ペンダントの謎
俺は、メイサと凛香達がいる部屋の扉をノックする。
「はい。」
と華水が扉を開けた。
彼女は驚いた表情をしたが、直ぐ元に戻る。
「レイダスさん。どうされたのですか?」
「夜分遅くに、すまない。
お前達が探していたメイサという子供に用がある。」
「メイサちゃんにですか?」
「そうだ。」
華水は、室内で凛香と楽しそうに会話するメイサを眺める。
俺に顔を向け彼女は言った。
「明日では、ダメでしょうか?」
「大した用ではないが、早めに済ませたいんだ。」
華水は暫く無言になる。俺は、彼女の返事を待った。
「分かりました。ですが、凛香も同伴でお願いします。」
「承知した。」
華水は、メイサと凛香を呼びに行く。
俺は腕を組んで壁に寄りかかった。
そして――――
メイサと凛香の2人が部屋から出てくる。
凛香は不安そうな表情を見せていた。
メイサに悪態を働くのでは?
と考えているのだろうが、そんな事は一切しない。
話しを聞くだけだ。
「メイサに用事と聞きました。
シャーロット様にご迷惑をお掛けした件でしょうか?」
『何のことだ?』
「いや、これについて聞きたくてな。」
俺は、霊水晶のペンダントを取り出し、メイサに見せた。
「ああ!これ、あの時のお兄ちゃん気づいちゃったの?」
メイサは、最初に会った時のように大人を装わない。
凛香達と合流が出来、本来の自分を出せているのだろう。
そして、彼女の発言から、
俺の洋服に《霊水晶のペンダント》を入れた犯人が彼女本人であると判明した。
「何故俺の洋服に、このペンダントを入れた?」
「冒険者ギルドの受付嬢さんから頼まれたの。」
「頼まれた?」
「うん。冒険者ギルドで捜索依頼を出した時に、
金髪で赤い眼をした人に渡してって。
お兄ちゃんの事だって、直ぐに分かったよ。」
「どんな奴だったか覚えているか?」
「冒険者ギルドの受付嬢さん。無表情でね。
他の人からは、クレアって呼ばれてたよ。」
『クレア・・・。』
俺は、ペンダントを握りしめ「そうか。」と言った。
「クレアから忍び込ませるように指示を受けたのか?」
俺がそう言うとメイサは「うん。」と頷いた。
「受付嬢さんに言われたの。
私からだって、言ったら絶対受け取ってくれないって。
だから、こっそり入れたの。怒ったのならごめんなさい。」
メイサは、反省の意を示し頭を下げた。
「別に怒っていない。お前の判断は正しいさ。」
そう・・・正しいのだ。
クレアからだと言われていたら、受け取りを俺は拒否していた。
冒険者ギルドに関わる者・・・特にリーゼルとクレアには、会いたくない。
「聞いちゃダメかも知れないけど、喧嘩してるの?」
「喧嘩・・・か。」
あれは、喧嘩と言えばいいのか・・・。
すれ違いと言えばいいのか・・・。
答えに困る質問に俺は、頭を悩ませた。
「まあ、そんな所だ。」
取り敢えず、喧嘩と肯定し、メイサに言った。
「それなら、私からレイダス・・・お兄ちゃんにお願いがあるの。
聞いてくれる?」
「願いの内容にもよるが・・・良いだろう。」
メイサは、緊張していた。
その様子を察し、「大丈夫。」と凛香が声をかける。
彼女は「うん。」と頷いて願いを口にした。
「クレアさんに会って欲しいの。」
俺は眉を顰めた。
「喧嘩している理由は知らないけど、
このままじゃ、レイダスお兄ちゃんも受付嬢さんも後悔が残ると思う。
私は、2人にそんな思いをして欲しくないの。」
俺は、目を伏せて無言になった。
後悔?そんなもの沢山してきた。
1つ払拭した所で意味がない。意味がないんだ――――
心の声が表に出ていたのか、メイサが言う。
「意味はあるよ。人は、支えあって生きてる。
1人で生きているような気がしてもそれは気のせいなの。
レイダスお兄ちゃんの隣には狼さんがいるでしょ?」
俺は、ガルムに顔を向けた。ガルムも俺の顔を見つめている。
『支えている・・・。』
「レイダスお兄ちゃんは鈍感で気づいていないだけだよ。
受付嬢さんは、レイダスお兄ちゃんを支えようとしてくれてるよ。
そのペンダントが証拠にならないかな?」
「どうだろうな。」
確かに良心を持つ者はいる。
でも、それに比例するように、邪心を持つ者もいる。
俺は――――
「逃げちゃダメ。」
メイサの一言に俺の身体がピクリと反応する。
凛香は、俺の逆鱗に触れたと勘違いし、不安がっているが全く違う。
俺は彼女に確信を突かれたのだ。
「向き合わないと始まらないよ?」
その一言に俺は、恐怖を抱いた。
『無理だ。俺は他人を受け入れられない。』
「兄を追い、家の都合から逃げている身である
お前に言われる筋合いはない。」
俺は、メイサの言葉に反発した。
そうしないと、俺は俺を保っていられない――――
俺の言動に凛香が怒る。
メイサは首を振って「やめて」と言った。
「そうだね。私に言う権利はないよ。
でも、だからこそ伝えたいの。」
メイサの瞳が揺れる。
泣きそうな表情を浮かべているが、彼女は堪える。
「レイダスお兄ちゃん・・・人から逃げないで。」
俺は、逃げ続けている。
リーゼルから、クレアから、冒険者から、王都から、何もかも・・・。
それは、恐怖が再発してしまったからだ。
『怖い』
自覚しないように・・・只、距離を置いているだけだと言い聞かせ続けた。
二度と味わいたくない―――
メイサは、経験していないから言えるのだ。
何も知らない無知な子供だ。あの恐怖を彼女は知らない。
「はあ~。検討して置こう。」
俺は溜息を吐いて、そう言った。
メイサは前向きに受け取ってくれたんだと思い込み、
笑顔で「うん。」と頷く。
「で、悟りは終わりか?」
俺は、ワザと口角をあげ、顔をにやつかせた。
メイサは顔を赤くし、「わああああ。」と声を上げた。
「ご、ごご、ごめんなさい!」
メイサは頭をペコペコと数度下げる。
年上に偉そうな発言をした自分を彼女は恥じた。
「私からも謝罪させてください。」
メイサの隣にいた凛香も頭を下げる。
「俺から押しかけて来たのだから、謝るのは、俺の方だ。
それと、言い過ぎたと感じるなら、自重すれば良い。」
俺は、そう言って、2人に頭を上げさせる。
「あ!そうだ。レイダスお兄ちゃん。私達もう少し王都に滞在する事にしたの。
もし良かったら遊びに来てね。」
「暇があったらな。」
「気を付けてお帰り下さい。」
「ああ、邪魔したな。」
メイサは大きく手を振って、俺とガルムを見送る。
宿屋を後にした俺の表情は笑っていなかった。




