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爪先で閑話

作者: 樫居 青

SSに磨きをかけた短い小咄2つの詰め合わせです。おセンチと電波に拍車がかかっている。お蔵の供養。

「轡と反響」


痛い、と声を上げた。痛い。痛い。まるで底の無い黒に飲み込まれてしまいそうだ。ぱくりと口を開けたそれが三日月型に歪んでいる。無様に藻掻く様を嗤っている。誰にとも無く手を伸ばした。誰でもいいから触れて欲しかった、それが誰の手であろうと救われるような錯覚を覚えた。ごぽごぽと、唯酸素だけが吐き出されてゆく。吐き出されて、再び戻ることはないのだと識った。手放したそれにどんな感情さえ抱けなかった。ぼんやりと視界に揺らめいた、ような気がした人影は、果たして幻だったのだろうか。幻想、妄想。浮かべては否定したそれらが、また頭を擡げ始める。絶叫。それすら誰の手にも触れずに、霧散。嫌々と赤子のように身を捩れば、鋭い痛みがまた趨る。足元は、この躯は相も変わらず地を覚えず、馬鹿みたいに麻痺しかけた脳味噌を縛っている。いっそ気が狂ってしまいそうで、そうなってしまえばいよいよ楽になるということだけは知っていた。知っていたのに、馬鹿みたいにそれを拒むのは、だらしのない惰性の賜物であるからだろうか。それとも直視しないように遠ざけてきた、眩しすぎたあの時間や、あの瞳に縋っているからだろうか、今更、まだ。その瞳を淡く脳裏に描いて、次には声を上げる。それが誰のものかを理解するのに数秒、そして声は終ぞ黒に融ける。





「Debark, xxxx me」


この声が失くなってしまえばいいと思った。だって、これが無ければ君を傷付けることもない。いつか君を殺めかけた揶揄が、皮肉が、それから、君の嗚咽が、押し寄せては反響する。五月蝿い、五月蝿い、響いた鈍い音には憶えがなかった。けれど、じんじんと痛む右の拳、ようやく自分の発した音だと識る。要らない、要らない、いらない、こんな声など、いらない。だって、そうでしょう?その視線が、返答が、深く深く刺さる。どうせなら君のその声で、轡の様に塞いでくれよと思った、余りにも、夢心地。まるで自分勝手な、慾。これがどれほど君を傷付けたのか、僕は今まで解らなかったのだ、嗚呼。なんと、愚か。ねえ、君はどうして、今まで"耐えて"くれたのだろう。微かに触れる指先は何時も暖かかった、優しかった、どうして。君が体温を分けるべき他人はきっと僕じゃないでしょう、それとも、なんてまた御都合主義の迷妄。吐き棄てた言葉も、関係も、元に戻るなんてないのに。それでも、自ら選んだそれに未練を分厚く塗りたくって、再び糸を繋ごうと足掻く僕は、どれほど滑稽だろう。けれど、どんなに不格好だろうと君は嗤いはしない、ただ、微笑っている。いっそ幻覚かと見紛う程。いっそ、突き放してくれたら良かったのに。君のその優しさに縋って、僕はいつまで経っても宙ぶらりんで、それがぎしぎしと鈍い音を立てた。そうしてその音さえ、逝き場すらなく反響の果てに盪いてゆくのだ。淋しいかな、淋しくなんかないよ。唯ほんとうは、ー―

お久しぶりです。久しぶりの更新がこんなやつでも許してください。

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