男は、絡まれる。
俺とガルムは、冒険者ギルドの酒場でくつろいでいた。
リーゼルは、仕事で忙しいらしく、面会が出来なかった。
報酬を受け取りに来たのだが、如何やらまだ先になりそうだ。
そんな俺に周囲は、視線を向ける。
今まで嫌だった視線が、今では慣れてしまった。
『俺の精神も成長している証拠だな!』
俺は、ジョッキに入った酒を飲み干し、テーブルに置く。
酒場のマスターに追加で酒と料理を注文した俺は、飲み食いに夢中になる。
《宿屋 青薔薇》程ではないが、酒場の料理は上手い。
俺が、ガルムに料理を分けていると、声をかけられた。
「レイダスさん!お久しぶりです!」
「お久しぶり~~。」
俺は、声をかけてきた人物達を見た。
「おう。青年達か。久しぶりだな。」
カイル達だった。
新王都が出来てからというもの俺は、全く彼らと会わなかった。
『今までどうしていたのだろう・・・。』
そんな事を思った俺はある事に気が付く。
「その恰好・・・。魔物にでも襲われたか?」
カイル達の防具には傷があり、服は所々破れていた。
装備している武器も壊れかけ寸前だった。
「アハハハ・・・。」
カイルは苦笑いした。
俺は詳しい話しを聞くことにする。
その前に、座るように言った。
「一旦座るといい。」
「いえ、座ると立ち上がれなくなりそうなのでご遠慮させて頂きます。」
「そうか。」
俺は、ゲイルに断られた。
それだけの疲労を抱えているのだろう。
俺は、座りながら話しを聞く。
「で、どうしてそうなった?」
「俺達は、帰郷する為に王都を出ました。
村に暫く滞在して、王都に戻ったのですが、魔物がうようよいて・・・。」
「成程。」
カイル達は、戦争前に王都を出発。後に王都に戻った。
その時には、既に戦争は終結していて、
それを知らなかったカイル達は《不死者の人間》に襲われた・・・。
辺りが妥当だろう。
「旧王都を見張っていた冒険者か黒い番犬に保護されたのか。」
カイルはコクリと頷いた。
「見事な見解!流石オルドレイ殿です。」
ゲイルは、俺を褒めたたえる。
『正直、そこまで褒める内容じゃないと思うが・・・。』
現状を把握している者なら誰でも分かる。
「今日、ここに来たばかりだろ?休息を取った後、見て回るといい。
防具屋や武器屋、洋服屋も揃っている。宿屋は直ぐに予約が埋まるから、速めにな。」
「あ、ありがとうございます!」
カイルは、頭を深々と下げた。
「何故頭を下げる?宿屋を紹介してくれた恩を返しただけだ。気にするな。」
俺がそう言うと、カイルは頭を勢いよく上げた。
「恩って!そんな・・・。俺達は、レイダスさんに助けて貰ってばかりで・・・。」
カイルは奥歯を噛みしめ、拳を握った。
『やれやれ・・・。』
俺は、席から立ち上がってカイルの頭をワシャワシャと撫でまわした。
「うわ!?何するんですか!?」
カイルの髪はぼさぼさになった。
俺は、再び席につき、笑みを浮かべた。
「俺に迷惑をかけたくないのなら、強くなれ。それまで青年は、ひよっこだ。」
俺は、酒の入ったジョッキを片手に持ち、酒を飲む。
カイルは、ぼさぼさになった髪を直して、真剣な目で俺を見る。
「分かりました!俺、頑張ります!
レイダスさんに一人前と認められるように頑張ります!」
カイルの気合の入った顔つきに俺は、口角を上げる。
「まあ、無理しない程度に頑張れよ。」
「はい!」
元気いっぱいの返事に、イリヤとゲイルは微笑んだ。
「そうと決まれば、イリヤ!ゲイル!行こう!」
「え!? 行くってどこに?カイル待ってよー!」
「オルドレイ殿失礼致します!」
カイルが冒険者ギルドから外へ駆け出して行った。
その後ろにイリヤとゲイルが付いて行く。
「仲良いよな・・・。」
俺は、酒を飲み干し、料理を完食した。
席を立ち上がり、お代をテーブルに置く。
俺は冒険者ギルドを後にしようとするが、眼前に5人の冒険者が立ち、道を塞いだ。
相手は身長が高く、俺は見上げる。
『どう見ても悪だな。』
顔つきが悪者?チンピラ?風な輩だった。
リーダーらしき男は紫の短髪で背に大剣を背負っている。
俺はテペリの巻き添えで絡まれた事を思い出す。
「貴様に用がある。」
「なんだいきなり?」
俺とガルムは、周囲を囲まれた。
「要件は?」
俺は、囲まれつつも冷静だった。
《ステータス操作》を手に入れた俺は、ガルムを巻き込まずに戦闘ができる。
その為、余裕があったのだ。
「貴様に俺の妹が負けるはずがねえ。俺の妹を傷つけた罪を償え!」
「やれ!」というリーダーの号令で相手は武器を抜き、一斉に飛び掛かった。
ガルムは、軽く跳躍し、1人を踏み台に脱出した。
俺も軽く跳躍し、後方へ宙返りする。
《気配探知》を発動させている俺は、冒険者ギルドの出入り口周辺に人間がいない事を確認し、
5人の冒険者を殴り飛ばした。
的確に顔面を打ち抜き、冒険者達は、外でノックダウンした。
俺は、リーダーらしき男の胸ぐらを掴み上げた。
「グウッ!」
口からは大量の血を流していた。
「妹と言ったな?」
俺は、男の肩を殴った。
リーダーの男の骨がボキボキと音を立てて砕ける。
「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛!」
「答えろ。」
俺は、リーダーの男を問い詰める。
拷問のような光景だが、致し方ない。
リーダーの男は俺を睨みつけて、答える。
「マリー・フラクト。貴様に片足と右腕を斬り落とされた女は、俺の妹だ!」
俺は、驚いた。
『兄がいたのか!?』
「逆恨みか。あの女の兄なら、妹が何をしたか事情説明を受けているはずだろ?」
「ッ!うるせえええ!」
マリー・フラクトの兄と名乗る男は、俺に殴りかかる。
俺は、男の胸ぐらから手を離さない。
男の右拳を左手で受け止め、握りつぶした。
「ぐおあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」
男の指の骨を砕いた俺は、男の拳から手を離す。
男の手からは骨が飛び出し、プルプルと震えていた。
「俺に絡んだ理由を言え。」
俺は、無表情に尋ねたが、男は黙る。
口を固く閉ざして話そうとしない。
『殺そう。』と思ったが、周囲にギャラリーが出来て来た為、やめる。
俺は、男の胸ぐらから手を離し、背を向けた。
「これに懲りたら、報復なんて考えるなよ。じゃあな。」
俺は、ガルムを呼んでその場を後にした。
「報復はするな。」と釘を刺したが、あの男は、俺が立ち去るまでずっと睨みつけていた。
『あれは報復しに来るな。』
どのタイミングで攻撃を仕掛けてくるか不明な為、対策の立てようがなかった。
「新しい魔法を使って、監視でも付けるか・・・。」
俺は、人気のない場所で魔法を唱えた。
「《神聖の神専用魔法/第20番:精霊召喚》」
俺の眼前に、《聖》属性の精霊が姿を現す。
人間サイズの精霊は、優しく微笑み俺の指示を待った。
「マリー・フラクトの兄を監視し、不審な動きがあれば、俺に報告しろ。行け。」
精霊は、俺の指示に頷き、マリーの兄の元へ飛んでいった。
《精霊召喚》で召喚された精霊は、召喚者の命令に従順に従う。
lvは100だ。戦闘になったとしても、負ける事はない。
又、精霊を消滅させたいときは、召喚者である俺が念じれば消える。
監視という役目を、精霊に与えたのは適任だからだ。
召喚した精霊にはスキルとして《透明化》がある。
常時隠れる事が可能な精霊には打ってつけだ。
それに、俺も《透明化》は使えるが、常時付いて回るわけにはいかない。
俺にも用事というものがあるからだ。
後の事は、精霊に任せ、俺とガルムは久しぶりに採掘や採取に熱中するのだった。




