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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~予兆編~
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一触即発


「王都グラントニア国王シャーロット・ツヴァン・グラントニア女王にお目通り願いたい!」


「黙れエルフが!」

「シャーロット様がお前達に会う筈が無い!」

「そうだ!そうだ!帰りやがれ!」


老兵バランの説得も虚しく、人間達の怒りは増すばかり・・・。

エルフ達は、人間達の勢いと迫力に圧倒されつつあった。


『このままでは・・・。』


老兵バランの使命は人間の協力を仰ぐ事だ。

ルーナ―ン、イスガシオに頼れない以上致し方ない状況とはいえ、

人間のエルフに対する恨みは相当な物だった。


無理もない話しだ。

戦争と称し王都へ攻め入ったのはエルフであり、彼らから大切な物を奪い去って行った。

人間達は新王都の暮らしに慣れ始めているが、

それでも、生まれ故郷を奪われた苦しみは計り知れない。


人間達はエルフ達に怒りをぶつけ続けた。


次第に黙っていたエルフ達も人間達に言い返し始める。

奴隷にされたエルフ達の苦しみに比べれば、彼らのそれは、まだまだ序の口だからだ。


一触即発の雰囲気が辺りに漂い始まめ、バランは息を呑んだ。


血は血を呼ぶ。

戦いが消失する事はなく、どちらか一方が完全に消え去るまで永遠に継続する。

人間とエルフはそういう関係にあった。

激しい逆流のうねりに逆らおうとすれば、たちまち巻き込まれる。


『ここまでか・・・。』


バランが諦めかけたその時――――


「お止めなさい!」


透き通る凛とした声がその場を鎮めた。

全員が声がした方向に振り返る。


「シャーロット様・・・。」

「姫様だ。」

「女王様だ・・・。」


住民達は、シャーロットの為に道をあける。

シャーロットの左右には、黒い番犬ウェルダンとギルドマスターリーゼルが並ぶ。

新王都に移住してから彼らはシャーロットの側近という立場にあり、苦労させられていた。

苦ではあるものの、彼らは真剣に取り組む。

それは、王都の民達を想うからこそであった。


「ウェルダン、リーゼル。私は、あのお方と話しをします。」


「了解。」


「承知致しました。」


2人はそれぞれ返事をして、シャーロットから少しだけ距離を取る。

非常事態に備え、彼らは間合いを維持。

適切な位置に着いた彼らは、エルフを率いるバロンを眺めた。

バランは、状況を察し、1人シャーロットの前に立つ。


「ヴァルハラ国王直属近衛兵が1人、名をバラン・アルスールと申します。」

バランは深々とお辞儀する。


「バラン・アルスール。

人間の国、王都グラントニアへ赴いた要件を教えてくださいますか?」


「姫様、この場での発言はしづらいかと・・・。」

そう言ったのは、ウェルダンだった。


「・・・そうですね。では、城で話しを聞きましょう。

兵士の方々には、申し訳ありませんが、この場で待機を・・・。」


エルフの兵達が口を開こうとした時、バランは視線で命令した。

『口を出すな!』

視線から発せられる圧は、尋常ではなく、兵達に悪寒が走る。


シャーロットとウェルダンはバランを連れてその場から去り、

残ったのはリーゼル1人だった。

数分して、リーゼルの周囲には冒険者10名と黒い番犬10名が集結。


彼は、冒険者ギルドを出る前に、招集をかけていたのだ。

リーゼルの指示により、冒険者と黒い番犬は住民達とエルフ達が

余計な真似をしないように見張りを開始する。


しかし、リーゼルは、王命とは言え、乗り気ではなかった。

他人を疑うなど、彼の品位が問われるからだ。


新王都の北側では、静かなピリピリとした空気が漂う。


その頃―――


人気のない場所に設けられたベンチに腰を下ろす男が1人・・・。俺だ。

背もたれにもたれかかって、煙草を一服する。

口から吐き出される煙は、風に流され霧散していく。

そこへ小さな女の子がやって来た。


「あの時のお兄ちゃんだ!」


俺に道を尋ねてきたアッシュグレーの女の子だった。

相変わらず、身の丈に合わない長刀と大きなカバンをぶら下げている。


『重くないのか?』


本人が重いと感じていないのであれば、俺の心配は無用である。


「冒険者ギルドには行けたのか?」


「はい!」


女の子はニコリと笑って、俺の隣に座った。


「捜索依頼を出してきました!見つかるといいなー。フフッ。」


「写真に写っていた男は身内か?」


「はい。私のお兄ちゃんです。突然いなくなって、私は追ってきたんです。」


『お兄ちゃん・・・ね。』


「情報は何処で得たんだ?」


「知り合いの情報屋さんからです。

ヴァルハラから王都へ向かうのを目撃したと聞きました。」


「たった、それだけの情報で王都へ来たのか?」


「はい!」

女の子は満面の笑みを浮かべる。


一方俺は、唖然としていた。

か弱い小さな子供が、1人で出歩くなんて危険すぎる。

魔物にでも遭遇したら一溜りもない。

『危険認識能力が欠如しているのではないか?』と疑いたくなる。


「子供1人で、外を出歩くのは危険だ。せめて、護衛を付けろ。」


俺の発言に女の子は頬を膨らませた。

「私は、大人です!」


「子供」と見られて彼女は怒った。

だが、事実。見た目も中身も彼女は子供だ。

それは、取り敢えずおいて置く。

今は、機嫌を直してもらう方が優先だ。


「侮辱したつもりはない。只、何事にも人数は大事だ。旅も又叱り。」


彼女は、俺の発言が正論であることを認めたらしく、肩を竦めた。


「そうですね・・・。私が不注意でした。反省します。

今度からは、気を付けます。」


女の子の素直な返事に俺は頷いた。

会話を始めて、数分後――――


遠目に人影を発見する。

姫様とウェルダン、そして、エルフの老兵だ。

老兵は兵士を連れておらず、方角的に城へ向かっているようだった。


「あれは、エルフですね。私初めて見ました!」


女の子も3人に気付いたようで、瞳をキラキラと輝かせる。

彼女は、ベンチから飛び降りて、好奇心をむき出しに走り出した。

長刀や大きいカバンを背負っているにも関わらず、

走りにくさを感じさせない身軽さと速度に俺は驚愕した。


ベンチから腰を上げた俺は、彼女を鑑定する。


―――鑑定―――


人間種/《海神の血筋》職

lv/30 名前/メイサ・クライスター


体力/16000

防御/10000

攻撃/14000

速度/12000

持久力/20000

魔力/ 9500

魔力量/15000

魔法適正/A

剣術適正/A


状態:海神の恩恵


鑑定した結果、女の子の名がメイサだと分かった。

そして、職名やステータスも明らかになる。

俺は心の中で首を傾げた。


『《海神の血筋》?』


『FREE』で、《海神の血筋》という職は存在しない。

この世界特有の職だろう。


そして、メイサのステータスがアドラスのステータスを軽く上回っている。

これは、《海神の恩恵》によるものだ。

lvアップで得られるステータス値を大幅に増加する。それがこの恩恵の効果だ。


『フエン達が羨ましがるな・・・いや、嫉妬か?』


俺は、煙草を口に咥え、火をつける。

そして、クルッと反転し、メイサとは反対方向(・・・・)へと歩き出した。


「その手には乗らないからな。」


俺は、早足で歩いて行く。

向かう先は、武器屋、防具屋周辺だ。

聞き耳を立てて住民達の話しを聞いていたのだが、新しい店が出来たらしい。


「店を見た後、久しぶりにメイサの森でも行くか。」


最近、動いていない俺は、身体が鈍っている感じがしていた。

軽い運動をするのも良いだろう。


俺がその場を去った後―――


メイサは地面に転がる石に躓き、顔面を地面に強打。

彼女は地面に倒れ伏したまま動かなくなる。

その様子を見ていたウェルダン、姫様、バランの3人は呆然としていた。

最初に行動を起こしたのは姫様だった。


「大丈夫ですか!?」


「うう~・・・。痛いー。」


メイサは起き上がり、顔を押さえて泣き出した。

ぶつけた箇所は赤くなり、血が出ている。


「ウェルダン、この子も連れて行きますよ。」


「畏まりました。私が城で手当て致しましょう。」


「・・・・・。」


メイサは3人に同行する事になり、城へ向かうのだった。

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