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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~予兆編~
133/218

桜華家の4人


イスガシオから南に行った場所には海があり、

そこでは、漁業が行われていた。

生活が安定してきた獣人達は、生き生きと沖に出る。

そんな中、一際大きな船が来訪する。

黒く、大きなそれは、異国のバルファングの貨物船だった。


そして、砂浜に止められた貨物船から4人の人間が飛び降りる。

華麗な着地に獣人達からは自然と拍手が沸き起こった。


「どうも!どうも!」


4人の内1人が大手を振って、獣人達に笑顔を振りまく。

それを隣に立っていた女が頭を殴りつけて、止めた。

その様子に他の2人は「やれやれ。」と呆れるのだった。


「いってーじゃねーか!凛香(りんか)!」


「うっさい!私達は遊びに来たんじゃないのよ!それをヘラヘラヘラと・・・。」


「まあまあ、凛香そのあたりにして、早くグラントニアに向かいましょう。」


華水(かすい)の言う通りだ。

こうしている間に、ターゲットは移動している。

見失っては、折角の情報が無駄になるぞ。」


「うっ・・・分かったわよ。」


凛香は振り下ろそうとしていた拳を納める。


「なんて凶暴な女なんだ。これじゃあ、嫁の貰い手はいねーな。」


「何ですって!?」

凛香は、再び怒りだす。


「ああ~ん。龍月(りゅうげつ)の馬鹿!」

凛香を挑発する龍月に華水は言った。


「俺は、情報を集めてくる。華水、後は任せた。」


弥勒(みろく)だけずるいです!ああ~!待ってください~!」

弥勒は、華水を無視して、早々に厄介ごとから離脱した。


それを遠目で見ていた獣人は彼らの装備を見て、名家の名を口にする。


「服に刻まれた不死鳥の文様、漆黒の鞘、間違いねえ《桜華家》だ。」


異国の地から名を轟かせる名家《桜華家》は、

クライスター家と並ぶ、実力派揃いのエリートである。

両家の当主は、親友の中であり、

クライスター家の当主、直々の頼みで彼ら4人が派遣された。


4人の中で、凛香は、《桜華家》現当主《蜂蓮(はちれん)》の娘であり、

次期当主の座についている。

桜華家の大切な跡取りである彼女が3人と共に、派遣されたのは、

彼女自らが申し出たからだった。


「凛香落ち着いて!メイサちゃんを探すんでしょう?」


凛香の動きがピタリと止まる。

彼女が申し出た理由・・・それは、友達のメイサを探す事だ。

凛香とメイサは歳が離れている。

それでも、2人は馬が合い仲が良かった。


凛香は、メイサと遊んでいた光景を脳裏で思い浮かべる。

次第に龍月に向けられていた怒りは収まり、目的に戻った。


「そうね。こんな茶番をしてる場合じゃなかった。」


瞼をギュッと閉じ、身構える龍月を素通り。

彼女は、情報を集めに行った弥勒の元へと駆け出した。

その後ろを華水は追う。


「龍月、おいてっちゃうわよ!」


凛香の声で龍月は瞼をあける。

彼は、周囲に3人がいない事を確認し、慌てて凛香と華水を追った。


そして――――


弥勒と合流した3人は、彼から「地図を入手した。」と聞かされる。


「獣人の国イスガシオ・・・。ここから真っ直ぐ北に行った所ね。」


「遠そうだな。」


「俺が集めた情報では、地図にある王都は無くなったそうだ。」


「えっ!?どういう事です?」

3人は驚愕した。


「俺達が来る前に、戦争があったらしい。

ヴァルハラに敗北したグラントニアは移住したそうだ。」


「何処へ?」


「メイサの森近郊。ここだ。」

弥勒は、地図に表示されているイスガシオと旧王都グラントニアの間を指した。


「なーんだ。結構近いじゃねーか。これなら、野宿せずに済みそうだな。」

龍月の発言に弥勒は異を唱えた。


「それは、馬が合ったらの話しだ。生憎、俺達は馬を所持していない。

借りようにも金が足りるか不明瞭だ。」


龍月は項垂れた。

「あー・・・。やっぱダメかあ~・・・。」


「あの、王都へ行かれるのですか?」


そこへ2人の獣人が4人に声をかける。

4人は振り返り、獣人を見た。

黒い毛並みをした獣人男性とスラッとした綺麗な獣人女性だった。


「貴方達は?」


「俺の名はディレット。こっちは妻のキャロルです。」

キャロルは軽く頭を下げる。


「実は、貴方達にお願いがあります。」


「お願い?」

凛香は首を傾げた。


「はい。馬を貸す代わりに、これを王都のある人物へ届けて欲しいのです。」

ディレットが彼らに手渡したのは、大きな木箱だった。

身長の高い弥勒が木箱を受け取る。木箱はずっしりと重く、バランスを崩しかけた。


「聞いてはいけないと思いますが・・・中身は?」

華水がディレットに尋ねる。


「ああ、心配するのは当然か。中身は只の野菜さ。安心してくれ。」


「野菜?」

龍月が首を傾げる。


「はい。イスガシオで取れた野菜の1割をその方にお渡ししたいのです。

この国を救って頂きましたから。」

キャロルが優しく微笑む。


「それで、渡したい人物と言うのは?」


「レイダス・オルドレイ。王都を救い、我々獣人を救った英雄だ。」


ディレットの大それた発言に4人は言葉を失くす。

それを気にも留めず、彼はレイダス・オルドレイの英雄譚を語ったのだった。


ディレットが語り終える頃合いを見て、キャロルが馬を連れてくる。

どの馬も大人しく賢い。

4人は馬にまたがり、ディレットは、弥勒が乗る馬に木箱を縄で括り付けた。


「それじゃあ、よろしく頼む!」


ディレットとキャロルは、4人を見送った。

北へ北へと進み、2人が見えなくなった頃―――


「あの話・・・本当だと思う?」


馬の足音しか聞こえない中、口を開いたのは凛香だった。

ディレットの語る英雄譚に半信半疑の凛香に弥勒は言う。


「さあな。会ってみない事には分からない。

だが、あの獣人が語った偉業が誠なら、相当な手練れ。

俺は手合わせをしてみたい。」


「俺は、嘘だと思うな。ぜってーありえねー。」

龍月は、ディレットの言葉を思い出して、首を振る。


「世の中、異国の地が全てじゃないわ。

私達に並ぶクライスター家があるように、この地にも強者はいる筈。」

凛香の発言に3人は首を縦に振った。


「はっ!」


4人は、馬の速度を速め、王都へと向かって行く。

凛香が思い浮かべるのは、先に待ち受ける苦難ではない。

あの頃の日々をこの手に――――


『待っててねメイサ。』



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