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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~予兆編~
135/218

桜華家の4人は男と合流する。


南門から王都へ入国した凛香達は、

宿屋に馬と荷物を預け、二手に分かれていた。


凛香と華水は、レイダス・オルドレイを、龍月と弥勒は、メイサを捜索する。

凛香がメイサの捜索から外されたのは、弥勒の判断であり、

彼女が感情的になる事を避けた。


凛香は渋々承諾し、今に至る。

合流地点を王都の南門に指定し、3時間後に合流予定だ。


「すまない。アッシュグレーの髪をした子供を知らないか?」


「さあな~。他を当たりな。」


「あ!そこのおっさん。和装の子供を知らないか?これくらいの。」


「知らねーよ。」


龍月と弥勒は、住民達に尋ねるが不発。

メイサの手がかりが一向に掴めないでいた。


「ん~・・・。王都に来ていないんじゃないか?」


「どうかな。俺達の聞き込みが甘いだけかもしれない。

場所を変えるぞ。」


「おい!」


弥勒はスタスタと歩いて行き、龍月は後を追う。

龍月と弥勒は、西から北へと移動した。

一方、凛香達は、王都の東側に訪れていた。


「すみません。レイダス・オルドレイと言う方を知りませんか?」


「元SSランク冒険者だろ?この国であの人を知らない人間はいない。」


「元とはどういう意味ですか?」

凛香は首を傾げた。


「そのままの意味さ。噂では、冒険者を引退したと聞いている。」


「その方が、今どこにいるかは存じていますか?」


「いや、知らない。」


「そうですか・・・。」

華水は、残念そうな表情を浮かべた。


彼女達は、住民達に尋ね歩く。

すると、店で買い物をしていた1人の住民から情報を入手。


「さっきまで、この店に居たけど、行ってしまったわ。」


「何処へ行かれたか分かりますか?」


「方角的に、メイサの森じゃないかしら?」


凛香と華水は、互いに見合って頷いた。

そして、住民に頭を下げる。


「ありがとうございます!」


彼女達は、東門を出て、メイサの森に足を踏み入れる。

そこで、彼女達はある光景を目にした。


魔物の群れを相手に剣を振るう1人の男の姿。

男が魔物を斬りつける度、魔物の屍が地面に転がる。

血の海が出来、男はその上を舞い続けた。返り血が男を真紅に染め上げる。


無表情で魔物を殺し続ける様子に凛香は怖気を感じた。

瞬間、男が凛香に視線を向ける。


「っ!?」


『見られた!?』


凛香と華水は、それぞれ木の後ろに隠れる。

華水が凛香に小声で言った。

「あの話は真実かもしれません。」


凛香は頷いて肯定する。

魔物は低lvといえど、数が多い。凛香達4人が相手に出来る数ではなかった。

それを男は1人で相手取る。


『信じない方がどうかしている・・・。』

凛香と華水は木の後ろから戦闘の様子を眺める。


男は魔物から一撃も攻撃を受けない。

それ所か、魔物が怯えて逃げ出そうとしているのだ。

魔物の瞳が恐怖で歪んだ瞬間を男は見逃さない。

尋常ではない速さで間合いを詰め、一閃―――


魔物の身体は二つに分かたれ、遅れて血が噴き出す。

魔物は眼を見開いたまま、横たえた。

斬られた自覚のない魔物がそれを自覚した時、死は優しく彼らを迎え入れた。


男が魔物を相手取る事数分―――


魔物の群れは全滅した。

男は、剣を収めると声を発する。


「出てこい。」


それは、凛香達に向けられた言葉であり、彼女達の肩を震わす。

凛香の後に続く形で、華水が木の背後より姿を現した。


「貴方がレイダス・オルドレイですか?」


「そうだが・・・俺に何か用か?」

凛香の問いに男は、淡々と答える。


「イスガシオのディレットという獣人から荷物を預かっています。」

凛香の発言に華水が頷く。


「荷物?・・・ああ、あれの事か。

それで、その荷物は何処にある?」


「宿屋に預けています。お手を煩わせるようで申し訳ありませんが、

私達と同行して頂けませんか?」

華水が流暢に話す。


「同行せずとも、宿屋の名を出せば事は済むだろう?」


「宿屋の方には、「荷物を預ける。」としか言い含めていません。

同行は必須となります。・・・すいません。」

華水は、言葉の最後に謝罪を加えた。


「では、同行する前にそちらの素性を明らかにして貰えるか?

俺はこう見えて用心深いのでな。」


凛香は息を吐き「分かりました。」と承諾する。


凛香と華水はそれぞれ名を言い、異国の地の名家《桜華家》であると述べた。

男は顎に手を当てながら「そうか。」と返事をする。

2人には無表情な男が何を考えているのかまでは読み取れない。

それでも、少なからず警戒心が解けた事を悟り、姿勢を伸ばした。


「良いだろう。俺は、お前達と同行する。早速、出発しよう。」

男は、返り血まみれで歩き出す。


「その恰好で王都に行く気なの!?」

驚いた事で、自然と普段の話し方に戻った凛香は声を張り上げた。


「ん?ああ、()やらかす所だった。」

男は魔法を唱え、身体に染み付いた血を消した。


「これでどうだ?」


凛香は呆然とした。

それを華水がフォローする。


「良いと思います!さあ、行きましょう。」


華水は、無抵抗な凛香を引っ張っていく。

その後方に男が続いて行くのだった。


道中、華水は「仲間の2人と合流したい。」事を男に伝え、男は了承する。

そして、彼らは南門で合流した。


「凛香、そいつ誰だよ。」

龍月は男を指した。


「そいつとは、躾がなっていない駄犬だな。」


「んだと!?」


「今のは龍月が悪い。人を指さすものではない。」


「物分かりが良いなノッポ。」


「俺は「ノッポ。」ではなく、弥勒です。」


コントのようなやり取りに凛香と華水は呆れ、肩を竦めた。

凛香は咳ばらいをして気を取り直す。


「えー・・・とにかく、宿屋へ向かいましょう。

荷物を渡さないといけないんだし。」

凛香は視線を動かす。


「俺達も自由に活動できるし、その方が良いな。」


凛香達が男の立っていた位置に視線を向けると彼は忽然と姿を消していた。


「あれ?」


周囲を見渡すとスタスタと歩いて行く男の姿がある。


「置いて行くぞ。」


男は4人に振り返るが、直ぐに背を向けた。

4人は慌てて男の後を追う。


「ちょ、待ってください!何故、そちらに向かうのですか?」


「ん?違うのか?」


「違いませんが・・・。」

凛香は口ごもる。


男は、彼女の疑問を察したのか語り始めた。

「お前の視線が一瞬こちらに向いた。

この先にある宿屋は1件だけ、そして安価で宿泊が可能だ。

異国の地から来たお前達に高い宿屋は無理だろうからな。

それでは、答えにならないか?」


「いえ、大丈夫です。合ってます。」


「そうか。」


凛香が視線を動かし、宿屋の方角を見たのは一瞬であり、一度だけだ。

彼女は唾を飲み、男の洞察力が並外れている事を理解した。


そして、男を除き、4人は宿屋に向かいながら会話を始める。

発端は龍月だった。


彼は、華水の肩に肘を置き、軽く揺らす。

「なあなあ、あいつの事どう思うよ?」


龍月の言うあいつとは、黙々と歩く男を指していた。

華水は、それを理解すると同時に、龍月の自分に対する行為に嫌な表情を浮かべる。

彼女は目を細め、軽く龍月の肘を払い落とした。


「そうですね・・・。人間として器に収まっているのが不思議な方です。」


「同感ね。」

男の戦闘を目撃した彼女達は、同じ考えだ。

それと、異なる発言をしたのは弥勒だった。


「俺は手合わせしてみたい。」

言葉を発した弥勒に自然と視線が集まる。

弥勒は、獣人のディレットから話しを聞いてから、手合わせを所望していた。


「本気?」


凛香と華水は、不安そうな視線を送る。

それは、弥勒を心配してのものだ。

異国の地で《桜華家》と互角に渡り合える名家は《クライスター家》であり、

逆に言えば、それ以外は相手にもならないと言える。


その為、《桜華家》実力者の面々は相手を見下しがちになり修練を怠る。

その中でも弥勒は異質だった。

弥勒は《桜華家》である自分を自負しているにも関わらず、

強い向上心に身を窶していた。

彼は、決して自惚れず、黙々と己を鍛え上げ、当主である蜂蓮に次ぐ実力者となった。

只、強くなりたいという純粋無垢な想いが彼を突き動かした結果だった。

その彼の眼前に、強者がいる。

それは、戦いを挑まない理由にはならなかった。


しかし彼は、露出してしまった好奇心や向上心を再び胸の内に秘める。

そう判断したのは、その時ではないからだ。

優先順位を誤り、仲間を危険にさらす行為は愚の骨頂である。

冷静かつ理性で欲を制する―――

それが、桜華 弥勒という男だ。


「本気ではあるが、今は控えよう。

再度、出会う機会があれば、その時に決闘を申し込む。」


不安から解放された凛香と華水が、息を吐く。

一方、龍月は弥勒に不服そうな態度をした。

弥勒とは、根本的に考えは異なるものの、男と戦いたいという観点は同じだったからだ。

龍月の場合は、単に男が気に喰わないからであり、誇りはない。

「イラつくから倒したい。」それだけだ。


弥勒とは正反対の龍月は、舌打ちした。

そんな彼らの会話を離れた位置から男は聞いている。


『聴こえていないと思っているのか?』


後方の声を前方は拾い辛い。

しかし、周囲が気になり、他人に対し敏感な男には、

4人の声がハッキリと聞こえていた。

男は、それを無視する。経験則に則り行動したのだ。


『関りを持てば、やがて身を亡ぼす。』


男は徹底した。

4人は会話を続け、男は、宿屋に着くまで会話を聞き続けた。


数十分後―――彼らは何事もなく、宿屋に到着したのだった。

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