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ダンジョン&スライム⑦

「2人とも今日の朝ごはんは、新鮮野菜のサラダよ」


 今日もいつもと同じ朝を迎え、いつもと同じ新鮮なサラダが朝食だ。いつもと同じ日常と思ったが・・・アミンはマーリが丹精込めて育てた野菜をむしゃむしゃ食べながら、いつもとの違いを呟いた。


「今日のマーリさん、いつもと違うような・・・」

「まあまあ!アミン君が女性の小さな変化に気が付く男の子に成長して、お母さん嬉しいわ」


 小さな変化というか、いつもノーメイクのマーリは、今日は朝からお化粧をバッチリ決めていた。


「お母さんが朝から、鈍感なアミンが気づくくらいのケバめのメイクをしているよ・・・夜のお仕事感が半端ないよ・・・嫌な予感しかしないよ・・・」

「ナユラ。女にとってのお化粧は、なりたい自分になる為のきっかけとなる魔法なのよ。女はみんな、生れながらのマジックユーザーなのかも知れないわね」

「さすがお母さんだよ。私もお化粧マジックを習得したいよ。昼と夜の顔を使い分けたいよ。すでに風魔法のマジックユーザーではあるけど・・・」

「お化粧の道は果てしなく長く険しいものなの。だけど、これだけは覚えていて欲しいわ。ケバめのメイクに惹かれ、下心満載の危険な男がたくさん集まってくる・・・この男たちを上手く利用できれば、勝利を掴むこともできるのよ」

「まさにハイリスクハイリターンだね。リスクの面でどんな目に合うか、想像するとちょっとドキドキするよ・・・」

「リスクを恐れては前には進めないわ・・・前だけを見て進んでいく覚悟を決めたの。お母さんは、隣町に行ってみようと思う・・・何をしに行くかは、まだ内緒よ。ウフ!」


 隣町といっても、乗合馬車に乗って半日もかかる気軽には行けない距離にある、大都市ムグラン。大陸南西に位置する最大の都市で、人口も産業も犯罪率もピンチもチャンスも、ピロマ村とは比べ物にならない。


「お母さんは、そろそろ乗合馬車の時間だから出発するわね。帰りは、明日の夜になると思うの。材料は畑にあるから、食事は2人で作って食べるのよ」


 マーリが隣町に向けて出発し、アミンとナユラが2人残された。


「マーリさん・・・お化粧バッチリでムグランに何をしに行くのかな?」


 アミンの問いかけに返事がない・・・ナユラは血走った眼を見開き、ブツブツと呟き続けている。


「2人きりの夜・・・危ないよ・・・・どんな、間違いが起こってしまうか分からないよ・・・準備は出来ているよ・・・」


 ナユラの放心しながらの呟きは止まらないが、今日もスライムダンジョンに行きたいアミンは探索の準備を始めた。お弁当を作り、装備を身に着ける。背中には昨日、屑屋との物々交換で手に入れた鉄製のラウンドシールドをくくりつける。寝る前に磨いた盾は、ピカピカに磨き上げられていた。最後にナユラに三又の鋤を持たせ、放心状態が続くナユラの手を引いて、スライムダンジョンに向かった。



「今日のアミンは積極的だね。男の子はものすごく、妄想とか願望が膨らんでるっていうから、2人だけの夜を、ちゃんと超えられるか凄いプレッシャーを感じるよ」

「ナユラ!スライムにお尻を噛まれているよ!」

「は!いつのまにか、スライムダンジョンの中にいるよ!そして、アミンにお尻をまさぐられているはずが、スライムにお尻をかじられているなんて!アミン、とりあえずスライムとって・・・」


 アミンはナユラのお尻にかじりついたスライムを引っ張ってみた。思いのほか、強く吸着していて中々剥がれない。


「恥ずかしいよ。気持ち悪いよ。アミン以外に吸われたくないよ・・・」


 涙目で訴えるナユラ。アミンはナユラのお尻からスライムを少しずつ剥がしていく。凄い吸着力だが、スライムとお尻の間に指をねじ込み、一気に引き剥がした。耐え切れずナユラは「はう」と声を漏らす。


「乙女の聖域を汚す背徳の根源よ。既に捧げし我が身への凌辱の罪は万死に値する。知れ!乙女の怒りを!荒れ狂う風達よ。吹き荒れ狂う、刃の嵐となれ・・・刃嵐!」


 お尻から剥がされたスライムは、プルプルと体を震わせながら逃げようとするが、怒り狂ったナユラは、風魔法レベル2「刃嵐」をスライムに向け放った。怒りでいつもより長くなった呪文詠唱の効果か、通常の2倍以上のフロアを覆いつくほど大きな竜巻が発生し、お尻にかじりついたスライムと周りに集まってきていたスライム10匹程度をまとめてバラバラに引き裂いた。


「はあ、はあ、はあ・・・なんだが長い夢の中にいたような気がするよ。お尻が痛い・・・」

「・・・そろそろ、お昼だよ。ナユラが放心状態になって、3、4時間が経ったから、長い夢だったと思うよ。放心状態でおかしなことを呟き続けていたけど、鋤を振り回したり、時折、魔法も使っていたりしていたから、ダンジョン探索ができると思ったんだ。危険な目に合わせてしまってすまない」

「アミンは悪くないよ。これは、私の油断が生んだ結果だもん。スライムを剥がしてくれて、ありがとう。ちょっと乱暴な剥がし方だったけど、夢の中でしてくれたお尻のまさぐり方と同じだったよ。指を力強く、乱暴にねじ込む所なんて・・・これはこれで良かったよ!だけど、お尻が痛い・・・あー、お尻が痛い。心配だから、問題が無いか確認して欲しいよ」


 ナユラは勢いよく後ろを向くと、ズボン下しお尻をぺろんと出した。引き締まった可愛らしいお尻は、真っ赤に腫れあがり痛々しい。思わずアミンの視線は、丸いふくらみや谷間に吸い寄せられ・・・


「って、ストッープ!なんでお尻出しているの!ケツだけ星人ってことなの!」

「だって、お尻痛い・・・ガン見してたくせに。今日だけサービスなんだゾ。あー、お尻痛いゾ」

「確かに痛そうだな・・・じゃあ・・・全ての生命を育む光よ。汝に降り注げ・・・生命光!」


 アミンは光魔法の生命光を唱えた。お尻を出したナユラに優しく温かい光が降り注ぎ、徐々にお尻の腫れを癒やしていく。もともと、大した怪我では無かった為、お尻の腫れはすぐに完治した。聖なる光に照らされたお尻は神聖なもののような気がしてきた。思わずアミンの視線は、丸いふくらみや谷間に吸い寄せられ・・・


「って、ストッープ!もう、お尻治ったでしょ!今出ているのは、ただの可愛いお尻だよ!もう、治療の為に出しているって大義名分は消滅しているよ!」

「まだ、お尻痛いのに。また、ガン見してたくせに。我慢しなくていいのに・・・あー、お尻痛い。出来れば、治療の為にナデナデして欲しいです」

「だから、光魔法の効果でもう治っているよ。子供じゃないんだから、撫でても痛いのは飛んでいかないよ」

「あー、お尻痛い。病は気からというでしょう。心を癒して欲しいなー。大人だって、大人だからこそ、癒しの為のナデナデ必要な時もあるんだゾ・・・」


プルプル。プルプル。プルプルプルプルプルプル・・・


「は!いつのまにか、私たちの周りはスライムに囲まれている!背徳の根源たちが、私のお尻を狙って集まってきている!」


 ここはスライムダンジョンの中だ。ここには安全地帯なんて無い。モンスター最弱の代名詞であるスライムとはいえ、数が極端に集まれば命を落とす危険もある。30匹以上のスライムが体をプルプルと揺らしながら、近づいて来ていた。


「ナユラはお尻の治療に専念してくれ。こいつらの相手は、俺1人で十分だ!」


 アミンは、ロングソードと購入したばかりのラウンドシールドを構え、スライムに躍りかかった。


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