答えなど探すだけ無駄だときっと分かっていた
ばんははろ、EKAWARIです。
本作はあらすじにも書いている通り、元々はpixivにアップした落書きイラストのおまけSSとして特になんにも考えずぼーと書き下ろした話の加筆微修正版となっております。
それは暑い夏の日の事だった。
ミンミンと蝉が鳴き喚く季節、『僕』は24回目の誕生日を迎えた。
それと同時に来た暑中見舞いの葉書には、懐かしい高校時代の友人が一児の父になったことが書き留められていた。
大学を卒業して、今の会社で働き出してから1年と少し。まだまだ青二才だなあと我が身を思う僕に対し、周囲は随分と進んでいる気がして幾ばくかの寂しさを覚える。
あの校舎で過ごした日々が懐かしい。そうやって久しぶりに高校時代の事に思いを馳せていたからだろうか。僕は……彼女のことを思い出していた。
「ねえ、キスの味って知ってる?」
まるでからかうように、けれどどこか自嘲するような声でそう僕に言葉をかけた女。
別に恋人とかじゃない。強いて言うならたった3ヶ月の義理の姉で、高校の同級生で、クラスメイトでもあった女というだけだ。
高校に入ったその時から浮世離れした雰囲気のその女は変わり者で、友達の1人もいず、いつも教室の隅で空を見上げながら過ごすそんな女だった。美人かどうかと言われたら答えにつまる。不細工というわけではなかったが、取り立てて褒め称えるような所もない女だった。
きっと、彼女が母の再婚相手の連れ子でさえなければ僕だって関わろうとはしなかっただろう。
否、義理の姉となってさえ、僕は積極的に彼女に関わろうとした事は無かった。
当然だ。いくら母の再婚相手の子供とはいえ、僕とは血の繋がりもなんにもない他人だったのだから。
それでも同じ家で暮らす以上、他の人より近い事には違いない。
だから、無視することも出来なかった。
「ないんだ。君って童貞?」
「で。あんたは何が聞きたいんだ? いっとくけど、セクハラならお断りだぞ。そこまで家族面されても困る」
「それは私だって困るよ」
そういって苦笑する女。
「ただ、聞いてみたかっただけ」
そういって女はまた空を見る。
ミンミンと蝉の声が煩く鳴り響く中、夕焼けが教室を照らして、少女の横顔が朱に染まる。それが、どこか奇妙で、まるで現実感がなかった。
ただ、おかしな女だと思う。
ふわふわと浮世離れしていて、不気味で。そして、どこか彼女は渇いていた。
別に僕と違って部活に入っているわけでもないくせに、中々家に帰ろうとしない彼女の胸の内はわからないし、知ろうとしたこともなかった。でもそうやって、ただ教室から外を見ている彼女はまるで……羽を切られた鳥のようにも見えたんだ。
現実感がなかった。現実味がなかった。まるで、僕とは正反対の人種だった。
後に知るその理由を、でも僕はこの時点で既に悟っていたような、そんな気がする。
夕焼けに染まる教室。逢魔が刻と呼ばれる、現実があやふやになるそんな時刻。
「ねえ……」
まるでカラの瞳で。
「ここにいることに意味なんてあるの?」
そう彼女は呟いた。
意味がわからない。そう片付けるのは簡単だった。寧ろそれが正解だったのだろうとさえ、僕は思う。
でも、だけど直感で理解してしまったのだ。彼女が僕に何を問いたかったのか。
ここというのは、この教室のことについてじゃなくて、この世にいることについての問いだって、なんとなくわかってしまった。
生きている事に意味があるのかと、そんな質問。
ゆっくり考える。元々哲学的なことはあまり得意じゃない。考え込むのは苦手なんだ。
だから、さほど時間をかけるでもなく、思ったままを口にした。
「そもそも人生に意味なんて要るのかい?」
そう答えると、彼女は「それもそうだね」と哀しそうに嗤った。
後にも先にも、互いを意識して言葉を交わしたのはこれが最初で最後だった。
当然のことだと思う。
何故なら僕の母は、この3日後に彼女の父と別れたからだ。
その離婚の理由というのが、なんとも衝撃的な……けれど、僕にとってはどうしてか別に意外でもなんでもない理由で。母は夫となった彼女の父が我が家で別の女を抱いている姿を見てしまったからなんだ。
本来であれば浮気相手と呼ぶべきその女の正体というのが彼女だった。
そう、母の再婚相手だった、たった3ヶ月の僕の養父は実の娘を手籠めにしていたんだ。
母は発狂した、怒り狂った。養父を憎み、娘として迎え入れた彼女も憎んだ。
どう考えたって実の父親に犯された彼女も被害者だろうに、母がそれを聞き入れることもなかった。
彼女は何1つ言い訳をするわけでもなく、ただ全てを諦めたような目で「やっぱりこうなったか」と言葉にするでもなく語り、それきり僕ともう一度会話を交わす機会もないままに僕らの家を出て行った。
そうして3ヶ月だけの義理の姉と、義理の父は隣県へと引っ越した。彼女達との関係はそれきりだ。
ただその3ヶ月後、風の噂で、彼女が学校の屋上に侵入して飛び降り、自殺したのだとそう聞いた。
だからといって、僕が特に思うことはない。
なんだか可哀想だなとそれだけで、他に思うことなんてなかった。
だってそうだろう?
いくら義理の姉とはいえ、たった3ヶ月共に暮らしただけの相手だ。恋人でもなければ友人でもなかった。けれど、時々思い出して思う。
あの時僕は「人生に意味なんて要るのかい?」とそう答えたけれど、他にもっと良い言葉はあったんじゃないかって。あの期間限定の義姉だった同級生が自殺なんて、そんな結末以外を選べる道はあったんじゃないのかって。
でも答えなど探すだけ無駄だときっと分かっていた。
人の過去は変わらない。そしてあれはもう終わった事だ。
だけど。
今日、僕は24歳の誕生日を迎えた。
今はまだ僕は何も成していないけど、それでも暑中見舞いの葉書を寄越してくれた友人のように、いつか結婚して子を成し、そうやって未来を紡いでいくのだろう。
永遠に17歳で時を止めてしまったあの子とは対照的に、僕の辿る道は未だ遠く遠くへと続いていく。
だから今週末、約3年ぶりに、誰も悲しむ人がいない可哀想な義姉の元へ、せめて花でももって会いに行こうと思う。
殆ど他人みたいな間柄の君と僕だったけれど、誰も悲しむ人がいないというのは、寂しいことだから。
―――――……だからせめて墓前に花を捧げる。
了
ご覧頂き有難う御座いました。
因みに、2次元では近親相姦といったら、兄×妹が大人気ですが、現実では父×娘が1番多いらしいです。どう考えても性被害的な意味だろうけど。逆に1番少ないのは息子×母だそうです。えろねたでは定番なのに不思議!(つまり、ファンタジー)