《冒険者強化訓練》part8
マリエルの攻撃によって、決闘場内は炎に包まれた。
俺の張った結界もあり、決闘場内しか被害は出なかった。
しかし――――
個々に施した防御魔法は、容易に破られ、冒険者の何人かは死んだ。
身体は灰となり、空に舞う。
他の冒険者が生き残れたのは、元々の防御力が高かったからだ。
「一体何が・・・。」
リーゼルとジョナサンは、フィールド内に視線を向ける。
そこには、1人の女性がポツンと立っていた。
その近くにはアリエスの姿があり、うつ伏せに倒れている。
フエン、ルドルフ、その他の冒険者は気を失っているのかピクリとも動かない。
「マリ・・・エル。」
アリエスは意識があるようで、彼女に声をかける。
マリエルは、アリエスの声に反応しない。
黄色い瞳に映しているのは、血を吐いて倒れる俺の姿だった。
「ゲホッ!ガハッ!」
自分に付与できた防御魔法は1つだけ、ダメージは大きかった。
防具の耐久値は限りなく0に近い。
頭の防具は地面に落ち、灰になる。
物理的な痛みを負ったのは久しかった。
体力を多く失ったせいか身体に力が入りづらい。
俺は、魔法を唱え完全回復を果す。
接近してくるマリエルから距離を取り、俺は言う。
「誰だ。」
俺は、《リワインド》で防具と武器の耐久値を戻しながら、警戒する。
目の前の人間は、マリエルであって、マリエルでない存在だ。
彼女は、俺の問いを無視して、顔を膨らませた。
「今の一撃で死なないなんて、困ったわ。この子の身体が保たないじゃない。」
声は、マリエルだったが、口調が彼女と明らかに違う。
「俺の問いに応えろ。」
「急かないで頂戴。久しぶりの再会ですもの。もう少しゆっくりしましょうよ。」
マリエルは、「フフフ」と笑う。
『久しぶりの再会?』
「俺に貴様のような知り合いはいない。」
俺は、剣先をマリエルに向けた。
「冷たいわね。ヘストルって言えば思い出してくれる?」
俺の中の何かが蠢く――――『殺せ。』
剣を握りしめる握力が次第に強くなり、心臓が高鳴る。
なんだ?―――――
俺の瞳の中に黒い炎が灯った。
視界が白黒になり、殺したい衝動が強くなる。
考えるよりも先に動いたのは、身体だった。
一瞬の出来事―――
マリエルが杖で俺の斬撃を受け止め、余波で誰もいない観客席が吹き飛んだ。
強烈な風が辺りに吹き荒れ、
冒険者達は吹き飛ばされないように耐えるのが精一杯だった。
「思い出してくれた?」
マリエルは笑みを浮かべる。
「・・・れ。」
「??」
俺はボソボソと呟く。
「黙れ。」
俺の表情にマリエルは、震えた。武者震いではない。恐怖だ。
マリエルの杖にひびが入り、彼女は杖を捨てる。
杖は、真っ二つに斬られ、地面に転がった。
《スキル:武器破壊》で耐久値を奪ったのだ。
彼女は後方に距離を取り、言葉を発した。
額からは、汗が流れる。
「あの時より、化け物じゃない。」
マリエルは、本来使用出来ないはずの魔法を唱える。
「《魔法/第40番:氷牢柱》」
いくつもの氷の柱が地面から現れ、俺の動きを封じる。
俺は、片手剣で氷の柱を壊していくが次から次へと生えてくる。
「きりがないな。」
俺も魔法でマリエルに対抗する。
「《魔法/第30番:雷神槍顕現》」
帯電する雷の槍が俺の手に握られる。
それを地面に突き立てると雷が地面を駆け抜けた。
地面に亀裂が入り、割れる。
地形が変化した事で、氷の柱は生えてこなくなった。
あの時とは――――
俺が何なのか―――――
それは、置いておく。今は・・・眼前の敵を殺す!
俺の殺気にマリエルはひるんだ。
「くッ・・・これで死ね!《魔法/第60番:神罰の剣》」
雲が裂け、光の剣が俺に降り注ぐ。
音速を超える光の剣が、肉を斬り裂こうが、骨を断とうが瞬間的に俺の身体は再生する。
己の片手剣で落とせるだけの魔法の剣を叩き落とし、
片手剣が折れれば、新たな剣を魔法のカバンから取り出す。
俺は、音速を超える世界を駆け抜ける。
そして――――土埃が舞う中、マリエルの眼前に俺は立つ。
マリエルは後ずさり、言葉を発する。
「こ、この子を殺しても、私は死なないわよ?
私は、貴方の前に再び立ちはだかるわ!」
俺は、動揺するマリエルの首を片手で鷲掴み持ち上げた。
「それなら、何故マリエルから出て行かない?」
「ッ!くあ・・・!」
俺の握力は強くなっていく。
「うおおおあああああ!」
マリエルは、懐から光り輝くナイフを取り出す。
それを見た瞬間俺の中で何かで、糸が切れる音がした。
「お前は、マリエル以外の身体に憑けない。
ここでマリエルを殺せば、お前も死ぬのか・・・試してみよう。」
俺は、マリエルの心臓に剣を突き立てた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
懐かしい―――――
光り輝くナイフは、地面に落ちると同時に砕け散る。
マリエルは、自分に回復魔法をかける。
みるみる傷は治り、心臓の穴が塞がった。
「抵抗するという事は、死ぬようだな。」
俺は、邪悪な笑みを浮かべた。
「ひっ!」
マリエルの顔は恐怖に歪む。
俺の中の何かが囁く――――『殺せ。』
俺は、それに従順に従った。
足を斬り落とし、心臓を突き刺し――――
それでも、マリエルは回復して死ななかった。
「俺は、休日に買い物の約束をしているんだ。
お前が生きていては、のんびり過ごせないだろうが。」
そこで、俺は、頭に剣を突き刺した。
マリエルの身体は、痙攣し、やがて動かなくなった。
瞳からは涙を流していたが、何も感じない。
マリエルの死体を地面に落とし、俺は剣を収めた。
瞳からは黒い炎が消え、景色に色が戻る。
マリエルを中心に大きな血の池が出来ていた事に俺は笑った。
『ざまあみろ。』
俺の中の何かも笑いを上げる『ハハハハハハッ!』
土埃が晴れる前に、フィールド内の冒険者を《重力》で1箇所に集め、
神聖の神専用魔法で完全回復をさせる。
それから、リーゼル達のいる観客席へ向かった。
「うお!?レイダス無事か!?」
リーゼルとジョナサンは、
観客席から飛び降りてきたようで、向かう途中で遭遇した。
「大丈夫だ。他の冒険者も気を失っているが無事だ。」
リーゼルは、息を吐き胸を撫でおろす。
「彼女はどうしたのですか?」
ジョナサンが言う彼女は、マリエルの事だろう。
「手加減できなかった。」
俺がそれだけ言うと、察したのかジョナサンは「そうですか。」と返事をした。
「疲れた。俺は休む。」
俺は、冒険者が集まる観客席へと歩いて行った。
俺が去った後、ジョナサンがリーゼルに話しかける。
「リーゼル。僕は、彼と戦いたいと思っていたよ。
でも・・・その気も失せた。」
リーゼルは、ジョナサンの真剣な発言に
「そうか・・・俺もだ。」と返事をした。
ジョナサンの瞳に、後ろ姿の俺が焼き付いている。
その背中の大きさには敵わない・・・。
それと同時に恐怖を抱いた。
『彼が敵に回ったら、我々はどうなってしまうのだろう・・・。』
彼は、想像して息を呑んだ。
「あいつは、敵にならねーよ。」
リーゼルがジョナサンの考えを読んだように発言する。
「・・・そうですね。」
ジョナサンとリーゼルは今までの俺の功績を含めて考えているのだろう。
だからと言って、そうならないとは限らない。
「話題を変えますが《冒険者強化訓練》は続けるのですか?」
「ああ~。1日あけて検討する。2日目は、中止しかねーな。」
「同意見ですね。見学に来たついでに僕も協力しましょう。
人手が多い事に越したことはありませんから。」
「助かる。」
冒険者達は、その場で治療され、冒険者ギルドに戻った。
マリエルによって、2日目の《冒険者強化訓練》は、中止になり、
続けるかどうか、リーゼル達に検討される事になった。
夢見の森のログハウスに戻った俺は、
散々な結果に終わった2日目に、ため息を吐いた。
頭防具は壊れ、製作した武器を3本も折ってしまった。
只、落ち込んではいるがそれ程でもなく、心の中には、風が流れていた。
不純物が風に舞って消えて行く・・・そんな感覚を味わっている。
俺の中の何かが囁く――――『また1人』
「そうだな。・・・消えたな。」
何故、俺は憎い相手を殺したくなるのだろう・・・。
会った事もない相手を何故恨むのだろう・・・。
答えを俺はもう知っているはずだ。
だけど――――
「思い出せなくて、ごめん。」
俺は、謝罪した。不意に眠気に襲われて眠りそうになる。
俺の頬に温かい手が触れて、語る。
安心して――――
巡る――巡って――蘇る―――
いつか―――きっと―――その時は近い―――
予言にもとれる言葉に俺は頷いた。
そして、闇へと堕ちていく。




