闇に潜む者
「私の魔法が!」
黒いフードコートを身に纏う一人の女性が驚きの声を上げる。
マリーに呪術魔法をかけた張本人ヴァローナだった。
彼女は、《黒木》と呼ばれる素材で製作された杖を片手に持っている。
杖の先端には紫の宝石があしらわれており、太陽の光に反射して輝きを放つ。
彼女は、魔法の効果が消えた先を見るが、辺りは森林と死体の山に囲まれている。
現在地から遠く離れた場所の出来事に残念そうな表情を浮かべた。
「どのような方が私の魔法を打ち消したのか。見たかったわ・・・。」
そんな彼女に仲間らしき人物が死体の山をどかして近づく。
「どうかしたのか?」
その人物は、黒髪で和装を身に纏っていた。
防具は軽装で、身軽さを重視している。
長刀を背に携え、柄には龍の文様が描かれていた。
「私の《精神汚染》を解除した方がいます。」
ヴァローナがそう言うと和装の男は、「ほお。」と驚く。
腕を組んでヴァローナの隣に立った男は、ヴァローナが見つめる方角を眺める。
「確か、王都は無くなったはずだろ?」
「いいえ。新天地で街を築いたと噂で聞いています。
方角的にも王都からは逸れていますから。」
「そうなのか。お前の手駒がやられるとは、相当手強い奴が王都にいるらしいな。」
「そうですね。」
ヴァローナにとって、マリーという人間は使い捨ての駒でしかない。
しかし、ヴァローナの持つ手駒の中でマリーは貴重な駒だった。
戦力としては申し分ないマリーを今失うのは、彼女にとって痛手だ。
「まあ、いいでしょう。思惑通りに動いてくれましたから。」
ヴァローナは、フードを外し顔をさらけ出した。
顔は小顔で、瞳は、オッドアイ。右目は緑、左目は青だ。
彼女は、川のように透き通った長髪を前に垂らす。
髪の先端は、カールを巻いていた。
「新しい手駒を用意するのか?」
男は、ヴァローナに尋ねる。
「ええ。我々の計画を成就させるには人手が必要ですから。」
ヴァローナは男に笑みを向けた。
再びフードを被った彼女は、死体の山に近づき、魔法を唱える。
魔法の炎が死体の山を燃やし、炎は死体から死体へと移っていく。
ヴァローナは、フードの下からその光景を笑っていた。
ヴァローナと男は、その場を離れ、北へと歩を進める。
「レイヴン。貴方に頼みたい仕事があるのですが、宜しいですか?」
男は、自分の名を呼ばれ、ヴァローナを見た。
「内容は?」
「私の魔法を解除した者を探して欲しいのです。
王都を見張っていれば自ずと姿を現すでしょう。」
「斬ってもいいのか?」
レイヴンは凶悪な笑みを浮かべて、長刀に手を伸ばす。
「いいえ。手は出さずに、情報を持ち帰ってください。
貴方に死なれては、それこそ計画が破綻してしまいます。」
ヴァローナの発言にレイヴンは長刀から手を離し、腕を組む。
レイヴンは不服そうな態度を示した。
「その言い方だと、俺が負けるみたいじゃないか。」
「貴方の強さは、一目置いていますし、信頼もしています。
ですが、私の魔法を解除できる者など早々いません。それは、貴方もご存知のはずです。
貴方と同程度の強さを持っている可能性を考慮したのですが、
不服に思われたのなら、謝罪致しましょう。」
ヴァローナの発言と態度にレイヴンは、「いや・・・いい。」と謝罪を止めさせた。
「お前の判断はいつも正しいからな。お前の指示に従おう。」
「ありがとうございます。」
ヴァローナは、レイヴンに微笑んだ。
しかし、レイヴンは何の反応も示さず、ヴァローナに背を向けた。
「3週間後、ヴァルハラより北にある《天翔ける丘》で落ち合おう。」
「分かりました。私は、ヴァルハラで用事を済ませ次第、メンバーと合流します。
くれぐれも道中はお気を付けください。」
ヴァローナがそう言うとレイヴンは、その場から姿を消す。
木々は揺れ、木の葉が宙を舞う。
ヴァローナは、ヴァルハラに向け、北へと再び歩みを進める。
彼女の口元は、笑っていた。
「全てはあの方の為に・・・。」
彼女は小さく呟いた。
敬愛するあの方の為に、ヴァローナ達は計画を遂行するのだった。




