サポート役は気づかない。
コメディー。こんな視点もあっていいよねという話。
我が輩は転生者である。名前はまだない。
いや、ウソです。名前はちゃんとあります。でも転生者ってのは本当です。
俺には前世の記憶がある。残念ながら、断片的にだけど。そして、この世界は『乙女ゲーム』だということも知ってる。俺はその攻略対象者だ。
役割的に言えば、王道の俺様生徒会長だ。自分はそんなつもりがないが、他のやつから見れば十分俺様なんだと。よくわからん。
さて、この世界は『乙女ゲーム』であるが、至って普通の世界だ。能力者がいるわけでも、モンスターがでるわけでもない。前世はそういう乙女ゲームが流行りに流行っていたが、その中でわざわざ王道学園ストーリーをぶっこんできたのがこの乙女ゲームだ。
ストーリーはシンプルで、新入生のヒロインが生徒会長やら(つまりは俺)副会長やら書記会計はたまた風紀委員やら教師を攻略していく。特にヤンデレるわけでも、バッドエンドが血塗れだのもない。ほんとーにシンプル。
でも前世では人気だったのだ。あえてのシンプルにしていくことで、普段そういうのもやらない人たちもファンになり、舌が肥えた人たちにも癒しゲームとして人気を博した。スチルも綺麗だったし、中の人も聴けば誰しもがわかる有名な人を使っていた。王道をど真ん中で突き進んだゲームだったのだ。
そして、前世も男であった俺がなぜそんなことを知っているかと言うと、姉が乙女ゲーム狂だったからだ。ありとあらゆる乙女ゲームをしまくり、果てには俺を巻き込んで攻略対象者との疑似恋愛を楽しんでいた。
俺の係りは攻略本、もしくは攻略サイトを漁ること。そういうことにプライドとかを特に持っていなかった姉は、『とにかく全ルートを制覇する!』を信条に(俺の協力のもと)多くの攻略キャラたちをオトしていったのだ。
なので色々知識がごちゃごちゃになりそうだが、何度も言ったようにこの世界はシンプル。隠しキャラとかもいたが、それでも難しくないほうだと思う。そして俺は、攻略『される』側。この記憶を思い出した時にはすでに舞台であるこの学園に入学し、次期生徒会長と崇められていたのだ。回避することは恐らく無理だ。なら攻略されないようにドンと身構えてやる!と意気込んでた。
……しかし、ヒロインはまさかの逆ハールートに突入してた。これは、俺個別のルートじゃなくて良かったと安堵すべきか、逆ハー工員の一人だと落ち込むべきか。どちらにせよ、このままでは俺の黒歴史が出来てしまう!それだけはなんとしても阻止せねば!
そうして俺はヒロインを意識的に避けだした。とにかくイベントにぶつからないように、思い出せる限りを尽くした。その甲斐あってか、ヒロインが周りでうろちょろしなくなった頃、
こいつと出逢った。
そいつは、人気のない廊下で明らかに挙動不審だった。あっちをキョロキョロ、こっちをキョロキョロ。時たま下を見てニヤリ。……怪しすぎる。職質する警官はこんな気分なのかと実感しながら声を掛けた。
「おい。何してる」
後ろに人がいると気づいていなかったヤツは、大袈裟にビクッとして恐る恐る振り返った。
「せ、生徒会長……」
「何してると聞いている。さっきから見ていれば、挙動不審にも程がある。何しようとしてた。」
「な、なにって…何もしてませんよ?私は無実です。」
何もしてないヤツが自分で無実だと言うか馬鹿。呆れて物も言えないぞ。
ん?なんだこの匂い……。この、胃袋を刺激する、懐かしい匂いは……
「お前、そのコンビニの袋出してみろ。」
「えっ!?いや、ただのお菓子です!お菓子を食べるのは校則違反ではないはずです!」
やっぱりか。
「その中身、カップラーメンだろ。しかも既にお湯の入った。」
カップラーメンは校則違反だ。昔、持ち込んだ生徒たちが食べ終わってないラーメンを水道とトイレに流し、詰まらせたからな。考えなしの生徒のせいで禁止されてる。
それを持ち込んでる。しかもお湯入りだと食べる気満々じゃないか。見逃す訳にはいかない。
「それを渡せ。処分する。」
「!!だ、ダメです!ほら、食べ物を粗末にするなんて良くないし、ちゃんとスープ一滴残さず食べきってゴミなんて出しませんから!」
「そういう問題じゃない。食べること自体が校則違反なんだ。」
「くっ……いえ、いくら生徒会長だとしても渡すことなど出来ません。次はつい食べられるかわからないんですから!」
まさか……
「中身は期間限定発売の味噌クラムチャウダー味か?」
「!!お金持ちの生徒会長がなぜそんなことを…」
当然だ。この世に生を受けて以来食べたことがない、だが前世では毎日のように食べていたカップラーメンだぞ?郷愁の思いで『いつかは必ず』と歯噛みをしていたんだ。しかも今しか発売されない限定品。チェックしないわけがない。それが目の前にある……。このチャンスを逃がすようなら男じゃない!
「……渡す気がないなら交換条件ならどうだ?半分分けてくれる代わりに黙っておいてやろう。」
「それってただの共犯じゃないですか。でも悪い条件ではないですね…。一口で手を打ちましょう。」
「お前存外ケチだな。3分の2だ。」
「さっきより増えてる!10分の1!」
「計算出来たのか。なら4分の2。」
「それ半分じゃん!」
そんな下らない、だが本人たちは至って真面目な論議が交わされた結果、3分の1を分けてくれることになった。
久々、というか生まれ変わってから初めて食べたカップラーメンは最高に美味かった。食べ終わった後もついつい箸を伸ばすぐらいには。
それからちょくちょくこの女子生徒と話をするようになって、馬鹿みたいな口論をしたり、新作のジャンクフードを一緒に食べているうちに気付いてしまった。
あれ?こいつのこと好きかも。
そう気持ちを落ち着かせてみると、やたらめったら可愛くみえるし、いちいち萌えツボにハマる。なんだこれ。なんなんだこれ。かわいいぞこれ!
堪らなくなった。だってしょうがないじゃないか。なんてったって思春期真っ盛り。俺男子高校生!彼女と付き合って俺はリア充になる!
そう意気込んで彼女を手にいれるにはどうすればいいか脳内会議を開いていれば……
あ、あれ?なんでヒロインと仲良さそうに話してるんだ?え?もしかしてサポート役?ど、どーすりゃいいんだ!?ものすごく攻略する気満々だぞヒロイン!
おい!俺の情報を話すな!しかもなぜ他の攻略キャラのことまで知ってる!!ちょ、『なんでそんなこと知りたいの?』って首傾げるな!可愛いだろ!いやじゃなくて!そんなことって!俺たちの情報そんなことって……!!
どーやったらヒロインから逃げつつサポート役と付き合えるか教えてくださいっ(泣)!
多分サポート役の逆ハー完成。