ダンジョン&スライム⑩
「うーん、うーん・・・」
「アミン、唸り声をあげてどうしたの?大人の階段を勢いよく上り過ぎて緊張しているのかな・・・大丈夫、私も緊張と不安でいっぱいだよ。お酒の力を上手に借りられるかなー」
「うーん。少し疑問があって・・・」
「話してみなさいアミン君。女の子は男の子より早熟なんだから!」
「・・・俺たちが持っているお金は、俺の両親の遺産を管理しているマーリさんから貰ったものだ」
「うん。10歳の誕生日から、誕生日ごとにお母さんが500Gくれるね!アミンの遺産は100万G以上あったけど、お母さんケチ臭いね!」
「うちの遺産の行方は聞くのが怖いから、ちょっと置いておいて・・・3回の誕生日があったから、1500G貰っているはず・・・どうして、ナユラは2000Gも持っているの?」
「アミンって、お金に細かいタイプなんだね。とっても良いことだよ。立派な主夫になれるかも!私がバリバリ稼ぐから、家と子供たちをお願いしたいな・・・ところで、500G多いのは道具屋のおじさんがくれたんだ。いつもイヤらしく嘗め回すように私の体を見つめるけど、お金をくれる良いおじさんだね・・・って、お話ししている間に酒場に着いちゃった。早速、入ろうー!たのもー!」
ナユラはいつにもましてハイテンションに見える。いつも以上に饒舌なのは、緊張のせいかもしれない。初めて入る酒場。大人の世界だ。しかも、アミンとナユラの2人だけで!期待と不安とで緊張するのも無理はない。
モンスターハンターになる夢は、あくまでもアミンの夢だ。命の危険もあるし、一握りの上級ハンターになれる保証もない。そんな夢にナユラは、文句を言わずに付き合ってくれている。今日はナユラにしっかりと感謝の気持ちを伝えようとアミンは思った。
「ひっく!道具屋のおじさんはド変態だお!私やお母しゃん・・・ひっく・・・を気持ち悪い目で・・・ゲップ・・・気持ち悪くなってきちゃー、でも、おかわりちょーだい」
アミンは「よしよし」とナユラの背中をさすった。ナユラはカクテルを一口飲んだだけで、完全に出来上がってしまった。滅茶苦茶なほどにアルコールに弱いようだ・・・酒場のマスターから、おかわりを受け取ったナユラはご満悦の様子だ。
「マスター、初めて飲むお酒だから、極薄って言ったはずだぞ」
「アミン君から言われたとおりに極薄にしましたよ。最初の1杯はアルコール1%未満で作ったから、お酒の匂いもしないはずですけどね。2杯目以降のおかわりは、ただのお水ですよ」
アミンはナユラの飲み物を確認した。確かにナユラがご満悦の様子で飲んでいるのは、ただの水だった・・・水で酔っ払えるなんて。
「アミンー。今、私をイヤらちー目で見たでちょー。むっつりさんだなー。アハハ!お酒って美味しいねー・・・ちょっと気持ち悪くなってきちゃー、でも、おかわりちょーだい」
アミンは「よしよし」とナユラの背中をさすった。酒場のマスターから、おかわりを受け取ったナユラはご満悦の様子だが、今回のおかわりもやっぱり水だ。
「・・・マスター、疑ってごめん」
マスターは「構いませんよ」と言ってカウンターに戻って行った。静かになったと思ったら、ナユラはテーブルに突っ伏してスヤスヤと寝息を立て始めた・・・
まだ、夜が始まったばかりの時間だからか、10テーブルほどの店内は半分くらいのテーブルが埋まっている。酒場が込み合うのは、これからの時間だろう。旅人がほとんど来ない田舎の何もないピロマ村の酒場だ。客は農家のおやじ達、狩人のグループ、職人の親子・・・村人ばかりだ。店内を眺めているとマスターが料理を運んできた。最初の1杯・・・1口目で出来上がったナユラのせいで、まだ料理は注文していなかったはずだが・・・
「アミン君、うちの看板メニューの新鮮野菜のサラダです」
「なんだか、毎朝食べているサラダのような気がする・・・」
「それはそうだろうね。この酒場の野菜は、マーリさんから仕入れているものが多いから当然ですよ。マーリさんにはいつもお世話になっていますから、このサラダはサービスですよ」
アミンは新鮮サラダをむしゃむしゃと食べた。マーリのサラダは、朝取り野菜をそのままサラダにしたもので最高の鮮度だ。このサラダの野菜は今朝のものだろうか?野菜の鮮度はマーリの新鮮サラダに劣る。しかし、さっぱりとしたオイルがかけられ、細かく切ったベーコンとチーズと和えられたサラダは驚くほど美味しい。ちなみにマーリのサラダは、潔く野菜のみの構成だ。マーリは毎朝、早起きをして畑で野菜を収穫して酒場に納めたり、子供たちの朝食を作ってくれたりしている(新鮮サラダばかりだけど)。アミンは改めて、マーリに対しての感謝の気持ちがいっぱいになった。
バタンと扉が開き、酒場に3人の客が入って来た。3人は中央付近のテーブルにつくと口々に注文した。
「マスター、すぐにビールを持ってこい!」
「私はワインを1杯だ。急げ」
「こっちもビールだ、じゃんじゃん持ってこい!」
3人はこの村で有名なモンスターハンターのパーティーだ。有名といっても、4日前にアミンたちがハンターになる前は、この村唯一のモンスターハンターのパーティーだったのだから当然だが・・・リーダーは道具屋の息子の戦士、農家の息子が土魔法使い、猟師の息子が狩人といった構成のパーティーだ。確か、みんな同じ16歳だった気がする・・・彼らは防具を身に着け、武器を帯びていた。今日もモンスターハントに出かけていたのだろう。アミン達と同じように、モンスターハントの後の一杯を楽しみにきていた。ただし、楽しみかたは人それぞれだ。
「おい、みんな見てみろよ。ひよっこハンターが生意気に酒場にきているぞ!」
「ハンターって言っても、スライムダンジョンで遊んでいる子供だろー。あんなのはひよっこ以下の卵だ」
「違いない!わはっはっはっは!」
アミンは3人の装備を見た。武器も防具もピカピカだ。とくに、道具屋の息子が身に着けている金属製の鎧は高級品で10万Gはするだろう。これらの装備は、道具屋のオヤジが息子に達に援助したものだ。いつも普段着で探索しているアミンは正直、羨ましかった。
「貧乏人が物欲しそうに見ているぞ。どうせ、お古の武器とか、手作りのウッドシールドとかを使っているんだろうなー」
「親父の道具屋に装備を買いに来たらしいが、1500Gしかなくて追い出されたそうだ」
「わはっはっはっは!そんな、貧乏人は屑屋にでも行ってろ!」
「装備が貧弱な奴はスキルも貧弱なんだろうなー。俺のパーティは全員がダブルスキル保持者だ。つまり、2つのスキルを持ったエリートハンターということだ」
「アミン。うるさくて頭がいたいよ。そろそろ、家に帰りたいよ。気持ちわるいし・・・」
大声で話す3人の声がうるさくて、ナユラは目が覚めてしまったようだ。短時間だが眠ったおかげで、酔いは醒めてきたように見える。ナユラの目が覚めたことに気が付いた道具屋の息子が、席を立って近づいてきた。ナユラは面倒臭そうに「はー」とため息をついた。