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人生をあきらめていた男  作者: 眞姫那ヒナ
~闇の組織編~
107/218

呪術師の女を探せ!part3


俺とガルムは、村から少し離れた森の中で待機していた。


「来たか。」


茂みが揺れ、そこからファルゼンが姿を現す。


「何故、あのような事をしたのですか?」


俺はダラスに剣を突きつけ、終いには殴って気絶させた。

彼は、その説明を求めているのだ。


「ダラスに呪術魔法が施されていた。」


「!?」


俺は、鑑定でダラスの状態を常時確認していた。

会話が進むにつれ、ダラスの状態が浮き彫りになり、状態が表示された。


《従順状態》


この状態異常は、『FREE』の世界にも存在していた。

相手を一時的支配下に置き、味方にするという効果がある。

正し、一時的な効果であって継続は出来ない。


『効果時間が延長されているのか・・・。俺の知識にない未知の魔法か・・・。』


「あいつはヴァローナの犬だ。」


「そんな馬鹿な・・・。」


ファルゼンは驚く。

まさか、身近な人間にまで呪術魔法がかけられていたなんて想像も付かなかったのだろう。


「『ダラスがヴァローナを村に招き入れた。』と、自分で言っていただろう。

俺もその時に、気付くべきだったんだ。

恐らく、その日から今日までダラスはヴァローナの指示に従っていたはずだ。」


「では、今からでも村に戻って聞き出すべきです!」

ファルゼンの瞳の奥に炎が宿る。


「無理だ。」

俺はキッパリと答えた。


「広場で先に剣を抜いたのは俺だ。お前はともかく、

村人からしたら、俺はもはや敵でしかない。

それに、俺は手加減が下手でな。村人を殺しかねん。」


「俺が行けばいい!」


ファルゼンは自分の胸に手を当てる。

何としても情報を入手したいのだろう。


「やる気なのは結構だが、ダラスはヴァローナの情報を持っていない。」


「何故ですか?」


「ダラスは《従順状態》だった。《従順》というのは、魔法の使用者に盲目的(・・・)に従う。

つまり、ヴァローナがダラスに情報を与えずとも、ダラスは命令通りに動くという事だ。

呪術魔法が解かれて、記憶にも多少の変化があるはずだ。

例え、命令内容を覚えていたとしても、予想は大体ついている。」


「成程。」

ファルゼンは口元に手を当て、頭の中で情報を整理する。


「その命令内容は、俺達のような後を追う者の排除が目的だ。

足元を見て動いている頭脳派だ。一筋縄じゃ行かない。」


「では、今後どうするのですか?」


「一旦王都に戻り、呪術魔法について調べる。

行く先々で呪術魔法にかかった者を発見できれば、自ずと足取りが掴めるだろう。」


「分かりました。」


俺達は、王都に向けて歩き出す。


無暗に後を追えば、ヴァローナに足元を掬われる。

俺は物理的には最強だが、精神は紙だ。

《全状態異常無効》があるとはいえ、それは精神系魔法が無効なだけであって、

言葉攻めに有効な訳ではない。


頭脳派な人間は言葉を巧みに操り、相手の心を傷つける。

《全状態異常無効》という防壁を軽々とすり抜け、直接的な精神攻撃が可能という事だ。

前世で散々言葉攻めにあった俺は、その恐ろしさをよーく知っている。


『精神を鍛えたい・・・。でも鍛え方が分からない。』


俺は、軽く息を吐く。

身体ならいくらでも鍛えられるが、精神の強さは人間の育ってきた環境で変化する。

俺の育ってきた環境は、最悪と言ってもいいだろう。


魔物を倒しながら、俺達は森の中を突き進む。


俺が、脳内で考えを巡らせている間、ファルゼンは俺を眺めていた。


『強い。』


魔物に剣を振るう俺の姿にファルゼンは釘付けだった。

魔物の急所を的確に斬り、一撃で倒す姿は正しく《剣神》。

剣に愛され、剣を極めた者の高み――――


ファルゼンは、俺への態度をこの時から一変させた。

俺を剣士として尊敬し、敬意を払おう。

そう心に決めたのだ。


後にファルゼンの豹変ぶりに俺はドン引きする事になる。


―――新王都―――


俺達は新王都に戻り、冒険者ギルドを訪れた。


「あ!レイダスさん。」


真っ先に声をかけてきたのはカイルだった。

珍しく、イリヤとゲイルがいない。


「久しぶりだな。他の2人は別行動か?」


「はい!2人は、依頼でメイサの森に行っています。」


「そうか。青年は、武器の修理で居残りか。」


俺は、カイルが腰に装備している鞘に着眼した。

剣が収められていない。


「はい。剣を使い込みすぎて刃こぼれさせてしまって・・・。」


「新しく武器を製作しないのか?」


「出来ればそうしたいのですが、武器屋に依頼しようにもお金が足りません。

今の武器をギリギリまで使います。」


「それはダメだ。戦闘時に武器が壊れでもしてみろ、魔物の餌食が落ちだ。」


カイルは、肩を落とし身を小さくした。

「そうですよね・・・。」


「落ち込むな。お前にこれをやろう。」

そんなカイルに俺は装備していた片手剣を差し出す。


「・・・え!?レイダスさんの武器を俺が!?こんな貴重な物受け取れません!」


カイルは動揺と驚きで大きな声を出す。

当たりが少しざわついた。


『素材はまだいくらでもあるから製作出来るんだよな~。』

と思う俺だが、口には出さない。


『それに、武器製作を暫くしていないから練習をしたい。』


「同期の冒険者を死なせたくない。受け取ってくれ。」

カイルは渋々武器を受け取った。


カイルは鞘を装備して剣を抜く。

薄緑の美しい刀身にカイルは見惚れる。


「片手剣エスメラルダ《耐久値自動回復》が付与されている。

修理に出さずとも時間が経てば、元の状態に復元するから修理代も浮くだろう。」


カイルは剣を鞘に納めて、俺に頭を下げた。

「ありがとうございます!」


「でも・・・レイダスさんはどうするんですか?」

カイルは、心配そうに俺を見つめる。


「心配には及ばん。」


俺は、魔法のカバンから愛用していた片手剣を取り出す。

片手剣シルバーレイクだ。

俺は腰に片手剣を装備する。


「昔、俺が愛用していた武器だ。俺は武器に不自由していないからな。

同期の冒険者に役立つのならその方が良い。」


俺の発言にカイルは、顔を赤くした。

カイルは俺から視線を逸らして、再び感謝を述べる。


「あ、ありがとうございます。た、大切に使います。」


俺はカイルの態度に首を傾げた。

『風邪か?熱でもあるのか?』


「大切にしてくれると武器も喜ぶだろう。

俺達は、ギルドマスターに用があるから行くが、1人で平気か?」


『製作者としてもなんか嬉しいな・・・というか照れる。』


「はい!2人を待ちます。」


「そうか。無理をしない程度に頑張れよ。」


俺は、カイルに背を向けて手を振る。

俺はガルムとファルゼンと一緒に2階へ上がっていった。


―――冒険者ギルド1階―――


カイルはその場でボーっと立ち尽くしていた。

男や女が異性に惚れるとは別に、男には漢として認める瞬間がある。


カイルは、それに襲われていたのだ。


「カッコいい・・・。」

カイルはボソッと呟いた。


カイルの周囲で、話しを立ち聞きしていた男性冒険者達も同様だった。


「やべー・・・。漢として憧れる。」

「俺も言ってみてええ~。」

「お前には一生無理だよw。」

「無理かw。」


「流石SSランク冒険者、カリスマがあるな。」

「武力、知力、財力どれをとっても一流だな。」

「レイダス・オルドレイ・・・尊敬に値する人物だ。俺もあの人みたいになりたいな。」


俺が2階から下りてくるまで、1階では俺の話題で持ちきりになった。


―――ギルドマスターの部屋―――


「リーゼル入るぞ。」


俺は、部屋の扉を開ける。

そこには、書類の山に埋もれたリーゼルの姿があった。

リーゼルの片手が書類の山から突き出ている。


「「・・・・・・・・。」」

俺とファルゼンは無言だった。


俺は、リーゼルの腕を掴み、書類の山からズルズルと引きずり出した。

書類の山から救出されたリーゼルは仰向けに気を失っている。


リーゼルの目の下には、濃い隈があり、体中は冷や汗をかいていた。

仕事に追われ、憔悴したのだろう。


「《魔法/第1番:水球(ウォーターボール)》」


俺は魔力で空気中に水球を作り出し、リーゼルの顔に落下させた。


「ブベラッ!」


リーゼルは顔に水を浴び、起き上がる。

暫くボーっとしていたが、俺達の存在に気が付き振り返った。


「おお・・・。お前らか・・・。」


リーゼルの頭からは水が滴っている。

本人は全く気にしていないようだ。


「重症だな。」


「ですね。」


俺とファルゼンは同意見だった。

リーゼルには休養が必要だ。


無理やり仕事を押し付けた俺の責任でもある。

『流石に酷だっただろうか・・・。』

俺は少し反省した。


「リーゼル。今日はもう休め。」


「俺はまだまだ・・やれる・・・多分。」


『多分と言っている時点でアウトだろ。』


「ファルゼン。リーゼルを2階の一室で休ませてくれ。書類は俺が片づける。」


「分かりました。」


ファルゼンはリーゼルを立たせる。

フラフラするリーゼルを見て、ファルゼンはリーゼルの腕を肩に回し、支えた。

2人は、ゆっくりと部屋を退室して行った。


「さて、やるか・・・。」


俺は、書類の山を眺める。

『先ずは、整理からだな・・・。』


俺は、《重力》で書類の山を浮かせ、分別していく。

分別が終わった後、デスクの椅子に腰を下ろした。


書類1枚1枚丁寧に目を通し、リーゼルのサインを見様見真似で真似る。

『本当はダメなんだけどな・・・。』


俺は、作業をしている内に、書類の山から呪術魔法に関する資料を見つけ抜き取った。

そして、リーゼルが後から見ても分かりやすいよう書類の間に付箋を挟み、メモを書き残す。


ガルムは、俺の横で伏せて眠ってしまった。

俺はリーゼルの書類の片づけに丸一日費やす事となる。

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