女の意地と黒い死神
長さがバラバラです。今回は長いですが、温かい目で見ていただけたら嬉しいです。
懐かしくも恥ずかしい思い出に浸っていると、屋敷に着いたようだ。
執務室にメイド頭のリリアと、護衛のホセ親子を呼び出し、集まったところで報告会を始める。
リリアには、家人の動き、ホセには、不審人物についての報告をしてもらう。
今回は特にどちらにも変わった点は無いようだ。
「クレア、何かあったのか?」
ホセが聞いて来る。
本来使用人が仕えるべき人間を呼び捨てにし、なおかつ敬語ではないなんて、クビにされても仕方が無いほどの不敬だ。しかし、4歳で母を、12歳で父を亡くしたクレアの母代わりであるリリアと、兄のように慕っているホセだけは、外部の人間がいない時は敬語を使わない様にと頼んであるのだ。
「ホセに隠し事は無理ですね」
兄の勘の良さに苦笑いしつつ、クレアは答えた。
「実は、明日から王宮に行きづらくて……」
この部屋には3人だけだという不思議な安心感から、ついポロっとこぼしてしまう。
「まあまあまあ、どうしました?クレア。
バカアホマヌケな貴族どもから何か言われたのですか?
名前を言ってごらんなさい。
すぐに10倍返しの仕返しをーー」
たおやかな見た目から想像もつかないほどの暴言を吐き、ドレスの中から暗器を取り出そうとする母を尻目に、絶対的な武術の実力から、「黒い死神」の異名を持つ男が口を開く。
「どうせ殿下絡みなんだろ?お前の反応からして」
公爵位を継ぎ、随分と嘘を吐くことに慣れたクレアも、生まれたときからずっとそばにいるこの男には、隠し事など不可能なのかもしれない。
唇がかすかに震えるのを、目ざとく見つけられ、畳み掛けられた。
「なんだ、求婚でもされたか?よかったじゃねえかよ」
「な、何を…」
狼狽えるこちらを、面白いと言わんばかりの顔で見下ろされ、とどめの一発。
「あー、すまん。
カマかけてみたんだが、当たりだったか」
ニヤニヤと笑われ、開いた口が塞がらないまま、恨みがましく見つめる。
事態が飲み込めず、呆然としていたリリアは、ハッと正気に返り、屋敷中に響き渡るような大声出して、
「なんですって〜!!!」
と叫び出す。
ああ、リリアは興奮さえしなければ素晴らしい淑女なのに、と場違いにクレアは落ち込んだ。