表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

ダンジョン&スライム②

「2人ともお帰り。夕飯は豆スープよ」

豆スープ。これが我が家の普段着だ。鶏肉入りのシチューなんて特別な日に着るセクシーな下着のようなものだ。どちらも大好物という意味で。

「お母さん、アミンが私をスライムでべたべたにしたけど、すごく丁寧に拭いてくれて・・・優しかったなー」

「まあまあ、良かったわね。アミン君はアフターケアができる男の子なのね。お母さんは安心よ」

アミンはナユラの体からスライムを剥がした時のおかしな感情を思い出し赤面した。そんなアミンを母娘が微笑みながら見つめている。2人の視線から「解っているわよ。男の子だもんね」という雰囲気を感じ、アミンは「おろ?」と首をかしげて誤魔化した。

「それにスライムが張り付いてお肌がスベスベになった気がするんだ。産毛もキレイに取れちゃったよ」

「まあまあ、お母さんもやってみようかしら。お母さんだって、まだまだナユラには負けないわ。アミン君に全身くまなく塗ってもらおうかしら」

「ずるいよ、お母さん。私も塗ってもらいたい!私は明日も大きいスライムを倒すと誓うよ。そうと決まれば今日はもう寝よう。明日のスライムダンジョン探索も忙しくなりそうだね」


翌朝もアミンとナユラはスライムダンジョンに向かった。アミンは巨大スライム潰され殺されかけたことでナユラのモチベーション低下を心配していたが今日は昨日以上のやる気を感じる。

「べたべたで・・・べたべたで・・・」

ナユラの独り言が聞こえる。目が血走っているがちゃんと睡眠は取れたのだろうか?

今日も当然のようにモンスターは出現せず石造りのスライムダンジョンの入口に到着した。早速、2人はダンジョンに入る。最初の小部屋に3匹の青い体をプルプル動かす物体。やっぱり、スライムが現れた。

「うおー!」

プルプル動くスライム1匹をアミンは雄叫びを上げながらロングソードで両断。残る2匹のスライムが繰り出す体当たり攻撃をアミンはしっかり盾で防いだ。ナユラも鋤でチクチク攻撃を開始。アミンがもう一匹を両断すると同時に、ナユラのチクチク攻撃で穴だらけになったスライムも死んだようだ。死んだスライムは形を失い、びちゃっとした液体になる。

「今日も絶好調ね。どんどん狩るわよ」

スライムを倒しながらダンジョン内の小部屋を周り続け、ついに全ての通路や小部屋を周り終えた。ナユラがコツコツ続けたマッピングによって描かれたタンジョンマップを見ると50部屋近い小部屋で構成されていることが解る。スライムは小部屋の中に現れ、倒してもしばらく時間が経つと再び現れるようだ。

「スライムダンジョンって、本当にスライム以外何も無いのね」

「村のみんなが何十年も前から探検やスライム狩りをした場所だからな。元々は、宝箱とかあったかも知れないけど全て回収しているだろうな。スライム狩りばかりでナユラには面白くないかな?」

「私は楽しそうなアミンを見ているのが好きだから。アミンが1日中やっていた、剣の素振りを見ていても飽きなかったし。スライム狩りも思った以上に楽しいよ。それに私には、また大きなスライムを倒すという大きな目的もある!」


ダンジョン探索を再開し現れたスライムを片っ端に倒した。本日のスライム討伐数が30匹を超えるとナユラが驚きの声を上げ立ち止まった。

「私、スキルが増えている!」

この世界のレベルの確認方法は、自分の内面に強く「レベルは?」と問いかけると、内なる声が聞こえ「お前は、なになにレベルなのじゃ」と教えてくれる、便利だかちょっと危険な匂いのするシステムを採用していた。

アミンも自分の内面に強く語りかけると「盾1レベルを覚えたのじゃ」と内なる声が響いた。

「俺も盾1レベルを覚えた!」

「私のレベルアップしたスキルは農業1レベル。農業に関する知識が泉のように湧き上がってきたよ」

鋤で攻撃を繰り返したからか、戦闘スキルではなく農業を覚えたようだ。農業はモンスターハンターやトレジャーハンターには無用のスキルだが、農業以外の産業が無いピロマ村周辺で職業に就く為には必須のスキルで需要は高い。

「私の料理スキルと農業スキルを組み合わせれば、有機農業で育てた取れたて野菜を使ったレストラン経営も夢じゃないよ!」

「俺達の夢は、モンスターハンターになって世界を旅することだったような・・・」

「アミンは男の子だからね。モンスターハンターの夢を追い続けていいよ。だけど、夢だけじゃご飯は食べられないから、私がしっかり働くの。アミンはご飯の心配はしなくていいよ」

「俺・・・ヒモはちょっと嫌かな・・・」

「大丈夫だよ。私のお父さんもお母さんのヒモだったし。それにピロマ村にはヒモ男がたくさんいるんだよ。大陸南側の村特有のおおらかさだね」

「でも、俺はモンスターハンターになってしっかり稼ごうと思うけど・・・」

「はいはい。アミンは好きなことやってて良いよ。モンスターハンターになって稼げるようになるのは、ほんの一握りの成功者だけ。私もアミンが成功するって信じているけど、稼げるようになるまでは、いつまででも私がご飯を食べさせてあげるね。なんか、幸せな未来が想像できるよ」


「うおー!」

アミンが雄叫びを上げながら次々にスライムを倒していく。レベルアップの効果は絶大だった。レベルアップ前は、スライムの攻撃を盾で受け止めると衝撃でバランスを崩し攻撃を中断する必要があった。盾レベル1を覚えたアミンはスライム程度の攻撃ではビクともせずロングソードを振り回し続けることができた。

「上級モンスターハンターに俺はなる!」

叫びながらアミンはスライムに切り付け真っ二つにする。

「ヒモ男にはならない!」

更に別のスライムに切り付けこちらも真っ二つにする。

「アミン、すごいね!私は戦闘能力は上がっていないからな・・・農業に対する意欲は益々高まっているけど・・・」

ナユラは鋤での攻撃は中止し、他の小部屋からスライムをアミンの元に誘導することに専念している。スライムは人間の早歩き程度のスピードなので注意していれば危険は少ない。

「アミン、今度は10匹も見つけたよ。直ぐに連れていくから待っててね」

「あの、まだ5匹と戦闘中なんだけど」

「大丈夫だよ。アミンは凄く強いもん。15匹くらいへっちゃらだね。どんどんスライムを連れてくるよ」

「あの、さすがに盾の防御が間に合わなくて、結構なダメージを受けているんだけど」

「痛いのが良いなんて変態さんだね・・・もっとスライムを連れてくるよ!私も頑張るよー」

走り去るナユラを見送るアミンは想像以上に深刻な状況だった。周囲をスライムに包囲され、絶え間ない攻撃が続く。いつの間にか両足にスライムが張り付き思うように動けず逃げることもできない。スライムの攻撃は一撃一撃の威力は弱いが徐々にダメージが蓄積していく。それでも気力で1匹、また1匹、スライムを倒す。

「アミン、また10匹見つけたよ!」

無慈悲な報告と共に更にスライム10匹追加・・・死ぬかも知れない・・・アミンは20匹を超えるスライムに包囲され死を意識した。スライム狩りを初めて2日目、短いモンスターハンター生活だったな・・・記憶の走馬灯が始まろうとした時、「・・・のじゃ」微かに内なる声が聞こえた気がした。「気がしたじゃ、ないのじゃ。魔法を覚えたのじゃ」と内なる声が響いた。突然、響いた内なる声に驚きながらもアミンは叫んだ、

「光の輝きをもって闇を打ち砕かん・・・閃光!」

内なる声に教えられた呪文詠唱が完成するとアミンの体から瞬間的に強烈な光が放たれた。アミンを包囲していた20匹以上のスライム達は閃光を直視し目を回す。

「死ぬかと思った!このヤロー!」

アミンは目を回し、ふらつくスライムにロングソードを叩きつけ、両足で踏み付け蹴り飛ばす。一方的な殺戮を繰り返し周囲のスライムを一掃した。

「はあ、はあ、はあ、はあ・・・」

激しい戦闘と死の恐怖により乱れた息を整えながら、アミンは改めて習得した魔法について内なる声に確認する。

「光魔法レベル1を覚えたのじゃ。レベル1で使える魔法は閃光なのじゃ」と内なる声が響いた。ピンチはチャンスとはこのことだろう。絶体絶命のピンチを迎え、眠れる力を呼び覚ましたのだ。

戦闘の興奮が冷め周囲を見渡したアミンは、小部屋の隅で目を回し倒れているナユラを見つけた。

「目が潰れるよ・・・目が潰れるよ・・・」

と、ナユラは魔法の影響か意識を失い、うわ言繰り繰り返しているが、アミンが介抱を始めるとナユラは幸せそうにニヤつき、うわ言も止まった。アミンはナユラの意識が戻るまで介抱を続けることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ