《毒の邪蛇》
俺とガルムはイスガシオのディレット宅に訪れていた。
採掘や採取をしている間に、イスガシオの近くまで来ていたのだ。
「唐突に、すまん。」
俺は、謝罪した。
ディレットが慌てた様子で俺に言う。
「やめてください。貴方のお陰で、イスガシオの民は、助かっている。
それに貴方に謝られては、我々の立つ瀬がない。」
「分かった。」と言って俺は謝罪を止めた。
そこへミーナがやってきて、笑顔を浮かべる。
「あ、お兄ちゃん!こんにちは!」
元気な挨拶に俺は、軽く手を振った。
ミーナはそのまま何処かへと走って行く。
『来たついでに国宝の件について説明していくか・・・。』
俺は、ディレットに国宝《炎華龍撃槍》を取り戻した事を伝える。
「本当か!?」
ディレットは、勢いよく立ち上がって、表情を明るくした。
俺は、ディレットを一旦落ち着かせ、座るように促す。
「話しはまだ終わっていない。」
俺は、話しを続けた。
「国宝《炎華龍撃槍》を取り戻したが、国宝を強奪した犯罪者が再び現れるかもしれない。
そこで、王都グラントニアのギルドマスターに託した。
安全な場所に保管しているが、暫くは返還できないだろう。」
「そうですか・・・。」
ディレットは、落ち込む。
俺は、話題を変えた。
「畑は?」
「毒抜きを教えて貰って以降は、
食に不自由は無くなりましたが、未だに畑から毒素は消えません。」
とキャロルがキッチンから姿を現した。
「土壌の土を入れ替えたりは?」
「したが、効果はなかった。毒消しを撒いてみたが、それも一時的な効果だった。」
とディレットが説明する。
「やっぱりか・・・。」
俺はボソッと呟いた。
俺の呟きを聞いたキャロルは俺に尋ねる。
「やっぱりとはどういう意味ですか?」
「ああ~・・・。そうだな。説明するよりも体験した方が早いだろう。」
俺は、ディレットと畑へ向かった。
畑は、以前と変わらず、食用アイテムが毒素に侵されていた。
俺は、《探知》を発動させた。反応はあるのが、薄い。
地面の奥深くに何かいるのは間違いない。
『俺は正体を知ってるけどな・・・。』
「見てろよ。」
俺は、ディレットにそう言って剣を抜いた。
そして、スキルを発動させる。
「《スキル:刺突》」
《スキル:刺突》は、剣士職の初歩スキルである。
剣や槍等の剣士職用武器の突き威力を上げるという効果だ。
「《スキル:ステータス操作》」も付け加え、威力を調整する。
俺は、真下に向かって、剣を突き刺した。
その衝撃は、横に広がる事はなく、真下に伝わる。
俺は、地面から剣を抜き、ディレットに言う。
「ここを掘ってみろ。」
俺が、指さしたのは俺が剣を刺した場所だ。
「分かった。」といってディレットは地面を掘り始めるが、何も出てこない。
そこへ他の獣人が駆け寄ってくる。
「何やって・・・わあああ!人間だあああ!」
「に、逃げろオオオ!」
「殺される殺されるうう!!」
獣人達は俺から逃げようとするが、ディレットがそれを止める。
「貴様ら!恩人に向かってその態度はなんだ!獣人であるならば、俺に協力しろ!」
ディレットの声に他の獣人達は静止した。
獣人達は、お互いを見合ってディレットの手伝いを始める。
獣人達は、時折俺をチラ見するが、俺はディレット達の作業見学を続けた。
約15分後―――――
ディレットの手に何かが当たる。
「あと少しだ!」
ディレット達は作業速度を上げ、掘り当てる。
獣人達は驚愕した。
掘り当てたのは、魔物だったのだ。
そして、その魔物は俺の一撃で死亡していた。
「《毒の邪蛇》又の名を《毒蛇の神》だったかな?」
俺は、魔物名を口にする。
「これが、毒素の正体・・・。」
ディレットは作業に疲れて肩で息をしていた。
「ああ、でもな。こいつ1匹だけじゃない。まだ10匹いるぞ。」
「10!?」
獣人達は息を呑んだ。
「良い事を教えてやる。《毒の邪蛇》は、獣人の血と肉が大好物だ。
毒で弱らせ、死体を喰らう。
国王が殺された時、多くの獣人が死んだと聞く。
恐らく、それが原因で畑に住み着いたんだろう。」
獣人達の背筋に悪寒が走った。
俺の言い方もあるが、嘘はついていない。
「その魔物は、何故地表に顔を出さなかったんだ?」
ディレットは、俺に質問する。
「《毒の邪蛇》は基本的に大人しい魔物だ。
こちらから手を出さなければ、何もしない。まあ、とっくに手遅れだがな。」
俺は、ニヤッと笑みを浮かべた。
畑の地盤が揺れる。
獣人達は、地盤の揺れに尻もちをついて倒れた。
「《毒の邪蛇》は群れで行動する。1匹殺せば・・・後は分かるよな?」
そして、畑のあちこちから、《毒の邪蛇》が飛び出す。
《毒の邪蛇》は毒の牙を剥きだしに、俺達に襲い掛かろうとするが、それは無駄に終わる。
俺は、飛び出してきた数を確認し、ガルムに一言発した。
「やれ。」
ガルムは、素早く爪で魔物を斬り裂いていく。
牙で噛んでしまえば、毒状態になる為、ガルムは本能的に避けているのだ。
数分もしない内に、飛び出してきた《毒の邪蛇》は全滅し、ガルムは俺の元に戻ってくる。
俺は、ガルムを撫でた。
「ワフゥ~~。」
嬉しそうに身体を擦り寄らせるガルムが可愛くて仕方がない俺は、ガルムを抱きしめた。
「よくやった。」
俺は、ガルムのモフモフが名残惜しいが、手を離す。
俺は、立ち上がって、獣人達に発言する。
「これで、食糧難は完全に解決だ。これからは、死体処理に気をつけろよ。」
ディレットを含む獣人達は、呆然とした。
ディレットは我に返り、俺の後についてくる。
ディレット宅に戻った俺とディレットは、再び話しを始める。
「何故、魔物の存在を伏せていたのですか?」
「確証がなかった。魔物だとして、今の獣人達では対処出来ない。
だから、言わなかった。」
「それで、魔物を討伐した事で毒素は消えるのですか?」
「多分な。」
ディレットは、テーブルに前のめりになった。
テーブルに顔をつけ、息を吐く。
「良かった・・・。本当に・・・。」
ディレットの瞳から涙が溢れる。
『涙もろい奴・・・。』俺は、そう思った。
そこへミーナが駆け寄る。
「どうしたの?なんで泣いてるの?」
ディレットは、上体を起こし、ミーナを抱き上げる。
「良い事があったんだ。これからは、美味しい料理が一杯食べられるぞ。」
ミーナは満面の笑みを浮かべて「やったー!」と喜んだ。
『他人の癒しの空間に部外者がいるのは場違いだな・・・。』
「用事は済んだ。俺は帰る。」
俺は、椅子から立ち上がった。
「また、遊びに来てね~。」
ミーナはディレットに抱えられて、大きく手を振る。
俺は、背を向けたまま、軽く手を振るだけに留めた。
――――新王都――――
俺とガルムは、《瞬間移動》で王都に戻ってきた。
既に日が暮れ、街に人気はない。
俺とガルムは、森に身を潜める。
精霊がスキルを行使しようとしていたからだ。
『召喚者だからか、感覚が伝わってくるんだ。』
「うお!?」
俺は、声を上げた。
俺の視界が突然、違う光景を映し出したのだ。
『《スキル:視界共有》だな。』
《スキル:視界共有》は、
相手の視界を覗いたり、自分の視界を相手に見せる事が出来るスキルだ。
精霊は、俺にある光景を見せる。
冒険者ギルドの外壁をよじ登り、一室を覗くマリーの兄の姿が映し出されていた。
俺は、精霊に待機するよう《念話》を飛ばし、冒険者ギルドに向かうのだった。




