っ張る。


「どうした?」

フェノールは、2階の一室を指さした。


「ああ!そうだった。すっかり、忘れてた。」


ガランは、咳ばらいをして冒険者達に尋ねる。

「ギルドマスターは、いるのか?」


「いえ、受付嬢に尋ねましたが、生憎留守のようです。」


「何処に行ったか聞いてないか?」


「すいません。そこまでは・・・。」


「そうか。だってよ、フェノール。」


ガランはフェノールに顔を向ける。

彼女の表情は先程と変わっていない。

それでも、ガランには彼女の気持ちが手に取るように理解出来た。


「あ~、残念なのは分かるけど、そう落ち込むなよ。

宿代くらい何とかなるって!」


『落ち込んでいるのか・・・。』

冒険者達の気持ちが一致した。


「所持金が無いんですか?」と冒険者の1人がガランに言う。


Aランク冒険者となれば、それなりの依頼は受けられる。

報酬額も高く、宿代に困る事は先ずない。


「武器や防具に金を割いてたら、殆ど無くなっちまった。」


ガランとフェノールの洋服と防具は、グレードが上がっていた。

冒険者達はガランの発言に納得する。


「報酬の受け取りなら、受付嬢に言えばいいのでは?」


「残念だが、ギルドマスター直々の依頼だから、

本人に言わないと貰えないんだ。正直参ったぜ・・・。」


ガランは、肩を竦めて苦笑いした。


「ギルドマスターがいつ帰ってくるか、聞いてくる。

今日中に戻ってこなきゃ、野宿確定だ。」


「分かりました。僕達は、依頼があるのでこれで失礼します。」


「おう、またな。」


ガランとフェノールは、受付カウンターに行く。

今日の担当はクレアだ。


「ギルドマスターがいつ戻ってくるか聞きたいんだが。」


「予定通りに済めば、3週間後となります。」


「3週間!?」


ガランは驚愕し、石のように固まる。

フェノールは、ガランを受付カウンター前から移動させ、

カウンターを2回叩いた。


「どういう事?」と尋ねたいのだろう。


「ギルドマスターより口外するな。と言われておりますので、

申し訳ありませんが、お答えできません。」

クレアは、頭を下げた。


フェノールは頷き、ガランを引っ張って連れて行く。

口外出来ない程の重要な案件――――フェノールは、察したのだった。


冒険者ギルドを後にしたガランとフェノールは、

解体場にいるガラッドを訪ねた。

魔物の素材を換金すれば、多少の金銭を得られる。


所持している数から宿代1ヵ月分にはなる筈だ。

しかし――――


「ざっと、確認したがこんな感じだ。」


「これだけ!?」


ガランは目を見開いて、差し出された用紙の金額に驚愕する。

ガラッドに提示された金額は宿代2週間分。

予想よりも大きく下回った金額なのだ。


「希少価値は高いが、素材の質が良くない。

これじゃあ、誰も買い取らない。よって、その金額だ。」


「マジか・・・。」

ガランは、頭を抱えた。


「レイダスが持ってくる素材は、どれも良い素材だ。

あいつに習ったらどうだ?」


「ああ、会えたらな・・・。」

ガランは力なく、返事する。


ギルドマスター不在、素材の換金金額の低さのダブルパンチに

ガランは意気消沈としていた。


冒険者ギルド同様、フェノールは再度ガランを引っ張って連れて行く。

フェノールはガランを世話するのだった。

それから、2人はいつも泊っている宿屋へと赴く。

一部屋を1週間レンタルし、その間に依頼を受けて、稼ぐ算段だ。


「いつもありがとうございます。」と宿屋の店員はニコリと笑う。


その笑みに、ガランは苦笑する。


宿屋の予約を終えたガランは、外に設けられたベンチに腰を下ろし、

フェノールは、立ったまま辺りを見渡す。


「金って大事なんだな・・・。」


ガランは当たり前を口にする。

自分の金使いの荒さを反省したのだろう。

フェノールはコクリと頷いて、ガランの発言を肯定した。


そして、辺りを見渡し続ける彼女は一点を見つめて硬直する。

フェノールの様子に気付いたガランは、視線の先を眺めた。


視線の先には、胸に大きなブローチを付け、ヒールをはいた女性がいた。

その女性はガラン達に接近する。

女性が歩を進める度に、ヒールがコツリと音を立てた。


白く透き通る肌と紫の長髪は、周囲にいる異性を魅了する。

女性は、微笑んで2人に挨拶した。


「久しぶりね。ガラン、フェノール。立派になったわね。」


「七王道が1人、セレスチアン・アモール。何しに来た・・・。」

フェノールは女性の名を口にし、敵意を剥き出す。


「あら、怖い顔。それじゃあ、男にモテないわよ?」


「質問に答える。」

フェノールの敵意が殺意に変化する。

それに、反応するようにセレスチアンは微笑んだ。


「貴方達に頼み事があるの。」


「頼み事?」


「そっ。私の元弟子(・・・)なら引き受けてくれるでしょう?」


ガランは、立ち上がってセレスチアンに向き直る。


「師匠・・・いや、セレスチアン。

俺達とあんたの関係は、《巫術の小太刀》で断ち斬られている。

何故そうなったのか、忘れたのか?」


「忘れてない。ちゃんと反省しているわ。」


「俺ではなく、フェノールに言ってくれ。

彼女が一番傷ついてる。」


セレスチアンは、フェノールに視線を移す。

フェノールは、殺気をむき出して誤魔化そうとしているが、身体は正直だ。

過去の記憶を掘り起こし、無意識に震えていたのだ。


「フェノール。あの時(・・・)は、ごめんなさい。

愚かな私を許して頂戴。」


フェノールは、ガランの後ろに回り、表情を隠した。


「信用出来ない。私は、貴方を許さない。」


セレスチアンは、自分の嫌われように気を落とした。

それだけの事を彼女にしたのだ。


「それで、引き受けて貰えるのかしら?」


「どうせ、断り続けても付き纏うんだろ。

今回だけ、引き受けてやるよ。」


「ありがとう。」


「それと、引き受ける条件として誓約を結んでくれ。」


「誓約内容は?」


「今後、俺達の前に姿を現すな。」


セレスチアンは、目を伏せて黙り込んだ。

そして―――


「良いでしょう。」

彼女は承諾した。


ガランは、肌身離さず持っていた消費アイテム《血の誓約書》を取り出した。

いずれ、来るだろうこの時の為の物だ。

《血の契約書》の記述を破った者は《即死》が付与され、死に至る。

状態異常と判定されない為、ヒーラー職の蘇生でしか復活は出来ない。


ガランは誓約内容を記載し、セレスチアンにサインさせた。

黒かった文字が赤くなる・・・。これで、誓約は完了だ。


効果は、セレスチアンの頼み事が済み次第発動する。


ガランは、《血の誓約書》をカバンにしまった。

《血の誓約書》は、効果の元となる誓約書が消失した時点で効力を失う。


その為、厳重な保管をしなければならない。


「よし、話しを聞こうか。」

ガランはセレスチアンの頼み事を聞く。


「じゃあ、説明するわね。貴方達にお願いしたいのは、

《ドッド・レネゲスト》と《アイン・ローズウェル》の捜索よ。

お金に困っているみたいだし、報酬を付けてあげる。」


「聞いてたのか・・・。」


「ええ。」

セレスチアンは、得意げに笑う。


七王道(・・・)二人の捜索か・・・。」


「ドッドがフーワールと喧嘩して暴走したの。

アインがそれを追って行方不明。

七王道は、私意外個性が強いから困ったわ。」


セレスチアンは、ため息を吐く。

色気のある吐息にガラン以外の異性は鼻の下を伸ばした。


「し、あんたも大概だ。」


「そうかしら?」

セレスチアンはとぼけた。


それから、彼女は人差し指を立てた。

「あっ。そうそう、捜索には優先順位があるから。」


「優先順位?」


「アンベシャスとカイネがドッドを追ってるけど、《魔眼》には敵わない。

だから、アインを先に見つけて欲しいのよ。あいつなら、ドッドを止められる。」


「難しい事は分からんが取り敢えず、アインさんを探せばいいんだな?」


「そうよ。」


「俺達が捜索している間なんだが、あんたはどうしてるんだ?」


「フーワールを慰める。《七天塔》の隅で未だに泣いてるの。

おちおち眠れないわ。」


ガランはセレスチアンの苦労に少しだけ同情した。

自分がセレスチアンの立場ならどうしていただろうか・・・。


「頼み事というより、本格的な依頼になったがしっかり請け負った。

七天塔で待っていてくれ。」


セレスチアンは微笑む。

「分かったわ。貴方達が好きだったスープを作って待ってるわ。」


セレスチアンは、ガラン達に背を向けてその場を去って行った。

彼女の姿が見えなくなった頃にずっと、黙っていたフェノールが言う。


「なんで?」


その一言に多くの意味が詰め込まれている。

ガランはフェノールに言った。


「《巫術の小太刀》で俺達は自由になった。

だけど、真の自由はまだ手に入れていない。

これで・・・終わりにする。」


いつになく、真剣なガランの手をフェノールは握った。

たった数秒―――

けれど、それで十分だった。


フェノールは手を放し、ガランから離れる。


2人は、残った金を捜索の資金に割り当て行動を開始する。

宿屋の予約をキャンセルした2人はその日、王都を発った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ