表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~予兆編~
128/218

男はドワーフを掘り出す。

―――古代砂漠―――


強い日照りと乾いた大地に体力を奪われる。

それは、地形ダメージに左右されればの話しだ。


俺とガルムは、砂漠を歩く。

地に足を付けるたび、足首まで砂に埋もれる。

力が入れ辛く、砂から足を上げようとすると、引っ張られる感覚に襲われた。


ガルムを見ると、舌を出しており、荒い息を上げている。

この地帯の地形ダメージを無効にするスキル《耐熱》をガルムは所持していない。

古代砂漠に足を踏み入れて4時間・・・。

ガルムの体力が限界に近づいていた。


「ガルム。もう少し歩いたら休憩しよう。」


魔物の素材と欲しいアイテムは入手した。

後は、ルーナ―ンに向かうだけ・・・。


俺とガルムは、砂の山を登り辺りを見渡す。

南西の方角、500mの距離に巨大な岩を発見した俺は、日陰で休む事にした。

巨大な岩に向かって一直線に歩いて行くと、砂の中に変な物体を捉える。


距離を縮めていくと意外と大きく、俺の半分位はあるだろうか・・・。


『レアなアイテムだと嬉しいな。』

少年のようなワクワク感を抱きながら、試しに掴んで引っこ抜いてみる。

すると、引っこ抜いた拍子に砂が舞い上がり、気管に侵入。


「ゴホッ!ゴホッ!」


俺は、侵入した砂を外部に吐き出すべく、咳き込む。

少し涙目になったが、落ち着いた俺は、改めて掘り出した物体を凝視する。


「ドワーフじゃね?」


小さい身体に顎から生える長い髭、先端の尖った帽子は正しくドワーフだった。

腰当たりには、安物のピッケルと小さなカバンをぶら下げており、

開けてみると鉱石がいくつか入っていた。


「死んでるのか?」


片手でドワーフを回転させて、呼吸をしているか確認する。

すると、ドワーフはカッ!と目を見開いた。


「どわあああああああ!?」


「うおああああ!?」


ドワーフの叫び声に俺は驚いて、掴んでいた手を放した。

小さい身体が地面に落下し、彼は慌てて岩の後ろに隠れた。

岩からチラリと顔を覗かせ、俺とガルムを彼は凝視する。


「貴様ら何者だあああ!?」


『それは、こっちの台詞だ!突然、目を覚ましたかと思えば、驚かせやがって!

心臓が止まるかと思ったじゃねええかああ!』


「むお!?消えおった!」


『背後だ馬鹿め。』


俺は《瞬間移動》を使用し、ドワーフの背後に回った。

そして、襟元を掴み上げる。


「な!?は、放せえええ~!」


ドワーフは、腕と足をじたばたと動かすが俺に全く届かない。

『小さいって不自由なんだな。』と思う俺である。

俺は、再びドワーフを回転させ、面と面を向い合わせる。


「掘り出してやったのに失礼な奴だな。

抵抗を続けるなら、魔物の餌にしてやるぞ?」


脅しが効いたのか、ドワーフは大人しくなった。

小さい身体がさらに小さく見える。


「すまん・・・。もう、暴れんから降ろしてくれ。」


両手の指をツンツンとつき合わせる仕草をするドワーフを俺は下ろした。

ドワーフは、地面に座り込んだまま動かない。

その隣に俺とガルムは腰を下ろした。


「む?」


ガルムに体力回復の消費アイテム《ポワルの実》を与え、

ガルム用の水筒をカバンから取り出した。

舌で器用に水分補給するガルムを眺めていたいが、

今はドワーフに事情を尋ねるのが先だ。


「何故埋まっていたんだ?魔物か?遭難か?」


「む~・・・。」

ドワーフは、眉間に皺を寄せて悩む仕草をする。


「事情を言いたくないのであれば、それでもいい。

取り敢えず、お前も飲め。」

俺は、カバンから自分用の水筒を取り出し、ドワーフに投げ渡す。

魔法で水を生み出せる俺は、水に困らない。


「おお。ありがたい!」

ドワーフは水筒の蓋を外すや否や凄い勢いで飲み始める。

1分も立たない内に水筒は空になり、空を返された。


『ためらわないのか?』


「いや~。水なんぞ久しぶりに飲んだわい。」

干乾びていた筈の皮膚に潤いが戻り、ドワーフは元気を取り戻した。


「で、事情を話してくれるのか?」


「お主に助けられたのは事実。話そう。その前に、自己紹介だ。

ワシの名は、アル・バレス。ルーナ―ン出身の採掘士だ。」


「俺はレイダス・オルドレイ、旅人だ。こっちは、従魔のガルム。

俺達は、採取と採掘、観光目的でここに来た。」


「そうか。恰好と種族からして、王都出身者か?」


「・・・そんな所だ。」


アルは、事情を説明する。

彼は《バレル結晶》の採掘で、古代砂漠に足を踏み入れたらしい。

慣れた地形―――

慣れた日差し―――

周辺に詳しく、迷う事はまずない。


油断をしていた彼は、偶然にも砂嵐に遭遇したという。

方向感覚を失った彼は、1週間、砂漠を彷徨った。

消費アイテムは底を尽き、

体力を奪われ力尽きた彼は、通りがかった俺に救助された。

―――という流れだ。


「バレル結晶と言えば、《銃》製作には欠かせない鉱石だったな。」


「お、レイダスは、鉱石に詳しいのか?」


「まあな。そう言うお前は、銃でも製作するつもりだったのか?」


アルは首を横に振る。

「いや、ワシは採掘士であって、鍛冶師ではない。

バレル鉱石は、店に高く売れるからいわば、食い扶ちだわい。」


「そうか。ドワーフは武器製作に長けていると聞いていたから、

てっきり、自身で武器を製作するとばかり思っていた。」


「なーに。ワシは武器を作れんが、知人のドワーフは腕利きだ。

並の鍛冶師よりは良い物を作るぞ。」

アルは、腕にぐっと力を入れて見せる。


「近々、その腕利きに会ってみたいものだ。」


「それなら、ワシに着いてくるか?」

アルは、立ち上がった。


「良いのか?」


「ああ。恩人だし、何より悪い人間には見えん。

仲間もお主を歓迎してくれるだろう。」

アルは、二カッと笑みを浮かべる。


『悪い人間には見えない・・・か。』


休憩を終えた俺達は、早速出発した。

砂に足を取られながらも、着実に目的地に近づいていく。

途中、魔物に遭遇するも難なくこれを討伐し歩を進めた。


「レイダスは強いな。ワシでは、返り討ちにあってたわい。」


確かに、アルのlvとステータスでは魔物に返り討ちだった。

俺は、剣を収めて彼に尋ねる。


「ドワーフは、戦闘をしないのか?」


「ああ。戦闘は極力避けて通る。ワシらは戦闘を好む種族ではないからな。」

アルは魔物を枯れ木の枝で突きながら言う。


「武器製作には、魔物の素材も必要になるだろう。

それは、どうしているんだ?」


「他国から輸入しとる。ワシらは魔物の素材を輸入する見返りとして、

製作した武器や鉱石を輸出する。同盟国のヴァルハラがそうだな。」


『そうなのか・・・。』

俺は顎に手を当てた。


「それよりも、ルーナ―ンのある方角から大分逸れているが、何故だ?」


「む?もしかして知らんのか?」


俺は首を傾げる。

「どういう事だ?向かっているのは、ルーナ―ンじゃないのか?」


アルは、「あちゃー。」と額を叩いた。

理解が出来ていない俺は、彼に説明を求める。


「ワシらの国は、変な集団に襲われてな。場所を移したんだ。」


彼は言う。

俺がヴァローナを追っていた以前の話しだ。


ルーナ―ンは、いつものように活気に溢れていた・・・。

鍛冶師がハンマーで鉄を叩く音――――

昼間から豪快に酒を飲むドワーフ達の笑い声――――

平和な日常を送っていた彼らは、悲劇に見舞われるなんて思いもしていなかった。


それは、突然訪れる。

ハンマーの音を掻き消す銃声――――

ドワーフ達の叫び声――――

逃げ惑う彼らの中にアル・バレスというドワーフも混じっていた。


襲撃者達の、蟻を見つめるかのような冷たい瞳に悪寒が走る。

戦闘が得意でない彼らは、「逃げる。」を選択した。

ひたすらに、がむしゃらに、只逃げた・・・。


最後まで地上にいたドワーフは死に体となり、

国の地下に張り巡らされた地下道へと逃げ込んだドワーフは生き延びた。

アルもまた、地下に逃げ込んだ1人であり、今でもあの恐怖は忘れないと言う。


後に、逃げ延びたドワーフ達は、新たな国を建国。

以前の襲撃から学習し、外部からは視認出来ないようにしているらしい。


「勿論、ワシらドワーフには見えとる。もうすぐ、そこだ。」


アルの視線の先に、国があるのだろうが、俺の視界にそれらしき物は映っていない。

一面砂漠が広がっているだけだ。


《探知》の発動もしているが、遮断されているようで全く反応が無い。

そこで、俺はあるスキルを発動させる。


「《スキル:看破》」


《看破》は、隠蔽効果がある物体を視認出来るようにするスキルで、

《FREE》をしていた時には、お宝探しなどで非常に役に立った。

そして、このスキルの利点は、他のスキルや魔法にも働くという事だ。


《探知》に生命反応があり、俺の目にドワーフの国が見えている。

大きさは、新王都と同じ位で煙が上がっていた。

恐らく、鍛冶師が武器を作っているのだろう。


「成程な。ドワーフは《看破》を生まれ持って所持している。

他の種族には気づかれないだろうな。」

俺は素直に称賛した。


「お主、もしや見えとるのか!?」


「安心しろ。見えてはいるが、機密情報に関しては口が堅い。」


アルは、豪快に笑った。

「ガハハハッ!良いだろう。お主を信じる。

では、行こうか。」


アルの後ろに俺とガルムはついて行く。


「アル・バレスだ!門を開けてくれ!」


彼は、門の上に顔を向ける。

塀の上には、槍を持ったドワーフがおり、俺を見るや否や彼らは警戒した。


「何故人間と一緒にいる!?」


「砂漠で倒れている所を助けて貰った。悪い人間ではない。

何でも、ワシらの国を観光しに来たそうだ。」


「ん~。アルが言うのなら、間違いないんだろうな。・・・よし!通れ!」

アルの説得で、門が開けられる。


俺は、視線をアルに向けた。

『信用されているんだな。』


《FREE》のドワーフは、同胞達と騒ぐ行為が好きで、

友人が多いという設定だった。

この世界でもそれは、健在なのかもしれない。


俺達は門を通り抜けた。

アルは、両手を広げて俺の方に向き直る。


「ようこそ、ワシらドワーフの国へ!」


アルは、俺とガルムを歓迎する。

規模は小さくなったらしいが、鍛冶師が鉄を叩く音、ドワーフ達の笑い声、

謎の襲撃者達によって失われたかに思われた活気がそこにあった。


ドワーフは豪快で陽気な種族――――


アルだけでなく、他のドワーフ達も俺とガルムを歓迎した。

片手に酒の入ったジョッキを持ち、一気に飲み干す。

その空気に呑まれた俺もつられて笑う。


俺は、ドワーフの国へやって来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ