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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~予兆編~
130/218

男がいない王都


俺が王都を発ってから2日目の朝。

リーゼルは、鬼の形相で俺を探し回っていた。


「何処だあああ!レイダスウウウウウウ!」


住民達は、リーゼルの傍迷惑な行為に嫌気が指していた。

彼の騒がしさに目を開け、耳を塞ぐが、彼の声量が勝り、声が耳に届いてしまう。

それでも、彼に文句を言わないのは、

ギルドマスターの役職に就く、彼の苦悩を理解しているからだ。

「多めに見てあげよう。」という住民達の優しさにリーゼルは気づかない。

目先の出来事に精一杯で、視野が狭まっている彼に「気付け!」というのは酷な話だ。


リーゼルは店と言う店に訪れ、俺の名を出す。

住民達は、リーゼルの迫力に圧倒されながら、首を横に振った。

彼らが首を横に振る度、リーゼルの表情は曇って行く。

そして―――――


「はあ~~~・・・。」


リーゼルは人気のないベンチに腰を下ろした。

彼は深いため息を吐いて、項垂れる。

項垂れながら彼が思い浮かべたのは、俺の背中だった。


リーゼルは俺を信頼しているし、尊敬している。

その人間が突然、冒険者の引退を表明し姿を暗ませた。

ギルドマスターの立場なら、個人の意思を尊重し俺を引き戻そうなどと考えない。

これは、彼の個人的な想いだ。


「納得できる訳・・・ねーだろうが。」

歯を噛みしめ、拳を握る。


表明時にいなかった自分をリーゼルは責めた。


「まだ、礼すら出来てねーのに・・・。」


彼は悔しさに身を焦がす。

残念で仕方ない彼だが、リーゼルは立ち止まっていられなかった。

役職とは面倒な物で、時に感情を捨てなければならない事に、

彼はため息を吐いた。

些細な出来事を気にしている余裕は彼にない。

ベンチから重い腰を上げ、冒険者ギルドに彼は戻って行く。


日々溜まっていく書類。

シャーロットから送られてくる重要案件の数々。


デスクワークが苦手なリーゼルに、吐き気が襲った。

やりたくないが、やらないといけないという自覚はある。

しかし、苦手は苦手であり、性格上の問題は克服し辛い。


視界に冒険者ギルドの扉を捉えたリーゼルは、扉を開ける。

1階の冒険者達は通常通り、依頼を受注し装備品の確認をしていた。

日頃なら雑談に華を咲かせている彼らだが、最近ではそれがとんと減った。


静かに準備を整えるその光景に、リーゼルは眉を顰める。

俺が冒険者を引退して以降、上の空な冒険者達・・・。

その中でも元気があり、活発的な冒険者はガランとフェノール位だ。


リーゼルが2階へ上がる際、3人の冒険者が、ギルド内に足を踏み入れる。

すると、冒険者達はその3人を睨みつけた。


リーゼルは首を傾げる。

「なんだ?」


その3人がきっかけで俺が冒険者を引退した事をリーゼルは知らない。

リーゼルの目と彼らの目が交差する。

彼らは、ギルドマスターであるリーゼルに軽く頭を下げ、リーゼルも軽く頷いた。

リーゼルと3人の冒険者とのやり取りはその程度で、

彼は部屋に籠って、仕事を始めるのだった。


「ココが冒険者ギルドですか?」


そう言葉を発したのは、小さな女の子だった。

3人の冒険者の背後からひょっこり顔を出した女の子は1階の中央に立つ。

設備の充実した冒険者ギルドに彼女の瞳は輝いていた。


「ええ、そうよ。」


3人の冒険者の1人アリエスが彼女の発言を肯定する。

小さな女の子は3人に振り返って頭を下げた。


「案内してくれて、ありがとうございました!」


礼儀正しい女の子に、フエンとルドルフは照れる。

異性にお礼されると嬉しいのは、当然だ。正し、俺は例外だ。


「ああ、無事ついて良かったな。」


「えへへっ、はい!」


「あそこにいる受付嬢さんに尋ねると良いよ。」


「わかりました。行ってきます!」


小さな女の子は、受付嬢の元へと駆け出す。

彼女が、今になってようやく冒険者ギルドに辿り着いたのは、方向音痴が理由だ。

違う道に進んで迷子になった彼女をフエン達が保護。

宿屋で1泊してからギルドに訪れたのだった。


「あの、すみません!」


「はい。どうされましたか?」


女の子の背丈では、カウンターに手が届かず、

それを察した受付嬢は女の子の隣に立つ。


「この人、知りませんか?」


小さな女の子は、1枚の写真を取り出す。


「う~ん。調べてみますので、少々お待ちください。」


受付嬢は、カウンターへ戻り、いくつもファイルを開く。

彼女がファイルを捲る度、ペラペラと音が鳴る。


「クレア。手伝ってくれないかしら?」


「畏まりました。棚を見てきます。」


「お願いね。」


調べる事数分――――

受付嬢が女の子の隣に立ち、告げる。


「申し訳ありません。写真の方の情報は、冒険者ギルドでは管理されておりません。

冒険者であれば、何らかの情報は手元にあるのですが・・・。」


「そうですか・・・。」


小さな女の子は落ち込んだ。

「冒険者ギルドなら・・・。」という言葉を頼りに来た彼女にとって、

受付嬢の言葉は深く突き刺さる物だった。


「写真の方はお兄さんですか?」


「はい。優しくて、頼もしくて・・・大好きなお兄ちゃんです。」


小さな女の子は、写真を優しく抱きしめた。

兄が映った写真は、彼女の大切な宝物だ。


「・・・試しに、捜索依頼を出してはいかがでしょう。」


「捜索依頼?」


小さな女の子は受付嬢の提案に首を傾げた。


「はい。お兄さんの情報が無いのであれば、探せばいいのです。

多少、お金はかかりますが、どうですか?」


「・・・分かりました!お願いします!」


小さな女の子は、受付嬢の提案に乗り、酒場の席で手続きを始めた。

依頼内容の記入、依頼主のサイン・・・と段取りを踏んで行く。

最後の手続きとして、

小さな女の子は、報酬のお金を取り出し、テーブルに置いた。


「これで足りますか?」


高ランクの冒険者に依頼する場合の金額は高い。

小さな女の子の所持する金額では、低ランクの冒険者が限界だった。

だが、今回の依頼は、捜索依頼。

危険な場所に赴いてさえいなければ、至って安全な仕事である。

受付嬢は頷き、「大丈夫です。」と女の子の心配を拭った。


小さな女の子の表情は明るくなる。


「早速、こちらの依頼を貼りだそうと思います。

依頼達成の報告がありましたら、

ご連絡いたしますので暫くの間は、王都で滞在して頂けると助かります。」


「分かりました!宜しくお願いします!」


こうして、掲示板に新たな依頼が張り出され、

写真の男の捜索が開始されるのだった。


依頼内容:レイヴン・クライスターの捜索

特徴:黒髪で長髪、長刀を所持、和装、背が高い

依頼主:メイサ・クライスター

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