ダンジョン&スライム⑧
小部屋の中には30匹以上のスライム。お尻を治療中のナユラの援護は期待できない。2日前の俺は、ナユラが誘導してきた大量のスライムに殺されそうになったが、今日の俺は違う。スキルレベルが上がり、盾も鉄製にパワーアップした。同時に30匹だって倒せるはずだ!
「うおー!」
アミンは雄叫び上げながら、にじり寄ってきたスライムに回転横斬りを放つ。斬られた3匹が真っ二つなり、べちゃっとした液体をまき散らした。右から飛びかかってきたスライムを叩き斬り、左から飛びかかった2匹はラウンドシールド弾き飛ばした。更ににじり寄って来た2匹を、連続斬りで切り裂いた。
「周り中がスライムで、狙いを定める必要もないぜ」
草でも刈るように、スライム目掛けて回転横斬りを繰り返す。剣を振り回せばスライムに当たる。次々にスライムは切り裂かれて液体をまき散らした。そろそろかな?と思い、自分の内面に問いかけてみると、「もっと早く聞くのじゃ。剣スキルが4に盾スキルが3にレベルアップしたのじゃ」と内なる声が響いた。レベルアップに勢いづいたアミンは、くるくると回転横斬りを繰り返し、スライムを切り裂いていった。
「アミンって本当に見ていて飽きないな。上級モンスターハンターに、最強に憧れて自分を鍛え続ける少年とそれを健気に支える美少女・・・最高の組み合わせね。それに、最弱のスライムを楽しそうに殺戮し続ける姿も、ちょっとダークな感じがしてゾクゾクするくらい素敵だな。もう、お尻は痛くないけど、もう少し私だけのアミンを眺めていよう・・・」
お尻がすっかり癒されたナユラであったが、戦闘には参加せず楽しそうにアミンを見つめ続ける。その視線は12歳の少女にしては艶っぽい視線だった。
レベルアップにより、ますます動きが良くなったアミンは30匹のスライムをあっという間に片づけた。これで今日のスライム討伐数も100匹を超えている。いままでの出現パターン通りなら巨大スライムが出現するはずだ。アミンが警戒を強めていると、ドスン!ドスン!と飛び跳ねながら小部屋にスライムが入ってきた。警戒していたアミンだったが、今までとの様子の違いに戸惑った。
「・・・巨大スライムが3匹来た・・・」
アミンの身長を超える大きさの巨大スライムが3匹。今までは大きさの違い、色の違いはあったが巨大スライムは1匹ずつしか出現しなかった。しかし、今回は3匹同時に出現した・・・アミンが「どうする?」と攻撃を躊躇した直後、巨大スライム達の目がギラリと光った気がした。そして・・・
びょーん!
3匹の巨大スライムが同時に2メートルほど飛び上がり、アミン目掛けて落下してきた。この攻撃は死にそうになった苦い経験と共にアミンの記憶に深く刻まれている。前転しながら、飛び上がった巨大スライムの下を潜り抜けた。
どすん!と落下した巨大スライムの攻撃は空振りとなり、無防備な背後をとったアミンは3匹に回転横斬りを放った。巨大スライムを一撃で切り裂くことは出来なかったが、怯んだようにプルプルと体を震わせた。怯んだ1匹・・・巨大スライムAをアミンは全力の縦斬りで真っ二つに切り裂いた。
「まずは1匹・・・はあ、はあ、はあ・・・」
肩で息をしながらアミンは呟いた。スライム達との連戦による疲労と、複数の巨大スライムを1人で相手にする緊張感により、アミンの疲労の色が濃くなっていく。
「アミーン。大きいのがまた2匹くるよー」
無慈悲なナユラの報告にまさかと思いながらも振り返ると・・・小部屋に2匹の巨大スライムが、体をプルプルプルと揺らしながら入ってくる。アミンは4匹の巨大スライムに囲まれてしまった。4匹は、体当たりと体の一部を伸ばした打撃を仕掛ける。巨体から繰り出される攻撃は、どれも一撃一撃が重い・・・アミンの盾で辛うじて防ぎながら、1匹の巨大スライム・・・巨大スライムBに攻撃を集中した。隙が生まれるような、全力の大振りはできない。あくまでも盾での防御に集中しながら、少しずつ巨大スライムBを切り取っていく。20回以上斬りつけただろうか、神経をすり減らす攻防の末に巨大スライムBは力尽き、べちゃっとした液体をまき散らし動かなくなった。
「はあ、はあ、はあ・・・やっと2匹倒した・・・」
「アミーン。大きいのが更に2匹くるよー」
2度目の無慈悲な報告と共に更に巨大スライム2匹登場・・・死ぬかも知れない・・・だけど、俺は諦めない、戦い続ける。上級モンスターハンターになるために!
「光の輝きをもって闇を打ち砕かん・・・閃光!」
アミンの体から瞬間的に強烈な光が放たれた。アミンを包囲していた5匹の巨大スライム達は閃光を直視し目を回す。
「ギャー!目が潰れるよ・・・目が潰れるよ・・・」
アミンの戦いを見物していたナユラも、閃光を直視したようで悲鳴を上げている。ナユラも心配だが、このチャンスを逃す訳にはいかない。巨大スライムに飛びかかろうとした時、「・・・のじゃ」微かに内なる声が聞こえた気がした。「いいから早くするのじゃ。光魔法がレベルアップして、攻撃魔法を覚えたのじゃ。早く使うのじゃ」と内なる声が響いた。突然、響いた内なる声に驚きながらもアミンは叫んだ。
「大いなる光よ。迷宮を照らす尊き光よ。我が剣に収束せよ・・・」
内なる声に教えられた呪文詠唱が完成すると、アミンが持つロングソードが強烈に輝き出した。剣に光の力が収束されていく。
「我に仇為す敵を貫け・・・閃光剣!」
呪文詠唱が完成し、アミンは強烈に光り続ける剣を振りぬいた。収束された光が解き放たれたれ、一直線の光の斬撃となり3匹の巨大スライムを真っ二つに切り裂いた。
「はあ、はあ、はあ・・・これで5匹倒した・・・残り2匹だ・・・」
残り2体の巨大スライムは、閃光の目潰しから回復し、アミンへ2匹同時の体当たりをしかけた。アミンは1匹・・・巨大スライムFの体当たりを盾でがっちりと受け止め、もう1匹・・・巨大スライムGの体当たりに合わせて剣を全力で振り下ろす。見事なカウンターとなった斬撃を受けた巨大スライムGは縦に切り裂かれ、べちゃっとした液体をまき散らした。
「残り1匹・・・」
アミンは盾で体当たりを受け止めた巨大スライムFを力ずくで押し返した。間合いが2メートル程開き、アミンとスライムFが睨み合う・・・一瞬の静寂の後、巨大スライムFが動いた。
びょーん!
巨大スライムが飛び上がると同時にアミンも空中へジャンプした。空中で視線が絡み合う。巨大スライムは体の一部を伸ばし、アミンを叩き落そうとする。アミンも空中で回転横斬りを放った。アミンの回転横斬りは、伸ばしたスライムの体の一部ごと、巨体を真っ二つに切り裂いた。空中戦を制したアミンは片膝をついて着地し、ロングソードを鞘に納めた。
スライム達との激戦が終わった。スライムを30匹倒し、巨大スライムを7匹まとめて倒した。アミンがひと時の満足感に浸りながら、内なる声に問いかけると「よく頑張ったのじゃ。剣スキルが5に盾スキルが4にレベルアップしたのじゃ」と声が響いた。
「忘れていた・・・そういえば、ナユラは無事だろうか・・・」
アミンは戦いに集中し忘れていたナユラを探した。確か光魔法の閃光を直視して、一時的に視力を失ったはずだが・・・ナユラはすぐに見つかった。どうやら、視力を失ったナユラはダンジョンの壁に頭をぶつけて意識を失ったようだ。壁際に頭に大きなたんこぶを作って、お尻丸出しで気絶しているナユラを見つけた。スライムにかじられた、お尻は完治しているようだった。とりあえず、ズボンを上げてお尻をしまい、壁に背を預けるように座らせる。ここはスライムダンジョンの中だ。いつスライムが集まってきても、おかしくないのだ。油断することはできない。アミンはナユラの隣に座り・・・
「・・・全ての・・・生命を・・・育む光よ・・・汝に・・・降り注げ・・・・・・生命光!」
疲れ切ったアミンの呪文詠唱は、たどたどしく途切れ途切れだったが魔法は発動し、2人は癒しの光に包まれた。魔法の効果でナユラのたんこぶが、小さくなっていく様子を眺めていたが、アミンは激しい疲労感に襲われ瞼を閉じた。
「少しくらいなら、油断してもいいだろう。今日はそれくらい頑張った・・・」
アミンはナユラの肩に頭を預けて眠りに落ちた。