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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~予兆編~
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会談


「フフフ・・・。」


「どうかしたかの?」


王都の街中を歩く2人。

女の隣を歩く老人は彼女に視線を向ける。彼女の空虚な瞳と口元が笑っていた。

その様子に老人は悪寒を感じるも巧妙に隠して見せる。


「いえ、狩り応えのありそうな殿方を見つけた者で・・・。

興味が湧きました。」


女と老人は、4人の若者を引き連れた男とすれ違った。

業物を腰にぶら下げ、只ならぬ気配を放ちながら、

歩くそれは今までに経験した事のない恐怖を老人に抱かせた。


一方、女は男に惹かれる。

自分より強い男に巡り合う事は滅多にない。

そもそも、女に敵う相手がまずいないのだ。


「お主が良くとも、ワシは嫌だの~。あの者は恐ろしい。

すれ違っただけで手が震え取るわい。」


老人は己の手を女に見せる。


「本当ですね。貴方程のお方が恐怖を抱くとは、増々興味が湧きました。」


女の高揚した様子に老人は「やれやれ。」と首を振る。


「あの男も怖いがお主も怖いの~。」


「フフフ。ご謙遜を・・・。」


老人の言葉を女は謙遜と受け取る。

作り笑いをする彼女を見ていられなくなった老人は帽子で顔を隠す。


『はあ~。誰かこの立ち位置変わってくれんかの~。胃が痛いの~。』


老人の胃がキリキリと締め付けられ、痛みを訴える。

姿勢が前のめりになりかけるが、彼は堪えた。


「それよりもだ。今回、無意味な戦闘は禁止だからの。

ワシがおる間はせんでくれよ。」


「承知致しました。無意味という事は、ちゃんとした理由があれば宜しいので?」


老人はため息を吐く。

「ダメに決まっとろう。」


「それは、残念です。今回だけは大人しくしていましょう。

背後から撃ち抜かれるのは、困りますので。」


「分かっとるなら、いい。」

老人は密かに取り出していた銃をしまった。


「さっさと、用事を済ませて、ドッド(・・・)を追うぞ。

留まり過ぎては、お主が周辺の人間を殺してしまう。」


「あら、私をよく分かってらっしゃいますね。」


老人はフン!と鼻を鳴らす。

「長い付き合いだからの。」


「それでこそ、七王道・・・が1人アンベシャス・モルガノール。」


「言う出ない。お主もワシも今は、只の追跡者に過ぎんのだ。行くぞ。」

老人は早歩きで進んで行く。


「怒らせてしまいましたか・・・。」

老人の様子にそう感じた女は、後を追い、横に並んだ。

彼らは、その日の内に王都を後にするのだった。


―――新王都グラントニア王城内―――


「これで、大丈夫でしょう。痛い所は他に有りませんか?」


「ん~・・・。ないよ!おじさんありがとう!」

メイサはニコリと笑みを浮かべた。


「いえ、それでは気を付けてお帰り下さい。」


「はい!お邪魔しました!」

メイサは頭を下げて、王城から駆け出して行った。


ウェルダンはメイサを見送った。

その後、彼は颯爽と2階へ向かう。


シャーロットとエルフのバランが今も尚話しを進めている。

護衛役の同僚はいるものの、不安はあるのだ。


「姫様、子供の治療を終え、只今戻りました。」


「ありがとうございます。貴方も席につき、参加して頂けますか?」


「畏まりました。」


シャーロットとエルフは相対する形で座り、

その間にウェルダンは座ったのだった。


「それでは、話しの続きをしましょうか。」


バランは、頭を軽く下げてからヴァルハラの現状の続きを語り始める。

護衛やウェルダンは時々、驚きながらも動揺する様子を表に出す事はなかった。


一方、シャーロットは冷静にバランの話しを聞き、内容を記憶する。

旧王都では、一国の姫という立場だったが、今は違う。

王都の全権は彼女に委ねられ、彼女の方針でこの先の未来が決まる。

冷静さを欠き判断を誤る訳にはいかないのだ。


王としての重みを感じながら、シャーロットは真剣な眼差しを浮かべている。


『成長されているのですな。』

その瞳にウェルダンはホッとしていた。


そして、現状を語り終えたバランは本題へ入る。


「内乱の戦火は増すばかり、このままではエルフという種は絶滅の一途を辿ります。

どうか、王都グラントニアからヒーラー職の人間を派遣して頂きたい。」


「それは、出来ません。民の生活は安定しているように見えますが、

その実、精神的不安を抱えています。これ以上の負担を与える訳には行きません。

それは、黒い番犬、冒険者も同様です。」


お人好しで優しい姫様の言葉とは思えない発言に、護衛達は驚いた。


「ですが、我々には他に頼れる国が在りません。

ドワーフの国は滅び、獣人の国は衰弱しております。」


「都合の良い話しです。以前の戦いをお忘れですか?

もし、あの方(・・・)が私達を助けて下さらなければ、今頃、私達は存在していなかった。

それは、紛れもない事実であり、覆す事は出来ません。

貴方に問いましょう。

貴方達エルフに助力したとして私達は何を得られるのでしょうか?」


バランは奥歯を噛みした。

それが答えだ。

バランはヴァルハラの国王ヴェル・フュアレ・三世に

「協力を要請しろ。」とは言われたが、それに見合った恩賞を約束されていない。

つまり、何も得られない(・・・・・・・)のだ。


「ないのでしょう。エルフの国王は、私達を利用しようとしている。

私が望むのは、他種族が手を取り合い助け合うそんな未来であって、

断じて、騙し殺しあう関係ではありません。」


「国王を愚弄しないで頂きたい。」


バランは怒る。

ヴェル・フュアレ・三世に、利用などという考えはない。

信頼がおける側近、バランを送り出している事が何よりの証拠である。

他のエルフであれば、強制的に協力を促した筈だ。


「言い過ぎたようですね・・・。失礼致しました。」

シャーロットは目を伏せる。


「いえ、私も冷静さを欠いたようです。ご無礼を・・・。」

バランは頭を下げた。


シャーロットは間をあけてからバランに言う。

「貴方の態度からエルフの国王が信頼に足る人物と判断出来ます。

ですが・・・やはり、協力は出来ません。」


「グラントニア側にメリットが無いからですか?」


「それもありますが、なにより民達が納得してくれません。」


バランは、北側で人間達を見た。シャーロットの言葉に同意しかない。

王都の事情――――彼はそれを全く考えていなかったのだ。


自国に執着する余りに生じた彼の落ち度。

バランは、自分の醜態に惨めになる。

拳を握りしめ、肩を竦めた。


「メリットに関しては、私が国王と交渉致します。我が命に代えましても・・・。」


シャーロットは言う。

「・・・良いでしょう。」


バランは顔を上げ、シャーロットを真っすぐ見つめた。

「本当ですか!」

バランはシャーロットに聞き直す。


「はい。貴方の誠意は見させて頂きました。

それに、これ以上の意地悪は私に出来ませんから。」

シャーロットはニコリと笑う。


「ウェルダン。民達にバレず、ヴァルハラに行く方法はありますか?」


ウェルダンが2人に提案する。

「あります。極秘裏に行動するのはいかがでしょう。」


「具体的な内容は?」


「少数精鋭の部隊を編成し、夜間に出立させます。

ヒーラー職のみでは些か戦闘時に不安が残りますので。」


「分かりました。その案を採用します。

編成に関しては、リーゼルと相談してください。」


「畏まりました。」


バランはシャーロットとウェルダンのやり取りに呆気をとられる。

『これは夢か・・・?』と彼は疑った。


「と、言う事ですので、ご安心ください。

王都グラントニアは極秘裏に手をお貸しします。」


「感謝致します!」

バランは立ち上がり、深々と頭を垂れた。


「ちゃんとエルフの国王には伝えてくださいね。」


「はっ!」

バランの返事にシャーロットは笑みを浮かべた。

会談は終了し、バラン達エルフは、離れた場所で野営する事となる。


会談終了後――――


シャーロットは、椅子に腰を下ろしたまま、長く息を吐いた。


「私は、国王としてまだ未熟なようです。非情になりきれませんでした。」


力の抜けた声にウェルダンは言う。

「全ての国王が非情である必要はありません。

姫様は姫様の理想を追えばいいと一個人として思っております。」


「フフフ・・・。テペリも同じ事を言っていましたよ。」


「そうですか?」

ウェルダンとシャーロットは、お互い静かに笑う。


「民達にバレたらどうしましょうか?」


「その時はその時で対処すれば宜しいでしょう。」


「あの方が居てくれたら、百人・・・いえ、千人力だったかもしれませんね。」


シャーロットのいうあの方の姿が想像できたウェルダンは、

「はい。」と頷いた。


「一体、何処で何をしているのでしょうか・・・。」

シャーロットは立ち上がり、窓の外を眺める。

外は、一面の緑と青い空に覆われていた。

窓を開ければ、緩やかな風が彼女の髪をなびかせる。


一方、その男は――――――


とある森の地下深くで、モンスターパレードに遭遇していたのだった。

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