独身貴族
「クレアが王太子妃⁉︎次期国母に⁉︎
婚礼はいつなんです⁉︎その前に、婚約は⁉︎
指輪は!!??」
と、興奮するだけしておいて、クタッと倒れる始末。
いつもの見慣れた光景だけに、手際良く、クレアはソファにクッションを置き、ホセは、母を抱きかかえ、その上に寝かせる。
「わたしはまだ結婚なんてしませんよ」
ソファの向かいにある1人掛けのイスに座り、ホセには隣のイスを勧めながら、独り言のように、でもはっきりとクレアは言った。
「まずは、レキシミア女公爵としての地位を固めなければなりません。跡継ぎの必要性も分かっています。
ですが、私は、唯一の女性の爵位持ちということで、たくさんの敵がいます。普通の高位貴族の何倍もです。
わたしの夫となる人にも、子供にも、肩身の狭い思いはさせたくありません。
それに、王太子なんかと結婚したら、王家に入らなければなりません。」
公爵は続ける。
「まだ13歳のコーラルがこの地位を継いだとして、いいように利用されるのがオチでしょう。コーラルは、わたしとは比べ物にならないほど純粋です」
「そういうものなのでしょうか。
良くわかりませんね。
でも、クレアがまだ結婚したくないということは分かりました。
任せて。
求婚者は蹴散らしてあげますよ」
いつの間にか目を覚ましていたリリアは、言葉通りに意味をとってくれたようだ。毎度のことだが、急に声を出されると、心臓に悪い。
本心では、結婚なんて冗談じゃない。もうしばらくは独り身の自由を謳歌してやる、と思っている。
でもそれはワガママだ。もっともらしい理由をつけてみたが、生まれてから1番近くにいた彼の目はごまかしきれなかったらしい。
全て分かっている、という目を向けられて、ドキッっとしてしまう。
「と、とにかく、フレッドと結婚なんて無理です。
さ、解散しましょう。
まだ仕事が残っているんです。
あ、リリア。王宮に使いを出して下さい。
明日は、欠席します。
あんなことがあった後ですもの、許してもらえるはずです。
わたしの代わりに貴女がコーラルには付いていて下さい」
ホセが口を開く前にと急いでまくし立てたクレアに笑いを堪えるホセは、その日ずっと笑っていた。
リリアは、12歳で公爵位に就いたクレアの先ほどの言い分の矛盾点を理解しながらも、どうやって鬱陶しい求婚者たちを蹴散らそうかとブツブツつぶやきながら亡霊のようにさまよう。
加えて、その日の主人の鬼の様な形相と執務の速さから、レキシミア家の使用人たちの間で、3月15日は呪われた日、と噂されたのは、言うまでもないだろう。
番外編のことを考える今日この頃です。
恋愛色は、次話からスタートです!