モンスターパレードpart2
俺は一直線に突っ込んだ。
剣の斬撃と衝撃波で魔物は吹き飛ぶ。
魔物達は、断末魔を上げ次々と死んでいった。
しかし、どれだけ斬ってもどれだけ殺しても魔物はどんどん湧いて出る。
見渡せば、地面や辺りに転がる遺物から植物のように産み落とされていた。
俺は舌打ちをし、魔物の発生源を叩きに行く。
地面から魔物が頭を出した瞬間斬り裂き。
遺物を片っ端に破壊した。
「マジかよ・・・。」
『壊せば、魔物の発生を止められる。』と考えていた俺は、驚愕する。
甘かった――――
攻撃で陥没した端から魔物は生まれる。
魔物の増殖を止められない。それは、延々と戦闘が続く事を意味していた。
俺は魔物を斬り殺しながら考える。
「埒が明かない。」
俺が取った行動・・・それは、この場からの脱出。
本気でやれば、殲滅出来るだろうがスキルや魔法がない現状では、時間がかかる。
俺には、誇りやプライドはない。
魔物から背を向けて逃げる決断した。
スキルや魔法が使えずとも俺にはステータスという武器がある。
壁を蹴り、地上へ戻るなど造作もない。
壁に着地した拍子に、崩れやすそうな部分を砕く。
人工的に発生した落石に魔物達は、潰されていった。
「もうすぐだ。」
地上の光が差し込み、脱出が出来ると確信した瞬間―――
見えない壁に阻まれた。
その壁に触れた俺は、弾かれた衝撃で地面に叩きつけられる。
「がはっ!」
上を見上げれば、透明な壁が一面に張り巡らされ、綻びは何処にもない。
「《条件解放罠》まであるのか・・・。どんだけ凝ってやがる。」
《条件解放罠》とは、
特定の条件を満たさない限り解除されない。
さらに魔法やスキル、武器による物理攻撃を一切受け付けない為、
『FREE』のプレイヤーからは「えげつない。」と言われていた罠である。
「実際、えげつない。」
貴重な隠しアイテムがある場所に自然と生成されるこれは、
今回、神殺しの剣を守る役割を担っている。
《条件解放罠》の解放条件が映し出され、読み上げると以下の内容だった。
「魔物の祭りを殲滅せよ・・・。」
これぞ無理ゲーである。
魔物達に囲まれた俺は態勢を立て直すべく、神殿へと引き返した。
「戦闘開始前もだが、神殿へ近づこうとしないな・・・。」
神殿に魔物除けでも施されているのだろうか?
周辺に漂う神秘的な雰囲気を嫌っているように見える。
こちらとしては、好都合。
俺は、休息を取りつつ、作戦を練るのだった。
――――数分後――――
作戦がまとまり、俺は神殿を出た。
戦った後に分かったのだが、魔物達の数には制限がある。
最大数に到達したら、増殖しなくなるのだ。
まとめて仕留めなければ、魔物の数は増え、一からやり直し・・・。
そこで、活躍するアイテムが、俺の握りしめる縄である。
《錬成合成》によって、合成された縄は、丈夫に出来ている。
『長さが足りるか不安だが・・・。』
勝利の鍵は俺の速度だ。
「いくぞ!」
俺は、神殿を飛び出し壁際を走った。
魔物の噛みつきや爪の攻撃を剣で弾き疾走する。
魔物の祭りの周囲を駆け巡り、
縄で円を作り上げた俺は、縄で魔物を締め上げた。
そして―――
1つの塊となった魔物を剣で両断する。
上半身と下半身に分かれた魔物達は絶命。
上を見上げると《条件解放罠》は、「ジリジリ」と音をたてて、消失した。
縄の長さはギリギリで、正直上手くいった事にホッとしている。
魔物の祭りの殲滅を終えた俺は、
再び壁を蹴り地上を目指す。
戻って来た時には、周辺にあった壁画は無くなっていた。
続きを見れなくて残念だが、こればかりは背負うがない。
俺は、遺跡を出て、深呼吸する。
「やれやれ。」と肩を動かしながら、ログハウスに帰宅するのだった。
―――夢見の森 ログハウス―――
ログハウスに戻った俺は、装備を外す。
「ん?」
整理をしていると、
洋服のポケットから、小さな物体がコトリと音を立てて落下した。
拾い上げるとそれは、クリスタルで作られたペンダント。
金のチェーンにぶら下がるクリスタルは透明で、
内部には白い靄が漂っている。
俺が所持している装飾品アイテムに、このようなペンダントはなく、
怪しさ満点な品だった。
毎朝、洋服と防具、アイテムの確認は欠かさない。
知らぬ間に入っているなんてあり得ないのだ。
俺は、鑑定を発動させる。
―――鑑定―――
霊水晶のペンダント:装飾品/レア度:5/装備者の感情で色が変化。
俺は首を傾げた。
『FREE』に《霊水晶》という鉱石は存在する。
しかし、装備者の感情で色が変化するという効果はない。
《霊水晶》をメインとし、製作して発動する効果は、弱体性向上だ。
合わせる素材によって、変化は生じるが、大半がそれである。
ペンダントに使われている《霊水晶》意外の素材・・・。
一体何と合わせているのだろう?
鑑定で、使用されている素材まで見抜けない事が悔しい。
俺は、今日の出来事を思い出し、記憶を辿る。
『メイサの森で魔物を狩った後、凛香達4人から荷物を受け取り、
ブエノス大森林に足を運んだ。いや、もっと前か?』
俺は、メイサ・クライスターと会話した時を思い出す。
彼女は俺の隣に座っていた。
ペンダントが入っていたポケットは左。
俺の左側に座っていた彼女がペンダントを忍び込ませる事は容易だ。
『何の為に・・・?』
メイサが俺に霊水晶のペンダントを渡す理由―――
それは、当人しか分からない事だ。
俺は、王都へ向かう準備を始めた。
彼女は、捜索依頼を出したと言っていた。
冒険者ギルドの連絡待ちで王都にまだ滞在している筈だ。
凛香達の頼みを断って置きながら、結局探す羽目になった事に気分が沈む。
『蜂合わせた時を想像したくない・・・。説明して納得してくれるだろうか?』
俺は、不安にかられた。
その時、触れていたペンダントのクリスタルが紫に変化する。
「不安は、紫なのか・・・。」
その時、ガルムが俺のズボンを咥えて引っ張る。
「ガルムも行きたいのか?」
「ワフッ!」
俺は頷いた。
ログハウスに戻ってくるまで、ガルムは眠っていた。
恐らく、散歩がしたいのだろう。
「本当に王都が好きだなお前は・・・。」
《空間転移》で俺達は王都に転移する。
日は沈み、深夜遅い時間帯。外を出歩く人間はおらず、とても静かだ。
俺は、《気配探知》を広範囲に発動させ、メイサを特定する。
と同時に俺は、嗚咽を吐きそうな表情を浮かべた。
メイサは凛香達と一緒だったのだ。
宿屋 《赤髪ジャレッド亭》の大きな一室で、彼らは会話をしている。
俺は、《スキル:読唇術》を発動させ、口の動きを観察した。
如何やら、これまでの出来事を互いに話し合っている様だ。
特にメイサと凛香のテンションが高く、非情に盛り上がっている。
その様子に華水と弥勒は微笑み、龍月はいびきをかいて爆睡していた。
話しの話題に俺は出ていないようで、少しホッとした。
俺は、不安な気持ちを抱きながら、宿屋に足を運ぶのだった。




