ダンジョン&スライム⑤
ツンツン。
「もう少し寝かせて・・・」
チクチク。
「ギャー!」アミンは悲鳴を上げて飛び起きた。寝不足で瞼が重たい目に朝日がしみる。昨日は畑を耕しそのまま寝てしまったことを思い出した。
「アミンはどうして、畑で寝ているの?」
鋤を手にしたナユラが仁王立ちでアミンを見下ろす。先ほどのチクチクは鋤で刺されたようだ。後で怪我の治療が必要かもしれない。
「私はアミンを探したんだ。納屋にもいないし家にもいないし。ずっと探していたら、何故かこんなところで寝ているし。しかも、畑を耕しているし。何故かしら?」
「・・・昨日は眠れなくて、素振りをしたり畑を耕したりしただけだ。頑張ったから剣レベルが3になった」
アミンは昨日のマーリと道具屋のオヤジの一件は話さない事に決めた。年頃の実の娘に(アミンも同じ12歳だが)話してはいけないと思った。
「ふーん。3レベルになるほど頑張るって異常だよ・・・何か怪しい、何か隠している気がするよ・・・もしかしてお母さんと何かあった?今日のお母さんは、朝からテンション高いし、お肌のスベスベだった気がするよ」
恐るべき直観と観察眼だ。マーリのお肌がスベスベなのは光魔法「生命光」の効果だとも言えず、アミンは「ごにょごにょ」と何だかわからない言葉で誤魔化した。
「ふーん。もしかしたら、お母さんもスライム体液を使ったのかな?あれはお肌がスベスベになるからね。何か怪しいけど初犯だから許してあげる」
アミンは犯罪者扱いだがお許しが出てほっと胸をなで下ろす。
「お母さんが、朝ごはんを作って待っているから一度家に戻ろうよ。だけど、アミンは汗と畑の土まみれだから水浴びしてから来てね」
そそくさと水場に向かうアミンに、
「それにアミンの体から、何故かお母さんに匂いがするから良く洗わないとダメだよ・・・」
アミンは聞こえないふりをした。
「2人とも今日の朝ごはんは新鮮野菜のサラダよ」
やっぱり、朝はサラダに限る、有機農法でマーリが丹精込めて育てた野菜はどれも美味しい。都会の人間から見れば最高の贅沢だろう。アミンはむしゃむしゃ野菜を食べる。
「お母さん、アミンが何故か徹夜で畑を耕したんだよ。うちの畑が1.5倍に広がっていたんだ」
「・・・まあまあ、アミン君が親孝行でお母さん安心よ。アミン君が広げてくれた畑でお母さん、頑張って野菜を作るわ」
「お母さん、アミンが何故か畑を広げた理由も外で寝ていた理由も教えてくれないんだよ。どうしてかな?」
「・・・まあまあ、男の子には恥ずかしくて女の子に言えないこともあるわ。あまり、詮索してはダメよ」
2人の女から探るような視線を向けられ、アミンは今回も聞こえないふりを貫いた。
「うおー!」
朝食を終えたアミンとナユラはスライムダンジョンに向かった。今日もアミンが雄叫びを上げながらスライムを倒す。剣スキルが3レベルなったことにより、ロングソードの威力も切り裂くスピードも上がっていた。
ナユラが誘導しながら集めるスライムの群れを、一度の回転横斬りで数匹まとめて倒せるようになった。昨日は死の直前まで追い詰められた大量のスライムも剣レベル3に成長したアミンの敵ではない。ナユラのスライム誘導も上達し、ダンジョン探索から2時間ほどで100匹のスライムを葬った。
「今日も100匹倒したね。そろそろ、大きいスライムが出るかな?」
スライムハント3日目ともなると、巨大スライムの出現パターンも解ってくる。アミンも、そろそろだろうと警戒を強めた。
次の小部屋に入ると今までとの様子の違いに2人は戸惑った。小部屋の中央に1匹の巨大スライムがプルプルしているが、
「アミン・・・あれ、大きいし、色が赤いね・・・」
大きさはナユラの身長より、少し大きい標準の巨大スライムだが体の色が血のように赤い。アミンとナユラが視線を交わし「どうする?」「どうしよう?」とアイコンタクトをした直後、巨大赤スライムが大きく息を吸い込む。そして、勢いよく激しい炎を吐いた。炎は5メートル離れた2人の元まで広がり、アミンがとっさに盾で炎を防いだ。アミン手作りのウッドシールドがジリジリ焦げていく。1分も経たずに黒こげだ。長くは持たないだろう。
「荒れ狂う風達よ。吹き荒れ狂う、刃の嵐となれ・・・刃嵐!」
アミンの背中に隠れていたナユラの呪文詠唱が完成し、突風が吹き荒れ巨大赤スライムを中心に竜巻が現れる。竜巻はスライムを切り裂き、風圧で炎もかき消した。
「うおー!」
アミンが突進しながら、焦げて使い物にならない盾を投げ捨て、ロングソードで切り付けた。剣スキル3レベルの効果か、深々と巨大赤スライムに突きささる。更に切りつけようとロングソードを振りかぶった瞬間、スライムが巨体を縮めた気がした。その直後、
びょーん。
スライムは2メートルほど飛び上がり巨体はアミンの頭上に・・・だが、この攻撃を受けるのは2回目、アミンも動きを予測していた。飛び上がった巨体の真下を前転しながら通過する。
どすん!
巨大赤スライムの飛び上がり攻撃は空振りとなり、アミンに背中を向けながら着地した。
「うおー!」
アミンは無防備な背中にロングソードを突きたてる。巨大赤スライムは身もだえしながらも、大きく息を吸い込み激しく炎を吐きだした。
「ギャー!熱いよ!ギャー!服に引火したよ!」
どうやら炎はナユラを狙って吐かれているようだ。心配だがスライムの巨体が邪魔でナユラの姿は見えない。今はスライムへの攻撃に専念しよう。
「これはもう、服を脱ぐしかないよ。私は裸体をさらすことに躊躇しないよ。」
アミンは続けて巨大赤スライムの背中にロングソードを突きさし、更に渾身の力を込めた袈裟切りを数発放つと、巨大な赤スライムはバラバラになり、赤い体液をまき散らしながら姿を消した。体液はアミンの体にベッタリと張り付く。
「ギャー!熱い!これ、体液も熱いよ!」
赤い体液を浴びたアミンは熱さにのたうち回った。このスライムの体液は熱湯のように熱い。
「アミン、今助けるよ」
炎に焼かれ髪はチリチリ、下着姿のナユラがアミンに駆け寄る。
「そんなに見つめられたら恥ずかしいよ・・・服に火が付いて脱ぐしかなかったんだ。だけど、今日はお気に入りの下着だから助かったよ。チャンスはいつ訪れるかわからないね」
アミンは張り付いた体液のあまりの熱さに床を転がり回っていた。ナユラのお気に入りの下着を眺める余裕は全くなかった。
「アミン、動かないで動くとスライムの体液が取れないよ」
アミンの体からナユラが必死にスライムを剥がす。あまりの熱さに剥がすナユラの手も火傷を負っていくが、休むことなくスライムを剥がし続ける。全てのスライムを剥がし終える頃には、ナユラの手は火傷による水ぶくれでボロボロになっていた。
「ありがとう、ナユラ。2人とも酷い火傷だ。魔法で治すから少し我慢してくれ」
アミンが唱えた光魔法「生命光」の優しい光が2人を包み、火傷を癒やしていく。ナユラのチリチリになった髪の艶も戻っていった。ナユラは火傷の痛みの影響か、少しボーっとしている。
生命光の優しい光の中、下着姿で微笑む美少女。現実離れした光景は神秘的ですらあった。アミンの視線も思わず、ふくらみやくびれに吸い寄せられる。
「・・・赤くて熱いスライムがアミンにたくさんかかって・・・アミンが熱いのを我慢している姿に、私は今までにない興奮を覚えたよ!今度は私がアミンに熱いのをかけてみたいよ・・・」
ナユラの変態的な告白を受けたアミンは再度、聞こえないふりをした。