こんな異世界はイヤだ
私ならこんな異世界、死んでもごめんだ。
「へぶっ!」
な、なに?どこここ?私、ベッドに飛び込んだはずなんだけど……疲れすぎて幻覚が見えてるの?幻覚にしちゃリアルだけど……。
私こと大山智子は普通のOLだ。女性にしてはちょっとばかりデカイ身長と小さいアレがネックだけど、それ以外はどこにでもいる平凡な女。今日は久々の3時間を越える残業を終わらせて、とにもかくにもベッドで一休みしようと飛び込んだら。
知らない人の胸の中に抱き止められてました。
なんじゃこりゃーーー!!
ビックリしすぎてお互い固まっちゃってる。ど、どーすれば……
「お前……」
抱き止めてくれた男の人、ラフな格好はしてるけどどこか気品溢れる雰囲気の、美人さん。ん?男だから美人は間違い?でもイケメンって呼ぶにはあまりにも整いすぎた顔立ちが、険しい顔立ちが段々赤くなって……って、
「キャーーーーーー!!」
胸!この人私の胸に手を当ててるよっ!離せっ!!
*・*・*・*・*・*・*
誰か私を嗤って下さい。
私の悲鳴を聞き付けたなんかごつい人たち(後に衛兵だって知るけど)にまんまと捕らえられました。自分から捕まりにいってるようなもんだ。アホか私は。
胸を触った男はなんとかフォローしてくれようとしてたけど、取りあえず歩かされて連れていかれた場所が、
まさかの王様のところでしたー。
なにこのテンプレ!順調すぎて笑っちゃいそうなんですけど!私の運命や如何に!?
「……要約すると、自分がなぜここにいるか分からないと?」
「そういうことになりますかね……。えっと、私は一体どうなるんでしょうか…」
「そうだな……」
怪しすぎるのはわかります!でも!訳も分からないまま処刑とかマジ勘弁!一見すると王族特有の(見たことはないけどイメージで)傲慢さとかなさそうだし、出来れば穏便に済ませて欲しいんですけど!
「確かに報告によれば時空の歪みがなんらかによって起きたらしいが、それだけで娘を信じるのもな……」
それなら!
「牢屋に入れて下さい!」
「は?」
「ですから、信用出来ないなら閉じ込めてしまえばいいんです!四六時中見張りをつけて、隔離してしまえば手っ取り早いと思うんです。」
「しかし、それでは娘が、」
「私は一向に構いません。あ、紙と書くものは頂けますか?勿論、どこにも出せないように検分してもらっても、処分してもらっても構いません。時間さえ潰せればいいだけなので。」
私は、簡単なイラストや小説なんかを趣味で書いている。それさえ書ければ何日だろうと籠っていられる。むしろ籠りたい!家に帰りたいのはヤマヤマだけど、どうやって来たのかも分からないのであれば調べるのも時間が掛かるだろうし。ならばまずは無害な人ですよーって知ってもらって、この世界の常識を身に付けてから城下町やらどっかで働こう。いきなり放り出されてもの垂れ死ぬ予感しかしないし。
むしろ!小説のネタに良さそうだよね!いや~自分の前向きというか、楽天的というか、能天気な性格で良かった!じゃないとこんな状況耐えられないよね!
「ふむ。牢はないとしても、見張りは付けねばならんな。勿論女の見張りを付けるが、娘の自由はほぼないぞ。それでも良いのか?」
こんな怪しい人間にわざわざ聞くなんて、しかも配慮してくれるなんて、いい王様すぎて私心配だよ?その優しさを仇では返さないけどね!
「いえ、牢屋でいいです。ほんと、いちいち疑われたら嫌なので。」
「しかし、まだこんなに幼い娘を牢になど入れられないだろう。儂にそんな非人道的なことは出来ん。」
幼いって……確かに黄色人種は童顔だけど、身長は高いぞ?異世界の人たちが異様に背が高いって訳でもなさそうだし……。いくらなんでも幼いって言われるようなことはないと思うんだけど。
「あの、私は幼い子供ではありません。れっきとした成人です。」
「そうだな。心は大人だな。」
ヤメテその"うんうん分かってるぞ"みたいな生温かい目。
「……私は24歳です。この国が何歳で成人を迎えるかは存じ上げませんが、私の国では立派な成人です。」
「なんと!24歳とな!いやしかし、その小ささは……病気でも患っておるのか?」
は?小さいって何処が……
待って。何処見てんの?あれ?みんなして、特に女性の視線がハンパないんですけど。なにその"ウソマジで!?あり得ないんだけど!"みたいな顔!なんで、なんで、
胸ばっか見てんのよ!!
確かに私の胸は小さい!ほぼペッタンコだよ!『チコのおっぱいはちっぱいかこっぱいだね☆』って言われるぐらいだよ!寝そべらなくても常に関東平野ですけど!そこで年齢を測らないでくれる!?
「~~~病気なんかありませんけど!」
「ならやはり子どもではないか。本当はいくつなんだ?」
「どこで年齢測ってるんですか!?」
「胸に決まっておるではないか。この世界の女性は胸が成長すれば立派な大人と認められる。」
なんじゃそりゃーーーーー!!
どうしよう!めっさ帰りたくなった!!この国で生きていける気がしないーーー!
*・*・*・*・*・*・*
あのあと、放心状態になったところをメイドさんたちに連行され、身体を隅々まで磨かれ、胸が小さいことを慰められ、すぐに大きくなると宥められ、私の心は異世界に来たことよりもズタボロになった……。
でも私の不幸はまだ終わってなかったらしい。こんなショッキングなことがあったのに、『俺の理想は小さい胸だ。大きい胸は嫌いだ。だから結婚しよう。』と意味の分からないプロポーズを、私を抱き止めてくれたこの国の王子様から受け、『胸で人を判断するような奴はイヤだ!』と断りまくってんのに事あるごとに体をまさぐられ続ける日々が始まるなんて……。
異世界舐めてました!ごめんなさぁーい!泣
そのうち王子にまさぐられるシーンをお月様で書きたい…。