表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~予兆編~
129/218

鍛冶師バルマン・ローニ


俺とガルムは、アルに案内されて《ドルマー二》という店を訪れた。

アルの言う腕利き鍛冶師がいる店で、

店の扉を開けると凄い熱気が伝わってきた。


『まるで、サウナにいれられた気分だ・・・。』


俺は《耐熱》スキルを発動させる。


店の中は薄暗く、進んで行くと、鉱石の山と試作武器の山を発見した。

鉱石の山は様々な種類で構成され、七色の輝きを放っている。

試作武器は主に、大剣、片手剣、刀の3種類しかなく、刀身が剥き出しになっていた。

俺以外の奴がここを通行する場合は、危険極まりない。


「バルマン!いたら返事をしてくれ!」

アルが声を張り上げるが、返事はない。


俺達は店の奥へと更に進んで行く。

赤い光と共にハンマーの叩く音が次第に大きくなる・・・。

店の奥には鍛冶師用の窯が置かれており、その前には1人のドワーフが鎮座していた。

火のついた窯を黙って眺めているその姿はまさに職人。


窯の中の鉱石を取り出し、ハンマーで叩く。

叩くたびに赤い火花が散る。

魂が・・・注ぎ込まれる。


武器製作スキルを所有する俺には不必要な工程ではあるが、

惹かれる何かがあった。

鉱石は工程を経て徐々に変形し、刀身へと変わっていく。

最後に職人は刀身に魔力を込めた。

職人の身体から魔力が流れ出る。それが、刀身の周囲を漂い、吸収されていった。


銀の刀身に魔力の輝きが帯びる。

職人は、そこで一息つきこちらに向き直った。


「聴こえ取るわ馬鹿垂れが!」

彼からの第一声がそれだった。


アルはそれを気にせず、俺に彼を紹介する。

「レイダス。こいつが腕利きの鍛冶師バルマン・ローニだ。

ドワーフの国でこやつは有名でな。見ての通り、作業中は手を離せん。

そして、邪魔をすると怒鳴られるから()は気を付けるといい。」


『責任転嫁!?』


「ほう。お前さん、良い眼をしとるな・・・。」


「!?」


気が付くと、バルマンが椅子から立ち上がって、俺の足元にいた。

『眉間に皺を寄せて、俺の目を見て・・・るのかこれ?睨みつけてないかこれ?』

バルマンは鬼の形相で俺を見ている。

背後から「ゴゴゴゴッ!」という幻聴が聞こえてきそうだ。


「ん?」


バルマンは不意に視線を移す。

彼の視線の先には俺の片手剣があった。


「鍛冶師は、何処まで行っても鍛冶師なんだな。」

俺は、鞘ごと片手剣をバルマンに手渡した。


彼は即、鞘から剣を抜く。

刀身の先を天井に向け、先端からゆっくり下へと視線を移す。

顔つきは、真剣そのもの―――


「こりゃあ・・・見事だ。」

バルマンは、目を点にさせた。


彼は剣を鞘に納め、俺に返した。

「お前さん名は?」


「レイダス・オルドレイ」


「レイダス・・・お前さんがその剣を作ったのか?」

俺は眉を顰めた。


「いや、これは貰い物だ。」


「そうか・・・。」

彼は声のトーンを落とし、頭をかく仕草をした。


「お前さん、暫くこの国におるのか?」


「ああ。この国に来て、まだ初日だ。

アルが案内役として同行してくれるらしいし、のんびりするさ。」

俺は視線をアルに向けた。

彼は頷いて、案内役である事を肯定する。


「・・・会って早々気を悪くすると思うが、頼みがある。」


「なんだ?」


「その剣を・・・滞在中の短い期間でいい。ワシに貸してくれないか?」

バルマンは真剣な目で俺に言う。


彼の様子に、アルは驚いていた。

プライドの高そうなドワーフだとは思っていた。

アルの反応から、それを確信する。


「理由は?」


「鍛冶師の高みを目指したい。」

即答だった。


だが、大切な武器を貸すには抵抗がある。

素材があれば、武器製作で武器は作れるが、素材は有限。

無駄な消費は控えたい・・・。


「バルマンは、信用出来る。ワシが保証しよう。」

アルの言葉をきっかけに、

俺は、片手剣をバルマンに手渡した。


「滞在期間中だけだ。それまでの間、代わりの武器を所望する。」


「フフフハハハ・・・ワシ()きの武器で良ければ、いくらでも持っていけ。」


バルマンは、試作武器の山の一番上を指さした。

そこには、渾身の力作があるという。


『どうやって取れっていうんだ・・・。』


下手に触ると崩れてしまう。俺は仕方なく魔法を唱えた。

《重力》でバルマンの力作は俺の手の中に納まる。

鞘と柄は銀の装飾、柄にぶら下がる銀のチェーンが印象的だった。

刀身は七色で、同じ色を浮かべる事はない。


「刀身に《七欲鉱石》、《アダマント鉱石》を使用。強度は、十分だな。

柄の色合いからして《海龍の鱗》か・・・。

討伐難易度を考えると《スウェンメルの表皮》が妥当かもな。

鞘も特別頑丈・・・《龍の牙》と《白貝》を合成させていると見た。

申し分ない品だ。気に入った。武器名を教えて貰えるか?」


俺は、バルマンに尋ねる。

しかし、彼は呆然と固まっていた。アルの方も同様だ。


遅れてようやく俺は理解した。

『やばい・・・。しゃべりすぎた。』


武器の製作に使用した素材は鑑定では見抜けない。

つまり、彼らは俺の洞察力の高さに驚愕しているのだ。

俺が《FREE》で培ってきた長年の経験と勘と言えばいいだろうか?

素材によって、色艶等、武器に現れる特徴がある。

俺はそれを熟知していた。


武器は、性能を重視して選ぶ方がいい。本来、武器とは敵を屠る道具だからだ。

その為、外見は殆ど後回しにされる。


それでも、外見を気にしてしまうのは、

プレイヤーとしての(さが)であり、欲でもある。


性能も良く、外見も良く、平均的高い水準を維持して置きたいと思う。

それは、自身が望むキャラクターを生み出したいという願望だ。

強いが、外見がダサいキャラクター・・・俺は断じて操作したくない!

よって、俺は武器や防具等に関する知識を豊富に蓄えた。

プレイヤーとして、思い描く最強のキャラクターを作り上げる為に―――


「・・・《銀翼のアルカトラズ》それが、その剣の武器名だ。」

バルマンの言葉に「そうか。」と返事をした。


「俺は行く。身体を壊すなよ・・・ご老体。」

俺とアルは、出口に向かって歩き出す。


「フハッ。後世に名を遺すまでは、簡単に倒れん。」

俺は振り返る事なくフッと笑った。


ドルマ―二を後にした俺達は、外を歩く。


「次は、何処が良い?」

アルが俺に尋ねる。


「そうだな。素材を売っている店に行きたい。

国によって、素材の値段は異なるからな。安い物があれば、購入したい。」


「分かった!では、ダングレスト広場へ行こう。

あそこなら、素材が安く手に入る。まあ、それは明日に持ち越しだがな。」


アルは空を見上げた。

外はすっかり冷え、日が落ちていた。


「まずは、宿屋が先って事か。」


「そういう事だ。安くていい宿屋も知っとるから紹介しよう。」

アルの後ろに俺とガルムはついて行く。


『ドルマ―二にそんな長い時間いたのか?』

俺は顎に手を当てた。


「無自覚のようだな。」

アルが顔をこちらに向けていた。


「腕の良い鍛冶師が武器製作に要する時間は3日。

刀身、柄、鞘にそれぞれ1日かける。

バルマンは、刀身の製作が得意でな。半日程で完成させてしまうが、

半日と言っても、最初から最後まで工程をじっくり見ていれば、日も暮れよう。」


アルの言葉を肯定するなら、

俺はそれだけ鍛冶師の作業に魅了されていた事になる。

製作は嫌いではない。だから、否定はしない。


「没頭する者は時間を忘れる・・・か。」


「そういう事だわい。」

アルは笑い声をあげた。


こうして、ダングレスト広場は明日に持ち越しとなり、俺達は宿屋に泊まった。

部屋は、他種族にも合わせて設計されているのだろうが、天井が若干低い。


アルはいびきをかきながら、眠っている。

いびきの五月蠅さに耐えかねた俺は、カーテンを開け、窓越しに外を眺めた。


カバンから《酒瓶》を取り出し、コルクを外す。

一気に半分程飲み、口元を拭った。


深夜遅い時間帯だというのに、店には明かりが灯っている。

小さな点がフラフラしながら、移動する様子に俺は、静かに笑った。


「平和だな・・・。」


俺の中の何かが囁く―――『消える。』


いつか消える光景。いつか消える生命達。

平和に意味はなく・・・一時的な逃避、己の保身を優先する愚かな存在。

生かす価値が無い。生かす意味がない。


俺の中の何かが囁く―――『滅ぼせ。』


全てを無に・・・。

命は尊く、死は救いである。

(オレ)には、その権利がある。


「俺は・・・まだ・・・。」


俺は、眠気に襲われた。


顔が熱い・・・。視界が揺れる。

手から力が抜け、酒瓶を床に落とした。

酒瓶に残っていた酒が零れて、床の上に引かれていた絨毯を濡らす。


『あれ・・・?酒が回ったのか?』


俺は、酒に酔わない。

それは、実証済みである。

試しに鑑定を行った結果、驚愕の事実が発覚する。


「なんだ・・・これ?」


俺は、ふらつきながら自分のベットへ戻る。


「一度、冷静に・・・落ち着いて・・・。」


ベットに戻った俺は、そのまま爆睡した。

次の朝には、鑑定結果を忘れ、覚えのない頭痛に悩まされるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ