男はドワーフを掘り出す。
―――古代砂漠―――
強い日照りと乾いた大地に体力を奪われる。
それは、地形ダメージに左右されればの話しだ。
俺とガルムは、砂漠を歩く。
地に足を付けるたび、足首まで砂に埋もれる。
力が入れ辛く、砂から足を上げようとすると、引っ張られる感覚に襲われた。
ガルムを見ると、舌を出しており、荒い息を上げている。
この地帯の地形ダメージを無効にするスキル《耐熱》をガルムは所持していない。
古代砂漠に足を踏み入れて4時間・・・。
ガルムの体力が限界に近づいていた。
「ガルム。もう少し歩いたら休憩しよう。」
魔物の素材と欲しいアイテムは入手した。
後は、ルーナ―ンに向かうだけ・・・。
俺とガルムは、砂の山を登り辺りを見渡す。
南西の方角、500mの距離に巨大な岩を発見した俺は、日陰で休む事にした。
巨大な岩に向かって一直線に歩いて行くと、砂の中に変な物体を捉える。
距離を縮めていくと意外と大きく、俺の半分位はあるだろうか・・・。
『レアなアイテムだと嬉しいな。』
少年のようなワクワク感を抱きながら、試しに掴んで引っこ抜いてみる。
すると、引っこ抜いた拍子に砂が舞い上がり、気管に侵入。
「ゴホッ!ゴホッ!」
俺は、侵入した砂を外部に吐き出すべく、咳き込む。
少し涙目になったが、落ち着いた俺は、改めて掘り出した物体を凝視する。
「ドワーフじゃね?」
小さい身体に顎から生える長い髭、先端の尖った帽子は正しくドワーフだった。
腰当たりには、安物のピッケルと小さなカバンをぶら下げており、
開けてみると鉱石がいくつか入っていた。
「死んでるのか?」
片手でドワーフを回転させて、呼吸をしているか確認する。
すると、ドワーフはカッ!と目を見開いた。
「どわあああああああ!?」
「うおああああ!?」
ドワーフの叫び声に俺は驚いて、掴んでいた手を放した。
小さい身体が地面に落下し、彼は慌てて岩の後ろに隠れた。
岩からチラリと顔を覗かせ、俺とガルムを彼は凝視する。
「貴様ら何者だあああ!?」
『それは、こっちの台詞だ!突然、目を覚ましたかと思えば、驚かせやがって!
心臓が止まるかと思ったじゃねええかああ!』
「むお!?消えおった!」
『背後だ馬鹿め。』
俺は《瞬間移動》を使用し、ドワーフの背後に回った。
そして、襟元を掴み上げる。
「な!?は、放せえええ~!」
ドワーフは、腕と足をじたばたと動かすが俺に全く届かない。
『小さいって不自由なんだな。』と思う俺である。
俺は、再びドワーフを回転させ、面と面を向い合わせる。
「掘り出してやったのに失礼な奴だな。
抵抗を続けるなら、魔物の餌にしてやるぞ?」
脅しが効いたのか、ドワーフは大人しくなった。
小さい身体がさらに小さく見える。
「すまん・・・。もう、暴れんから降ろしてくれ。」
両手の指をツンツンとつき合わせる仕草をするドワーフを俺は下ろした。
ドワーフは、地面に座り込んだまま動かない。
その隣に俺とガルムは腰を下ろした。
「む?」
ガルムに体力回復の消費アイテム《ポワルの実》を与え、
ガルム用の水筒をカバンから取り出した。
舌で器用に水分補給するガルムを眺めていたいが、
今はドワーフに事情を尋ねるのが先だ。
「何故埋まっていたんだ?魔物か?遭難か?」
「む~・・・。」
ドワーフは、眉間に皺を寄せて悩む仕草をする。
「事情を言いたくないのであれば、それでもいい。
取り敢えず、お前も飲め。」
俺は、カバンから自分用の水筒を取り出し、ドワーフに投げ渡す。
魔法で水を生み出せる俺は、水に困らない。
「おお。ありがたい!」
ドワーフは水筒の蓋を外すや否や凄い勢いで飲み始める。
1分も立たない内に水筒は空になり、空を返された。
『ためらわないのか?』
「いや~。水なんぞ久しぶりに飲んだわい。」
干乾びていた筈の皮膚に潤いが戻り、ドワーフは元気を取り戻した。
「で、事情を話してくれるのか?」
「お主に助けられたのは事実。話そう。その前に、自己紹介だ。
ワシの名は、アル・バレス。ルーナ―ン出身の採掘士だ。」
「俺はレイダス・オルドレイ、旅人だ。こっちは、従魔のガルム。
俺達は、採取と採掘、観光目的でここに来た。」
「そうか。恰好と種族からして、王都出身者か?」
「・・・そんな所だ。」
アルは、事情を説明する。
彼は《バレル結晶》の採掘で、古代砂漠に足を踏み入れたらしい。
慣れた地形―――
慣れた日差し―――
周辺に詳しく、迷う事はまずない。
油断をしていた彼は、偶然にも砂嵐に遭遇したという。
方向感覚を失った彼は、1週間、砂漠を彷徨った。
消費アイテムは底を尽き、
体力を奪われ力尽きた彼は、通りがかった俺に救助された。
―――という流れだ。
「バレル結晶と言えば、《銃》製作には欠かせない鉱石だったな。」
「お、レイダスは、鉱石に詳しいのか?」
「まあな。そう言うお前は、銃でも製作するつもりだったのか?」
アルは首を横に振る。
「いや、ワシは採掘士であって、鍛冶師ではない。
バレル鉱石は、店に高く売れるからいわば、食い扶ちだわい。」
「そうか。ドワーフは武器製作に長けていると聞いていたから、
てっきり、自身で武器を製作するとばかり思っていた。」
「なーに。ワシは武器を作れんが、知人のドワーフは腕利きだ。
並の鍛冶師よりは良い物を作るぞ。」
アルは、腕にぐっと力を入れて見せる。
「近々、その腕利きに会ってみたいものだ。」
「それなら、ワシに着いてくるか?」
アルは、立ち上がった。
「良いのか?」
「ああ。恩人だし、何より悪い人間には見えん。
仲間もお主を歓迎してくれるだろう。」
アルは、二カッと笑みを浮かべる。
『悪い人間には見えない・・・か。』
休憩を終えた俺達は、早速出発した。
砂に足を取られながらも、着実に目的地に近づいていく。
途中、魔物に遭遇するも難なくこれを討伐し歩を進めた。
「レイダスは強いな。ワシでは、返り討ちにあってたわい。」
確かに、アルのlvとステータスでは魔物に返り討ちだった。
俺は、剣を収めて彼に尋ねる。
「ドワーフは、戦闘をしないのか?」
「ああ。戦闘は極力避けて通る。ワシらは戦闘を好む種族ではないからな。」
アルは魔物を枯れ木の枝で突きながら言う。
「武器製作には、魔物の素材も必要になるだろう。
それは、どうしているんだ?」
「他国から輸入しとる。ワシらは魔物の素材を輸入する見返りとして、
製作した武器や鉱石を輸出する。同盟国のヴァルハラがそうだな。」
『そうなのか・・・。』
俺は顎に手を当てた。
「それよりも、ルーナ―ンのある方角から大分逸れているが、何故だ?」
「む?もしかして知らんのか?」
俺は首を傾げる。
「どういう事だ?向かっているのは、ルーナ―ンじゃないのか?」
アルは、「あちゃー。」と額を叩いた。
理解が出来ていない俺は、彼に説明を求める。
「ワシらの国は、変な集団に襲われてな。場所を移したんだ。」
彼は言う。
俺がヴァローナを追っていた以前の話しだ。
ルーナ―ンは、いつものように活気に溢れていた・・・。
鍛冶師がハンマーで鉄を叩く音――――
昼間から豪快に酒を飲むドワーフ達の笑い声――――
平和な日常を送っていた彼らは、悲劇に見舞われるなんて思いもしていなかった。
それは、突然訪れる。
ハンマーの音を掻き消す銃声――――
ドワーフ達の叫び声――――
逃げ惑う彼らの中にアル・バレスというドワーフも混じっていた。
襲撃者達の、蟻を見つめるかのような冷たい瞳に悪寒が走る。
戦闘が得意でない彼らは、「逃げる。」を選択した。
ひたすらに、がむしゃらに、只逃げた・・・。
最後まで地上にいたドワーフは死に体となり、
国の地下に張り巡らされた地下道へと逃げ込んだドワーフは生き延びた。
アルもまた、地下に逃げ込んだ1人であり、今でもあの恐怖は忘れないと言う。
後に、逃げ延びたドワーフ達は、新たな国を建国。
以前の襲撃から学習し、外部からは視認出来ないようにしているらしい。
「勿論、ワシらドワーフには見えとる。もうすぐ、そこだ。」
アルの視線の先に、国があるのだろうが、俺の視界にそれらしき物は映っていない。
一面砂漠が広がっているだけだ。
《探知》の発動もしているが、遮断されているようで全く反応が無い。
そこで、俺はあるスキルを発動させる。
「《スキル:看破》」
《看破》は、隠蔽効果がある物体を視認出来るようにするスキルで、
《FREE》をしていた時には、お宝探しなどで非常に役に立った。
そして、このスキルの利点は、他のスキルや魔法にも働くという事だ。
《探知》に生命反応があり、俺の目にドワーフの国が見えている。
大きさは、新王都と同じ位で煙が上がっていた。
恐らく、鍛冶師が武器を作っているのだろう。
「成程な。ドワーフは《看破》を生まれ持って所持している。
他の種族には気づかれないだろうな。」
俺は素直に称賛した。
「お主、もしや見えとるのか!?」
「安心しろ。見えてはいるが、機密情報に関しては口が堅い。」
アルは、豪快に笑った。
「ガハハハッ!良いだろう。お主を信じる。
では、行こうか。」
アルの後ろに俺とガルムはついて行く。
「アル・バレスだ!門を開けてくれ!」
彼は、門の上に顔を向ける。
塀の上には、槍を持ったドワーフがおり、俺を見るや否や彼らは警戒した。
「何故人間と一緒にいる!?」
「砂漠で倒れている所を助けて貰った。悪い人間ではない。
何でも、ワシらの国を観光しに来たそうだ。」
「ん~。アルが言うのなら、間違いないんだろうな。・・・よし!通れ!」
アルの説得で、門が開けられる。
俺は、視線をアルに向けた。
『信用されているんだな。』
《FREE》のドワーフは、同胞達と騒ぐ行為が好きで、
友人が多いという設定だった。
この世界でもそれは、健在なのかもしれない。
俺達は門を通り抜けた。
アルは、両手を広げて俺の方に向き直る。
「ようこそ、ワシらドワーフの国へ!」
アルは、俺とガルムを歓迎する。
規模は小さくなったらしいが、鍛冶師が鉄を叩く音、ドワーフ達の笑い声、
謎の襲撃者達によって失われたかに思われた活気がそこにあった。
ドワーフは豪快で陽気な種族――――
アルだけでなく、他のドワーフ達も俺とガルムを歓迎した。
片手に酒の入ったジョッキを持ち、一気に飲み干す。
その空気に呑まれた俺もつられて笑う。
俺は、ドワーフの国へやって来た。




