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第1話:テンプレ的な始まり 『知らない天井だ・・・』

そして僕は夢を見る。


第三者の目線で、自分で自分を見ている不思議な感覚。ジョ×ョで言えばスタンドになったような気分だ。夢の中で、何かしらの「日常」を繰り広げている僕は、これが夢であることに気が付いていない。


唐突のストーリー転換、意味の分からない理屈や論理がまかり通る世界。目まぐるしく変わっていく不規則的なその「日常」でも僕は楽しそうに、そして幸せそうにしていた。あ、この夢では僕は友達が多いんだな。まったくもってうらやまs・・・そうでもないか別に。


完全なぼっちなら寂しいかもしれないけど、現実(リアル)の僕にも友達くらいいるにはいるし。・・・っておおおおおぉーっとぉななななんとぉ?! この夢の僕は彼女がいるみたいじゃないか。手なんか握りあっちゃって、わーうらやまし、もとい厭らしい。しかも超絶美少女じゃん。これってあれ? 自分の願望が形になっている的な? 夢だから自身の欲に忠実になっているとでも? おっかしいなあ、自分は面食いじゃないと思っていたんだけど。


あ、今さりげなく彼女?の肩に触れた。肩にごみが、とか言ってんのかな。女の子も満更でもなさそうにしてるし。いやはや、仲がよろしいみたいで。よきかなよきかな。でも二人とも気づいてる? 君ら友人に囲まれてるんだよ?あぁ、でもいるか。そんなバカップル。


・・・・・というか、、何が悲しくて僕は僕自身に嫉妬しなければいけないんだろう。やめよう、いくらなんでも不毛だ。どうせ夢だし。


そんなどうでもいいことをつらつらと思いながら、僕は夢の世界で繰り広げられている日常を眺める。


ふ、と。

少女が振り返った。いや、こちらに向き直った。

さっきまで夢の僕が侍らせていた女の子ではない。バカップルを囲む、無数の友達の中の一人。


でも、さっきまでこんな子いたか? 

突然ポッと現れたのかもしれないし、初めからいたのかもしれない。

儚げな印象とは裏腹に妙に目が引かれるような存在感を彼女は放っている。

彼女はひた、ひた、と僕の至近距離まで近づいてきた。夢の中の僕じゃなくて、このスタンド状態の「僕」にだ。


 小柄で、やや華奢な身体。すらりと伸びたその四肢はともすれば不健康にも見えてしまうほどに細い。新雪を連想させるほど真白な柔肌。腰まで届くその白髪はさながら最高級のシルクのようで、たなびくそれ自身が輝くようにきらきら光を放っていた。


 顔は、わからない。というよりも、ぼんやりしていて見えないんだ。顔の部分だけ、他ははっきりと認識できるのになぜか顔だけがよく見えない。

 彼女は僕に向き直っている。体をこちらに向けて、ただじっと立っていた。

 微動だにせず、しかしぼうっと立っているのではなく芯が通っているかのように確かな意志を感じられるような、そんな立ち方で。


「         ね」


何かが聞こえた気がした。

気が付くと、その子だけがそこに立っている。さっきまで周りにいた夢の中の僕や、その取り巻きたちはどこかに消えていた。


あれ? これ夢だよね? なにこれ? 「夢の中の僕」がいなくて、「僕」がいる。そういえば妙に意識がはっきりしている。普通夢の中の出来事って川の流れのように強制的に過ぎていくものなのに、その流れが今は停滞しているような。



胡蝶の夢ということわざを思い出す。



・・・・・いや。

僕はかぶりを振る。きっと、「そういう夢」を見ているのだろう。ここ最近はとんと夢を見る機会が減ったけど、だからこそ、こんなこともあるだろう。

そう納得した。納得しようとした。そうしないと、何かに気が付いてしまうような、気が付いてしまうのはまずいような。


そんな得体のしれない不気味な予感がしたから。



「 や   きみ     た  だ」


また、何かが聞こえた。

よく見ると目の前の女の子の口が動いている。この子がしゃべっているのだろうか。でも、それならどうして途切れ途切れに聞こえてくるんだろう。

あぁ、夢だからか。


「    は   てく  あ   う。で 、     うらみます」


ふわっ、ふわっとした彼女の「声」ははっきりしていないけど、それでも僕は最後の言葉だけは明確に聞き取ることができた。

うらみます。そう、確かに聞こえた。


うらみます。恨みます? なんだ、僕はこの子に恨まれているのか? 

でも、彼女が放つ雰囲気はかなり柔らかい。ちょっと私不貞腐れてますよー、怒ってるんですよー、みたいな感じの空気。それに笑っているのか、ふふふっという可愛らしい笑い声が聞こえる。

ぶっちゃけまるで怖くない。


むしろ、ほんわかするような、心の底から安心して、暖かくなるような・・・





ぴきり、


  ・・・・・・・嫌な、嫌な音がする。


ぴきぴきっ、


  割れる音がする。


ぴきぴきぴきぺき!


  割レる。何かが割れる。


ぱきぺきぴきぴきぱきっ!


  割れル。頭の中ニある、なにカがワレそうダ。



「おもいだして」



ばきっっ!


ダメだ、われるな。われてはいけない。いけないんだ、それは。ぼくはそれをわってはいけない。でないと、でないと、でないとぼくは。

ぼくはきっと。




また、泣いてしまう。





「――――大好きだよ」



そして・・・何かが。

頭の中の何かが、音を立てて割れた。

巨大なガラス版が粉砕したような、甲高い音。

嫌な音。嫌な音だ。

だけど、だけど、だけど。

だけど、何故かそれが・・・・・耳に、心地よかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「―――――――っ!!!!」


ガバッ!!

僕は跳ね起きた。


「っは、っは、っは、っは、っは、っは、」


全身にいやな汗をかいている。悪寒もする。

額からは今でも汗が流れ出て、首元へと伝い落ちる。着ていた白Tシャツが汗でべっとりと背中に張り付いて、ジーンズすらじっとりとする。ただただ不愉快だ。

荒れる呼吸を整える間もなく僕は両手で顔を覆った。


悪夢だ。

僕は悪夢をみた。怖かった。何かが心底怖かった。だというのに、それがどんな夢だったのか、どんな内容だったのか一片たりとも思い出せない。


悲しくて、怖くて、切なくて。僕は夢で、何かを恐れていたんだ。

それがいったい何だったのか。今はもう、皆目見当つかないけど。


「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、・・・・・すうううぅぅ、・・・ふううううううう」


とりあえず、深呼吸。

よっぽど呼吸が浅かったんだろう、酸欠で頭がふらふらする。


「すうう、ふうう、すうう、ふうう、すうううううっ」


何度か肺いっぱいに空気を取り込み、排出し、を繰り返して、最後に吸った息を大きく吐こうとした。が、僕は息を詰まらせた。両目がかっと開き、数秒呼吸が停止し、ふしゅうううと少し情けない感じで鼻から肺に溜まっていた空気が抜けた。

そうとうな間抜け面をさらしていたかもしれない。いやでも無理もないと思う。


「どこだ、ここ・・・? なに、どっかの建物の中?」


僕は、僕がいるべきはずの自室にいなかったのだから。





あたりをきょろきょろと見渡す。この部屋・・・といっていいのかは分からないけど、僕がいるここはたぶん、高校の教室二部屋分より広いと思う。それも、円形だ。 


見上げてみると、天井が妙に高かった。手は当然のこと届かないにしても・・・これは30m以上あるんじゃないか? 目測だけど。


僕はすこしちぐはぐした印象をこの部屋に抱いた。巨大な煙突の底にある部屋のようだ、この場所は。


また、どうやら僕は廃れた石造りの建物にいるらしい。

半壊しているが木製のベンチが規則正しく配置されていて、祭壇のようなものもある。祭壇といってもそんな物々しいものではなく、教会の神父さんが立ったまま使う机のようなものだ。わざわざ祭壇といったのは、ろうそくや食器のようなものが置かれていたから僕がそう感じただけで、ほかの人が見れば別の印象を抱いたかもしれない。


石造りの、というのはベンチと祭壇以外が石を用いて造られているからだ。床や天井はもちろん壁や窓のような穴さえ石造り。そのうえ相当な年月が流れているのか、あちらこちらがかけており、コケや雑草、シダ類の植物が石と石の隙間あたりから生えていた。


比較的新しい遺跡。あるいは雰囲気的に廃墟と化した教会といったところだろうか。いずれにしろ不釣り合いなまでに屋根が遠いけど。

それと、さっきから僕の頭に一つの疑問が浮かんでいる。初めから思っていたことなんだけど、僕は、一体全体どこにいるんだろう?


仮にここが新しい遺跡、あるいは廃墟と化した教会だとして、僕が住んでいる町にそんなものはなかったはずだ。これは断言できる。


祖母の原付に乗り始めたころは、ついテンションが上がって町の隅々まで走り回った。それこそ、林道やら山道やらを原付で強行したものだ。今考えたらかなり無茶をしてたと思う。しかもあんなレトロ原付で。

でも後悔はしていません。


話がそれた。

とにかく、僕は町や目につく建物は網羅していると断言できるのだ。そもそも町の規模はそれほど大きい訳じゃないから無理な話でもないし、マウンテンバイクとかモトクロスバイクを持っている人なら僕以上にこの町を探索できるはず。

でも、僕はこの遺跡あるいは教会の存在を知らない。あれば必ず知っているだろうし、万が一僕が知らなかったとしてもあの町に長年住んでいる人は知っているはずで、でもそんな話すら僕は聞いたことがない。


では、僕の町ではないと結論付けたとして、結論付けたところで結局僕がどこにいるのかは分からなかった。


それもそうか。

僕は腕を組んで、考えることに集中する。

もう一つ、疑問がある。ある意味一番不可解だ。


「どうして僕は、部屋にいないんだろう・・・?」 


つい言葉が口から洩れた。

いや、眠りに落ちたタイミングははっきりしないにしても僕が眠る寸前までは自室のベッドの上に寝転んでいたはずだ。それはきちんと記憶している。だって、洗い立てのふかふか枕に顔をこすりつけてたし。気持ち良いっ! ってやってたし。  でも目を覚ませばこんな場所にいる。


僕は頭をがしがしと掻いた。

さて、どういうことなのだろう。さっぱりわからない。考えられる理由としては・・・


1.寝ぼけてさまよい、ここにたどり着いた


いや・・・、考えといてなんだけど、これはどうなんだろう。寝ぼけていたとしても町から離れるなんてそんなことあり得るのだろうか。そりゃあ町自体は大きくはないけども、さすがに歩いて出るとすればそれなりの時間がかかる。それを寝ぼけたままふらふらと、何十分も目を覚まさないまま歩き続けるなんて無理じゃないか? というか、かなり非現実的だ。


2.さらわれた


 いやマンガじゃないんだ。誘拐なんてそうそう起こり得るものじゃない。それ以前に僕を誘拐するメリットなど何一つ見当たらない。言ってて悲しくなるけど、これは確固たる事実で、父は日本じゃ大手の自動車会社に営業マンとして勤めているけど別にその地位が高いわけじゃないので給料は人並みだし、母は専業主婦で収入など一切なし。あるとすれば父の収入から捻出したヘソクリくらいのものだろう。


 祖母だって、過去から貯めていた貯金と年金で生活している。

 凡庸も凡庸。他の家と比べて目立つところといえば中学2年の妹がノートパソコンを持っているくらいじゃないだろうか。あのリンゴマークの。しかし、それも特段珍しいことでもないだろう、今のご時世じゃ。


仮に金銭面じゃないところで、少し大げさな物言いだけど例えば「築島家」の人間を誘拐することに重きが置かれているとすれば、誘拐される人間は僕ではなくて妹のはずだ。無論、妹が誘拐されるくらいなら僕が誘拐されるほうがマシだが、抵抗されることを考慮すれば、僕と妹どちらが御しやすいかなんて考えるまでもない。


そうやって考えてみれば、誘拐の線はだいぶ薄くなると思う。繰り返すけど僕を誘拐することにメリットなど皆無なのだから。そういえば今気が付いたけど、僕って縛られていなかったな。ならもう、誘拐の線はないといっても過言じゃないかも知れない。


3.祖母が連れてきた

 可能性としては・・・・・・なくはない。ここへ僕を連れてくる手段は僕には思いつかないけど、長い時間を生きてきた祖母のことである。きっと何かしらの方法があるのだろう。


 でも、理由がわからない。僕を眠らせたまま、町ではないどこかの廃墟に、僕一人を残していく。そこにどんな理由があるのか僕には皆目見当つかない。少なくとも昨日の晩御飯まではいつも通りの様子だったし、家の中も不自然なところはなかったように思う。



ううん、だめだ。さっぱり分からない。

僕は気持ち深くため息ついて、また天井を見上げた。


高い。

ほんと、なんで天井だけ馬鹿みたいに高いんだろう。大体石造りの教会ってのも色々と問題あるんじゃないか? 耐震基準? に引っかかりそうだし、だとすればすぐにでも取り壊されそうなものじゃないかと思うんだけどなあ。


ぶるっ!

ふいに、体が震えたところで僕はようやく気が付いた。


「え、なんか結構寒くね・・・?」


いったん気が付いてしまうとそこから連鎖的に体が反応してしまう。汗でぬれたTシャツとジーンズが冷たく、歯と歯がカチカチと音を鳴らし、吐く息は白い。こころなしかほほのあたりや口元の肌が乾燥している気がする。息を吸い込んでみるとひんやりした空気が肺を満たした。


冬。自分で解説したことを顧みてみると、描写が完全に冬だった。

おかしい、これはおかしい。いよいよここが日本ではない可能性まで出てきたぞ。いやだって昨日までは夏でしたよ? 夏なのにここまで寒い? 北海道でもありえないでしょうが、常識的に考えて! 


「さ、寒い・・・」


いよいよ耐え切れなくなって僕は体を抱えた。残念ながら僕は小学校のやんちゃボーイの様なタフさもワイルドさも持っていない。


「と、とりあえず体を動かして・・・っ!」


今までずっと座り込んでいた僕は、勢い一つ、くっと立ち上がる。それからなんとなくその場で足踏み。息も細かく吐いてみる。


「ふっふっふっふっふっ。どうせなら歩き回ってみようかな。なにか羽織るものとかあればいいけど」


足踏みしながら独りごちる。

この際だ、布であれば何でもいい。それか可燃性の何か。それでたき火を起こす!念のためにその辺に転がっていた具合のいい棒切れを持つ。うむ、ちょっと安心。それとちょっとのわくわく。


こんな状況下でわくわくなんて僕も業が深いな。けどやっぱり男子である以上、武器を手にしてしまうと心が躍ってしまう。それが例え壁にたたきつければ一発で折れてしまうようなひょろっちい棒切れでも、いったん武器だと意識してしまえばそれはもう立派な「武器」なのだ。


うむ、よく手になじむ棒切れだ。いや、ランクアップして木の棒にしてやろう。

ふっふっふ、ゲームでいえば改造して強くなったようなものだな。何も手を加えてないけど。







ピロリン♪

≪【木の棒】を取得しました≫

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