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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~闇の組織編~
110/218

呪術師の女を探せ!完


ヴァローナは《天翔ける丘》に到着した。

コツコツと足音を立て、丘の上に終結するメンバーの元へ向かう。

周囲は岩だらけで、傍から見れば、丘というよりも岩山が正しい。


「お集まりくださり、ありがとうございます。」


ヴァローナは、メンバー達に深々と頭を下げた。

メンバー達は左右に分かれ、ヴァローナの為に道を開けている。

ヴァローナはその道を真っすぐ進み振り返った。


ヴァローナの目の前には、総勢200人の信者が集まっている。

あの方に心酔し、敬愛し、信仰する者達だ。

ヴァローナはフードを外し、顔をさらけ出した。


「メンバーの方々。あの方より信託が下され、半年余りが過ぎました。

計画は順調に進み、最後の段階に移行します。時は来たのです!」

ヴァローナは両腕を広げ、微笑んだ。


メンバー達は、腕を高々と振り上げ歓喜を上げる。

中には涙を流し、感涙する者までいた。


「それは、良かった。最後の段階は何をすればいいんだ?」


黒いフードコートを被ったメンバーの1人がヴァローナに尋ねる。

声からして男だろう。


「我々は、あの方の為に生きとし生ける者達に血を流させてきました。

《旧王都グラントニア》《ヴァルハラ》《イスガシオ》《ルーナ―ン》

その血と我々の血を代価にあの方の敵を打ち滅ぼす魔法を発動させるのです。」


「それで、あの方の敵とは?」


「レイダス・オルドレイ!

あの方の恩恵(・・)を与えられていながら、あの方を裏切った忌々しい存在です!」


ヴァローナは、杖を力強く握りしめる。

メンバー達はあの方の敵であるレイダス・オルドレイに罵声を飛ばす。


「あの方の恩恵とか羨ましい!」

「レイラスだか知らんがあの方の敵は死ね!」

「あの方の為に死んで頂戴!」


ヴァローナは一旦冷静になり、落ち着く。


「メンバーの方々!まずは、あの方の敵をおびき出す方法を模索しましょう!

《旧王都グラントニア》と《ルーナ―ン》、《ヴァルハラ》と《イスガシオ》を

地図上で直線に繋ぎます。その重なる場所に誘導しなければなりません。」


メンバー達は、互いに話し合って作戦を練り始める。

しかし、レイダス・オルドレイについての情報が少なく、

メンバー達は、ヴァローナに提案するがどれも愚策だった。


そんな中、1人の人物が手を上げる。

ヴァローナに話しかけた黒いフードの男だ。


「メンバーを餌として釣ればいかがでしょう?数人でレイダス・オルドレイを襲撃。

我々を倒さない限り、安穏はないと知ら占めるのです。

そうすれば、我々を追わざるを得ません。」


ヴァローナは頷いた。メンバーの人数は減るだろう。

でも、あの方の敵を屠れるのなら、本望だった。

ヴァローナを含むメンバー達はあの方の為なら命すら惜しまない覚悟だ。


「良いでしょう。その案を採用致します!

レイヴンを呼び戻し、あの方の敵!レイダス・オルドレイを打倒するのです!」


ヴァローナは杖を握る手を高く掲げた。

メンバー達が打倒レイダス・オルドレイを謳う。


その中で1人、静かに笑みを浮かべる黒いフードの男は姿を消す。

そして、ヴァローナの背後にある大岩の上に再び現れた。

それに気づかないメンバー達に黒いフードの男は声をかける。


「諸君!作戦会議ご苦労!」


ヴァローナを含むメンバー達は、一斉に黒いフードの男を眺めた。

風で、コートの端が揺れる。


「貴方は・・・そこをおりなさい!怪我をしたら大変です!」


ヴァローナは黒いフードの男に近づこうとするが、

男は、ヴァローナの心配を余所に発言する。


「そうやって心配そうなフリをして、マリーをそそのかしたのか?

メンバーの奴ら全員(・・)に呪術魔法をかけたのか?」


ヴァローナの眉がピクリと動いた。


「何故メメスの娘を知っているのですか?」


ヴァローナは黒いフードの男を警戒し始めた。

男の顔はフードで見えない。

何を考えているかも理解できない。


只、これだけは言える。ヴァローナは口を開き、男に尋ねた。


「貴方は何者ですか?」


メンバー達は、ヴァローナが疑心暗鬼になると共に男に罵声を飛ばす。


「そこを降りやがれクソ野郎がああ!」

「ヴァローナ様を困らせるな!」

「そうよそうよ!」

「誰よあんた!名乗りなさいよ!」


フードの男は、罵声を浴びせられても動じない。

それどころか、メンバー達の様子を観察しているようだ。


「魔法使用者と意思が繋がっているようだな。

お前が俺を疑えば、メンバー全員、俺を疑うわけだ。」


フードの男は、フードコートを脱ぎ捨て、正体を明かす。


「喜べ!お前達が探し求めていた敵がここにいるぞ!」

俺は、正体を明かし高々と宣言する。


「俺がレイダス・オルドレイだ!」


メンバー達全員が動揺し始めた。

それは、ヴァローナが動揺している事を現す。


『いいぞ。いいぞ。もっと、動揺しろ。もっと、混乱しろ。』

俺は、邪悪な笑みを浮かべた。


ヴァローナの背筋に悪寒が走り、汗が流れ落ちる。

『これが、あの方の敵・・・。』


彼女は息を呑んだ。

『怖い・・・。』一言そう思った。


俺から漂う死の気配に身体が震える。

俺が放つ殺気に、汗が止まらない。


しかし、彼女は引けなかった。

ヴァローナはあの方に救われた。あの方のお陰で今の自分がある。

今逃げ出せば、それを否定する事になるのだ。


「私達の前にノコノコと姿を現すとは愚かですね。

あの方に、恩恵を頂いていながら無碍にするとは、いい度胸です。

私達(・・)が直々に貴方を裁いてあげましょう!」


ヴァローナは武器である杖を構えた。

彼女に続き、メンバー達も武器を手に、臨戦態勢に入る。


「俺は恩恵なんて貰っていない。不幸なら大量にプレゼントされたがな。」


俺は、ヴァローナを無視して人差し指をメンバー達に向ける。

俺は、この世界において、強力で残酷な魔法を唱える。


「《破滅の魔導士専用魔法/第10番:(デス)魔法陣(サークル)》」


『FREE』の世界には《即死魔法》が存在している。

文字通り、一度喰らえば絶命する魔法だ。


lvを上げ、《スキル:即死耐性向上》を習得し、抵抗力をつけるか、

又は、即死耐性が付与されている防具や武器を身につける。

いずれかの方法で即死攻撃を防げるのだが、

この世界の者は即死耐性どころか即死を防ぐ装備すらしていない。


最初からこの魔法を使用していれば、一瞬で蹴りが付く。

それをしなかったのは、俺が()かったからだ。


『俺は、もうためらわない。やる・・・やってやるよ!』


俺は、忘れていたのだ。

「この世は、弱肉強食なんだ・・・。」


《死の魔法陣》がメンバー達の真下に出現する。

灰色の魔法陣がメンバー達の生気を吸い取り、絶命させた。

ヴァローナと俺以外の生命は《天翔ける(ここ)》にない。


ヴァローナは、腰を抜かし杖を手放した。

杖は、音を立て転げ落ちていく。そして、死体の手前で止まった。


「メンバー達が・・・・私の努力が・・・・。」


メンバー達が死んだ事実に彼女は目を背けたかった。

瞳は上下左右に動くが、メンバー達から視点を逸らせない。

彼女の人生の全てが目の前で無になったのだ。

彼女の結晶が粉々に砕かれたのだ。

正気でいられる訳がない―――――


ヴァローナは、首をぎこちなく動かし、俺を凝視する。


「化け物・・・。」


彼女は呟く。

人間の姿をした化け物・・・それが俺だ。

俺はヴァローナに同意するように、凶悪な笑みを浮かべる。


「目には目を、歯には歯を、化け物には化け物を、常識だろ?」


俺は、大岩から飛び降り、彼女の顎を片手で掴む。

杖を手放した以上、ヴァローナは魔法を唱えられない。

ライラに資料を用意してもらうまでもなかった。


彼女の震えが俺の掴む手に伝わる。

歯をカチカチと鳴らし、涙を流す。


「気配で分かる。お前、あいつとも繋がっているな?」


俺は、ヴァローナの瞳からこちらを覗くあの方に、話しかける。


「よお。前世(・・)では世話になったな。今回も邪魔する気なら容赦しない。

もう一度、俺の平穏を壊して見ろ。お前を何処までも追って、殺してやるよ!」


俺は、言い終えるとヴァローナの両目をえぐった。

瞳の柔らかく、滑ッとした感触が気持ち悪い。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」


彼女は、両手で両目を抑え、地面で暴れる。

俺は、ヴァローナの瞳を眺めた。


「オッドアイか・・・。

あいつの手先のくせに、綺麗な目を持ちやがって・・・反吐が出る。」


俺は、剣を抜いて、暴れるヴァローナの胸に剣を突き立てた。

彼女に思う事は何もない。

只、俺は前世の屈辱をここで晴らすだけだ。


「うあああぁ・・・!」


俺は、剣を捻った。

彼女の胸部分は剣の捻りと同時に肉の繊維が切れる。


ヴァローナの腕は、地面に落ちる。彼女は息絶えたのだ。

俺は、血の付いた剣をヴァローナの服で拭ってから収める。


「こいつの目と杖は証拠品として取っておくか。」


俺は、魔法のカバンにヴァローナの杖と瞳をしまった。


メンバー達の中に、《王冠》を所持ていた者がいたので、それも回収する。

イスガシオをマリーが襲撃した後、廃城を荒らしたのはここにいるメンバーだろう。


「これで、《星波の丘》に行けるな。」


俺は、そう思うと少し陽気な気分になった。

早く冒険者ギルドにガルムを迎えに行きたい俺は、

出し惜しみはせず《瞬間移動》を使用する。


こうして、大事は収束へと向かって行くのだった。

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