ヴァルハラ内乱戦
――――ヴァルハラ――――
ヴェル・フュアレ・三世は、王座に腰を据えて、頭を抱えている。
「何故・・・どうして・・・。」
外では、民達の叫び声と激しい戦闘が繰り広げられていた。
原因は、ヴァルハラを訪れた1人の女性にある。
彼女は、黒いフードコートを羽織っており、杖を手にしていた。
本来であれば、門番がフードを外させ、顔を確認するのだが、それをしなかった。
何故か――――
彼女は、門番達に魔法を施し、傀儡にしたのだ。
ヴァルハラに侵入した彼女は、次々に魔法を唱えていく。
エルフ達の大半が魔法によって支配され、異変が起き始める。
内乱が勃発―――
彼女の魔法によって支配されたエルフ達は、
彼女を称えて国を攻め落とそうと行動を開始する。
この時には既に黒いフードコートの女性は姿を暗ましており、
正常なエルフ達の捜索も虚しく、断念された。
側近であるバロンは王命に従い、戦闘を止めさせに行く。
勿論、王都より帰還したヴィラルも同行し、戦闘は集束に向かった筈だった。
頭を抱えるヴェル・フュアレ三世の前に1人の近衛兵が姿を現す。
彼の身体はボロボロで、肩で息をしていた。
彼は片膝をつき、ヴェル・フュアレ三世に告げる。
「戦力低下!このままでは、危険です!」
長期戦の内乱は消耗が激しく、国王側は厳しい状況に立たされていた。
民達の勢いは増し、押され始める。
民を傷つけず、内乱を終結させたいヴェル・フュアレ三世は、茨の道を選択した。
その結果、兵達は、食料不足に悩まされ、餓死者が出始める。
本来の力は発揮できず、指揮も低下、ヴェル・フュアレ三世は声を張り上げた。
「何としてでも持ち堪えろ!」
ヴェル・フュアレ三世は、致し方なしと、
同盟国のルーナ―ンに援軍を要請するが、待てど援軍は現れなかった。
後に、兵達を派遣。
ルーナ―ンの様子を見に行かせたヴェル・フュアレ三世は、
報告を受け、驚愕する。
ルーナ―ン 壊滅状態―――
何者かの襲撃でドワーフ達は死んでいたという。
ドワーフ達は、弾丸で頭を貫かれており、
その他にも鋭い刃物で斬られた形跡があったそうだ。
派遣した兵達の情報を元に複数犯による犯行と断定出来きたが、足取りは不明。
ルーナ―ンが襲われたのは、内乱が始まる以前・・・。
援軍が来ない理由にも合点がいく。
ヴェル・フュアレ三世は、増々悩んだ。
眉間にしわを寄せ、難しい顔をする。
蝋燭の火が風で揺れ、月明りが彼を照らす。
そこへバロンがやってきて彼に話しかけた。
「国王様、お早めにお休みになられた方が宜しいかと。」
「休む?兵達が身を挺して戦っているというのに、1人床につくなど出来る訳がない。」
バロンは国王の気迫に口を閉ざした。
軽く頭を下げ、彼は退室して行く。
ヴェル・フュアレ三世は去って行くバロンの背中を眺めた。
「自身も疲れているだろうに・・・」
前線に立つ彼の方が疲労を蓄積している。
それでも、ヴェル・フュアレ三世を優先し、労わった。
彼の国王に対する忠義は本物だ。
それが国王に重くのしかかる。
「私は、王の器なのだろうか・・・。」
民達に応える事が出来ない無力な自分に情けなくなる国王は、拳を握りしめた。
バロンのような優秀な者に仕えられる資格が己にあるのか?
強烈な不安と責任が国王の首に巻きつく。
呼吸の仕方を忘れそうになりながら、
ヴェル・フュアレ三世は、己が役目を果すべく現状況の打開策を思案する。
魔法による精神操作の解除には腕利きの《ヒーラー》が必要である。
しかし、エルフ達は弓に長け、その他の職は殆どいない。
ステータスを優先に職を固めてきた結果をヴェル・フュアレ三世は悔いた。
《万能薬》があれば、どんな悪い状態も瞬時に解除できるが、
今のヴァルハラは消費アイテムも乏しい状況である。
兵達が傷つき、状態異常に陥れば必ず必要になる・・・。
民に使うか、兵に使うか―――――
どちらも切り捨てたくないヴェル・フュアレ三世は、その考えを即捨てた。
「他国より《ヒーラー》職を招集するか?」
ヴェル・フュアレ三世は、顎に手を当て発言する。
自国に《ヒーラー》職がいないのなら、外より集める他に手はない。
しかし――――
ルーナ―ンは壊滅。
イスガシオは、貧困に苦しんでいる。
明らかに協力を仰げる状態ではなかった。
自ずと選択範囲は狭まり、残った選択しにヴェル・フュアレ三世は、息を吐く。
人間の協力――――
この際、プライドは捨てるべきだ。
人間とエルフの隔たりをいずれ払拭させるつもりだったヴェル・フュアレ三世は、
最初はいい機会だと思った。
しかし、以前の出来事を思い出すとその考えが揺らぐ。
エルフ達が1人の人間を襲い、戦争に発展。
「我々が赴いて、同じ境遇に合わないと言い切れるか?」
1人の人間の立場にエルフが立つ。
人間達が仕返しをしないとは限らない。
「しかし――――」
他に手が無かった・・・。
結局、エルフ達の内乱は収拾がつかなくなっていた。
外部からの協力は必須であり、猫の手も借りたい状況だ。
「人間に協力を要請する。」
ヴェル・フュアレ三世は、覚悟を決めた。
迅速に行動を開始し、ヴェル・フュアレ三世は、兵を呼び集める。
集められた兵達は国王の発言に動揺したが、
バロンの敬服によって、ざわめきは消えた。
「王命とあらば・・・。」
ヴェル・フュアレ三世は、堂々たる姿勢で、頷いて見せる。
ヴィラルに前線の指揮を任せ、バロン率いる少数精鋭部隊は、新王都へと発つ。
エルフ達の未来は、バロン達に託されたのだった。




