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弐-百鬼夜行

 そんなわけで、俺(と、懐の札の陽暁丸)は、真暗な路地の片隅で、百鬼夜行(ヒャッキヤギョウ)に紛れる雪白童子が現れるのを待っていた。

「お前、雪白童子は見たことある?」

「……ねーよ」

 陽暁丸は相変わらずむくれていて、俺の話しにも取り合わない。ぶっきらぼうに答える陽暁丸は、よほど法師と遊びたかったのだろう。……法師だって一応忙しいのだが。そんな陽暁丸をお供に連れさせたのだから、何か知っているのかと思ったのだが。

 ……もしかして、俺、厄介払いに使われた?

「おい、来たんじゃね?」

 そう陽暁丸に促されると、路地の向こうに夜行の先頭の仄暗い明りが見えた。

「眼良いよなぁ」

「当たり前だろ。オレは曲りなりにも一応犬神(イヌガミ)なんだし」

「馬鹿、喋んな。聞こえるぞ」

 俺たちは黙って通りの様子を窺う。妖怪たちが思い思いに群れを成して都を練り歩く。人間がそこに入ることは許されない。だとすれば、件の童子は妖怪かそれに準ずるなにかというところか。どのみち、俺たちが夜行に見つかると、かなり厄介なことになる。俺の法力は一応並みよりは上だし、陽暁丸もかなり高位の式神妖怪であることは間違いない。しかし、夜行の妖怪は数が多すぎる。すべてを敵に回して戦うとなると、かなり困難だろう。

 息を殺して夜行を観察する。そろそろ行列の中腹あたりに差し掛かった頃合いだろうか、妖怪たちに混じって、全身眞白の細い人影が見えた。

「いた」

 つぶやくように確認すると、陽暁丸が「顔は?」と確認してくる。童子の顔を確認しようと顔を見た瞬間、血色の瞳に目が引き付けられる。

「あ、っ!!」

 しまった、と思い口を押えた時にはもう遅かった。夜行の妖怪たちはみんなこちらを睨みつけ、俺は文字通り動けなくなってしまった。

「ほほう、陰陽師か、それも本物の」

「珍しいな、こんなに力の強い法師とは」

「最近の人間の法師はどうも、力が弱っているようで」

「確かに、最近のは美味しくないな」

「久々の上玉、か?」

 妖怪たちが口々に言う中、身体を動かせない俺は目だけで童子を追う。童子は黙ってこちらを見ていて、瞳にまた、囚われる。金縛(カナシバ)りがさらに強まり、今度こそ指一本動かせない。

「何してんだよ、逃げろって」

 陽暁丸の思念が伝わってくるが、そんなん出来たらとっくにやってるだろ、馬鹿。

「おや、珍し、珍し」

「どうした?」

「この法師、(シキ)を使役していないな」

「懐にいるガキは違うのか?」

「馬鹿め、これは違うじゃろ」

「確かに、使役関係は結んでおらぬようじゃな」

「おそらく、こやつの師匠あたりに借り受けでもしたのじゃろうて」

 妖怪たちに式について見破られ、こめかみを汗が伝い落ちた。陽暁丸は確かに蒼壱法師から借りたと言えばそうなるし、俺は本当に式を使役していない。「使役」という概念があまり好きになれないのと、式との契約がなぜかうまくいかないのだ。他の法術や占術であれば、教わったものは何でも使える。しかし、使役だけは出来たためしがないのだった。

「で、こやつ、どういたす?」

「どうって、そりゃあ」

「おいしく頂く、に決まっているじゃろうて」

「では、余から行こうかの」

「抜け駆けとは、卑怯なり」

 妖怪たちがそう言って襲いかかってくる。危ない、と思った瞬間に、金縛りが解け、俺は慌てて陽暁丸を札から呼び出した。

「遅ぇよ、馬鹿ッ」

 常時とは違い大柄な紅狗の姿で現れた陽暁丸に飛び乗り、人ではありえない速度で駆け抜ける。妖怪たちは俺への執着は特になかったようだ。

「やれ、速し、速し」

「まっこと、速きことよ」

「追いつけぬこともないが、そこまでして食らうものでもあるまいて」

「食事はゆるりと楽しむに限るし、のう」

「しかし、あれほどの法師、滅多なものではない」

「莫迦め、滅多なものでないからこそ、よ」

「確かに、美味ではありそうだが、また本物の法師を減らすのも、のう」

「しかし、あの法師、」

 陽暁丸にしがみ付くことに必死だった俺は、妖怪たちの会話も聞くことはなく、童子がいつの間に夜行から姿を消していたのかも、解らないままだった。


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