強すぎるがゆえに嫌われた英雄の話
はいはいー如月君でーす!
お久しぶりですね!
今回は短編を書いてみました!
この話は長いです!
初めて八千文字なんて書きましたよ!
それではゆっくりしていってね♪
ハイレンへ
さあ、書き終わったよ
一人の少年が槍の鍛錬をしている。その槍さばきはさも達人の如く。
驚くべき速さで槍を振り回す。
顔には汗が滴っている。
少年は突然、鍛錬を中止した。
「そこにいるのは分かっているんだから出てきてよ」
どうやら校舎の陰に気配を感じたようだ。
校舎の陰から人が現れる。
「分かってたか。さすがですね」
「丁寧語は辞めてよ。丁寧語とかは時に人を傷つけるんだから。僕だってメンタルはそんなに強くないんだし」
少年は笑いながら言う。
物陰から出てきたのは少年と同じ歳の少年だ。
「はいはいわかったから。あと嘘つくなよなハイレン」
物陰から出てきた少年は両手をあげておどける。
「何が?」
物陰から出てきた少年は肩を落とし手を額に付ける。
「はあ……少しは自覚しろよな。ハイレンはここの学園で最強の生徒だぞ。お前は全てに置いて才能が突出しているんだ。メンタル面も俺から言わせてみりゃ、強すぎるくらいだぜ?さらに戦術眼までお持ちとある」
両手を大袈裟に広げる。
まるで道化師のような足どりでハイレンの周りを歩く。
ハイレンは歩き回れたのが鬱陶しいのかは知らないが少年の顔を掴み少年の歩きを止めた。
少年は止められちったと舌を出している。
「最強ねぇ……と言っても僕はただの人間さ」
「まあな」
少年が相づちを入れる。
「そういやルークは何で僕のとこに?」
「理由がなきゃ、親友のとこに行っちゃだめか?」
質問返しをされてしまった。
「別にいいけどさ」
「ならいいじゃんか。まっ、鍛錬頑張れよ、最強の槍使い殿っ」
そう言うとルークは宿舎に帰っていった。
「最強ねぇ……そんなにいいもんじゃないんだけどなぁー」
その呟きは夜の闇に消えていく。
ハイレンが通っている学園は少し、いや大いに変わっている。
そう学園自体が国なのだ。
サルベニア学園独立国。
学園でありながら国であるこのサルベニア学園は近年ある事に悩まされていた。
それは隣国のヴァルギニア王国の侵略。
ヴァルギニア王国が何故サルベニア学園独立国を侵略するのかと言うとそれは紫晶鉄の鉱山が有るからである。
紫晶鉄とは刃物に加工すると鉄をも切り裂く刃物になり、そして何より名前に紫晶とあるように鉄でありながら紫水晶のような色をしており透き通っている。ゆえに美術品としての価値もあり、武器にすれば刃こぼれもしなくて切れ味は鉄を切り裂くほどの業物になる。
そして、希少価値も高い。
おそらく、紫晶鉄のほとんどはサルベニア学園独立国の敷地内に埋まっている。
だから王国が狙う。
しかし、王国は近年になるまで侵略を一切しなかった。
それは学園側の兵士に理由がある。兵士は全て学園の生徒なのだ。
それゆえに王国は侵略を渋っていた。しかし、王が変わると事態は一変する。
それまで侵略を渋っていた王国は急に侵略を始めたのだ。
ハイレンは槍を持って自室に戻った。
宿舎は学園独立国であるだけあって途轍もなく広い、初めて宿舎に来た人間は必ず迷うほどに。
しかし、ハイレンの部屋はすぐに分かる何故ならボロボロだからだ。
木製のドアは何百年も経っていようかというほどボロボロになっている。もちろん本当に何百年も経っているわけではなく、これは人の仕業。
つまり、ハイレンはイジメを受けていた。
最強という肩書きは何も良い事ばかりではない。
入学当時は彼も普通の人間だったが時が経つにつれてあらゆる面において秀でた才能が花開いていった。
最初のうちはクラスメイトも凄いと彼の周りに集まりクラスの中心としての位置になっていた。
しかし、彼はあまりにも強すぎた強さが過ぎると周りの人間は次第にその人を恐れるようになる。いつその人間が自分の敵となり殺しにくるのか襲いにくるのかと震える日々がくる。
次第にその恐怖は姿形を変えてハイレンの身に降り注いだ。
皆が思っているのはあの化け物を自分たちよりも下に見て貶めること。
そうやって自分がハイレンより上だと思わないとやっていけなくなっていた。
しかし、ハイレンは決してイジメに対する報復はしなかった。
彼は強すぎるのもあったがまた優しすぎるとこもあった。
彼はボロボロのドアを気にすることなく部屋に入った。
しかし彼にも理解者がいた。
それは先ほどのお調子者だが実は小説を書いているルーク、そしてこの学園の全権を担っている生徒会長のレイチェル。
「何でいるのかな?」
ハイレンが自室に入ると先客がいた。
金髪の髪に一般生徒とは違う特別製の制服を着ている女子。
足を組み、椅子に座っている。
「あら、ダメかしら?」
小首をかしげ、妖艶な雰囲気を醸し出している。
「別にいいけどさ。一応、僕は学園全体から嫌われているわけで」
「そんなの関係ないわよ」
彼女のカリスマ性は軍を抜いていて麗しい美貌もあってかそのカリスマ性は神がかっている。
「さいですか。で王国は何て?」
「近いうちに君の国を攻め落とそうとあっちの王様が高らかに宣言してきたわ」
肩を竦めてため息をこぼす。
ハイレンはめんどくさい事になったと頭を抱えていた。
「戦うしかないのかい?」
ええ、と首を縦に振る。
ハイレンはさらに肩を落とす。
この時点でハイレンは悟った。この国はその戦争で滅びるだろうと。そして、学園側の人間は数えるほどしか生き残らないだろうと。
「レイチェル、君はどうする」
「どうすると言われても私は戦うだけよ負けるわけにはいかないもの」
そう言うと椅子から立ち上がり手を振りながら部屋をあとにした。
「紫晶鉄の槍を使うしかないのか……」
そう呟きハイレンは目を閉じてそのまま微睡みの中に意識を沈めていった。
次の日ハイレンは教室にいた。
「よっ!バ・ケ・モ・ノ・君!」
そう嫌味ったらしく言い放ったのはアレータと言うハイレンをイジメる筆頭格。
「おはよう」
嫌味ったらしく言われているにも関わらず笑顔で挨拶を返すハイレン。
チッと舌打ちして通り過ぎる。
ハイレンはそれを気にすることなく教科書に目線を落とした。
教師が入ってくる。
教師と言ってもここの学園を卒業してそのまま教師になったものだ。
「今日から、全ての座学を取りやめ実習訓練に移す」
そう宣言され、生徒たちは困惑した。
有無を言わせず教師は外に出るように促す。
そして、一日中訓練した。
今は夜。
場所はハイレンの部屋。
中にいるのはハイレンとルークだ。
二人はポーカーをしている。
「せーの!はい俺ストレート!」
手札を見せるルーク。
この手なら勝てると確信していたらしく表情は自信満々な笑みをしていた。
一方ハイレンはまだ手札を見せず表情は笑っている。
「なにがおかしいんだよー」
「じゃ、僕の手札も見せないとね。はい僕はロイヤルストレートフラッシュ!」
その手札はポーカーにおいて絶対的な強さを誇る役だ。
それを見て顔面蒼白になるルーク。
「そりゃ無いぜー、お前今回運強いな。王国との戦争に使う運使い果たしたんじゃないか?
笑いながら言う。
「あはは……それは困るなー」
こっちも笑いながらに言う。
二人は良くポーカーをする。何故なら二人が出会ったきっかけでもあったからだ。
ルークは人差し指を立てて言う。
「もう一回やろうぜ」
わかったよとハイレンはカードをかき集めて山を作り、シャッフルする。
その日は夜通しポーカーをした。
そしてこれが戦争前夜のポーカーだった。
それは突然起きた。
学園中に警報が鳴り響く。
体育館に学園全ての人間が集まる。
「今日ここに集まってもらったのは他でもありません。王国の侵略のことです。今朝王国側から今日の昼頃、学園を攻め落とすと使者が来ました。おそらく本当に来るでしょう」
体育館内がどよめく。
「しかし恐れないでください。私たちは今日この日まで鍛練をしてきたではありませんか!私たちなら出来ます、何より私たち最強の生徒会がついています!」
その声と同時に生徒たちの雄叫びが聞こえてきた。
しかし、この中で気持ちが高ぶっていない人間もいた。
それはハイレンとルークだ。
学園側は全員合わせてもざっと五百。
王国側はそれに対し十倍の五千。
普通に考えたら勝ち目などない。
おそらくこの戦は完全な敗北に終わる。
しかし、それを理解していたのはごく一握り。
おそらく生き残るのは生徒会の役員と隠密、探知が得意なルークは追っ手がいても振り切ることができるだろう。そして最後はハイレンだ。彼はまず生き残るだろう。
あと生徒会が何故生き残るのかはその構成員を見れば分かる。
生徒会は会長を始め、会計に至るまで学園内で選りすぐりの実力者だからだ。
約束の時刻になった。
「まさか僕が左翼の隊長を担うなんてねぇー」
紫晶鉄の槍を手にハイレンが立っている。
その横にはルークが短剣を両手に持ち立っている。
陣形は三角形の形。
真ん中の三角形は生徒会を先頭に左翼の三角形はハイレンとルークを筆頭とした陣形。
さらに右翼はハイレンについで二位の実力を持つ生徒が隊長を務めていた。
一方、王国側は情報よりも数が少ないと見える。
陣形は扇形をしている。
数が情報より少なくとも圧倒的に数はこちらが負けている。
「だな、後ろの奴らは不満げだぜ?」
冗談を言っているがハイレンは冗談に聞こえていない様子。
「あはは……それは冗談じゃない気がするよ」
苦笑いで返す。
「だったら、一発喝でも入れたらどうだよ?」
「そうだね、後ろの人たちを少しでも生き残らせたいし、こういうのはあまり好きじゃないけどしょうがないよね」
ハイレンは後ろに向き直す。
その顔には今までの優しい顔は無い、一人の鬼神がいた。
親友のルークでさえハイレンのこんな顔は見たことが無かった。
「おい、お前らいつまでいじけてんだよ。死にてぇのか?」
これが第一声だった。
その声を聞いて、後ろの人間たちは鳥肌が立った。
「俺に不満があんだったら生徒会の後ろにでも行け!」
その怒声は最後列まで余裕に届いた。
そして、生徒たちは次々と離れてゆく。内心ハイレンはちょっとやりすぎたと思った。
隣のルークはしゃがんで頭を抱えている。
「ご、ごめんちょっとやりすぎたかなー、あはは……」
「お前なぁ!やり過ぎにもほどがあるだろ!あれじゃ脅しじゃねぇかよ!」
あはは……と乾いた笑いをするハイレン。
しかし、後ろには何人か残っていた、と言っても両手の指で数えれる人数だが。
王国軍が開戦の大笛を鳴らす。
それに対し学園軍も大笛を鳴らし返す。
さあ、戦の始まりだ。最初から負けることを運命付られた者たちにせめてもの救いを。
両軍が同時に動く。
戦場に木霊する無数の雄叫び。
人間の行進に大地が震える。空が大気が震える。
数多の剣と槍が交わり、そして折れ敗者は死んでゆく。
そして敗者を選定する死神は平等に鎌を振るう。
「おいおい、これじゃ陣形もくそもないぜ」
相手の攻撃を華麗に避け、隙あらば両手に持った短剣を振るい首を切るルーク。
それに対し、ハイレンは壮絶だ。
ハイレンが槍を振えば敵が何人も死ぬ。
その動きは軍神、鬼神の如く。
あたかも敵がどう動き、どう攻撃してくるのかが分かっているかのような立ち回りを見せる。
「はぁ!そうだね。まぁしょうがないよ。所詮僕たちは子どもなんだから」
ハイレンのすぐ横で悲鳴が聞こえる。
もうすぐ敵に殺されそうな女子は尻餅をついている。
あとは敵の死神に等しい死の剣を受けるしか術はない。
しかし、死の剣が女子を襲うことはなかった。
ハイレンが人間とは思えない動きでたまたま装備していた投げナイフを放ち、敵の喉元を切り裂いていたのだ。
辛うじて助かった女子は泣いてしまっている。
「チッ」
ハイレンは舌打ちをする。
戦場で座ったまま泣く奴があるかと。
すぐさま女子のフォローに入る。
敵と戦いながら女子に話しかける。
「戦場で泣くな!死んでしまうぞ!まだ生きたいんだろう!まだ生きたいから泣いているんだ。助かって命拾いして安心したから泣いているんだろ!まだ生きたいなら戦えよ!」
女子は泣き止む。
「私は……生きたい」
小声でそう言うがその声音は芯がある。
女子は武器を取った。
それを見届けたハイレンはもう大丈夫だと思い、その場をあとにする。
「はあ、すげぇなやっぱ」
ルークは暗殺者のような足どりで敵に近づき、喉元を掻っ切る。
その間も攻撃されるが見事な動きで避ける。
ハイレンが戻ってきた。
「ただいまルーク。そっちはどうだい?」
余裕気に聞くハイレン。
「上々だ」
それに苦笑して二人また背中合わせになる。そして同時に駆け、敵を倒す。
ハイレンはある事が気になっていた。
王国軍の数が情報よりも少なかったことだ。
今戦場になっているのは学園と王国の国境だ。
そして反対には退路として使う同盟国である帝国へと繋がる道がある。
結論はすぐに出た。
「ルーク、ここは頼んだ」
「何言ってんだよ」
ハイレンは今までで一番厳しい顔をする。
「僕にしか出来ないことが出来たから行ってくるよ」
そう言うとハイレンが退路になる道を全速力で駆けていった。
「あっ、ちょ!待てって!」
ルークの声など届くはずもなかった。
「やっぱり……」
退路になるはずだった道は王国軍見る限り千の兵がいた。
学園は嵌められたみたいだなと苦虫を噛み潰したような顔をする。
王国軍はハイレンに気づく。
すると兵が前進して、距離をあと五十メートルというところまでに詰めた。
敵軍の将が出てきた。
「予定より早いな。貴様を逃げて来たのか?」
将は五十メートル先のハイレンを見据えて言った。
「違う、退路を作りに来たんだよ」
不敵に笑うハイレン。
「はっはっ!敵にも有能な奴がおるではないか!おい貴様!王国に降れ、さすれば命を助けてやろうではないか。貴様のような将来有望な奴をここで失うには惜しい!」
敵将はハイレンのことを気に入ったようだった。
「それは出来ない、僕は王国に降る気はない」
「もう一度しか言わぬぞ?王国に降れ。この状況で勝てると思うのか?」
敵将は視線を鋭くする。
「何度でもいいましょう。僕は降らない!この状況で勝てるから来たんですよ」
「惜しい者を失う。もはや是非もなし。予定より早いが進軍する。行け!蹂躙せよ!」
軍が進む。
また大地が震えた。
ハイレンは静かに槍を構える。
唯一の退路を背にして。
年齢にそぐわない覇気が全身から滲み出ている。
さもその姿はかの鬼神、槍一つで国一つを滅ぼしたと言われるベルシュのようだった。
敵軍が迫る。
そして、敵の第一陣がハイレンと接触した。
それは一瞬のことだった。
敵が空を舞う。
もうハイレンを人間と呼ぶには畏れ多い。
槍を自由自在に振るう。
敵を突き、薙いで殺してゆく。
「ほぉ!やるな小僧。だが数に勝るものはないぞ!」
四人同時に剣を振り下ろす。
しかし、振り下ろす前にハイレンは槍を薙ぎ、敵は真っ二つに切り裂かれる。
血しぶきを全身に浴びる。
「ここは絶対に通すわけにはいかない」
ハイレンは雄叫びと共に槍を振るう。
もう何人殺しただろうか。
今まで自分を恨んできたけど今回は俺の身体役に立つじゃないか。
…何故そこまでする?…
どこからかそう聞こえたような気がした。
…なんでだろうね、自分でも分からないや…
あっけらかんな返事をする。
…お前は優しいな、今までいじめられてきたのに…
声音はどこか優しい。
…イジメはしょうがないさ。僕は強すぎたんだから。それに今まで僕をイジメた人たちにもいい面はあるだよ。アレータはあれでも友達思いなんだ。スカイも皆に優しいし、アラヤは頑張り屋さんでミーシャは商売上手。挙げればキリがないよ…
ハイレンはどこまでもどこまでも優しい声で言う。
…ほんとお前は優しい。可哀想なほどに…
先ほどの優しい声音とは違い。
今度は哀れむような声音だ。
…ふふ、褒め言葉として受け取っておくよ…
冗談めいて言う。
…せいぜい頑張るんだな…
誰かは知らないがそう言うとその声は聞こえなくなった。
気が付くと周りは死体の海になっていた。
自分の身体を見ると傷だらけだ。
意識すると急に身体が痛み出し悲鳴を上げる。
残る敵は将軍のみ。
「ここまでやるとは思わなんだ。その武勇、しかと見届けた。俺直々に手を下そうではないか。と言っても残っているのは俺だけだがな」
将軍は剣を構えながら歩いてくる。
ハイレンは構え直す。
息も絶え絶えで身体も重い、しかし動きを止めるわけにはいかない。
ハイレンが先に動く。
「ああああぁぁ!」
獣に似た咆哮は生きようとする意志の現れだった。
槍の穂先が流星のように煌めく。
ハイレンから打ち出された突きは将軍を捉える。
しかし、当たる寸前で将軍が避けた。
だがハイレンは攻撃をやめる気など毛頭ない。
次々と攻撃を繰り出す。
「ちぃ!めんどくさい攻撃ばかりしおって!」
ここまでの猛攻は予想していなかったらしい。
将軍が剣を振るう。振るった剣は槍を弾く。
「提案なんだが次の一撃で決めるというのはどうだろうか」
声を出すことはできなかったが代わりに首を縦に振る。
互いに睨み合う二人。
二人の周りは時間の流れが遅く感じる。
まだ二人は動かない。
紫晶鉄の槍で出来た穂先が妖しく光り、頬に汗が伝う。
その時だった。
ハイレンの背に一迅の追い風が吹いた。
今だと言わんばかりに全身の神経を肢体の末端、手と足に集中する。
足に力を入れて、大地を蹴る。
そして一歩また一歩と。
それは相手も同じだった。
「ハァァァアッ!」
紫晶鉄の穂先が煌めく。
さもそれは流星のようだ。
二つの流星が互いに向かって駆け、そして、その流星たちはすれ違う。
二人は止まる。
「小僧、中々やるではない……か」
そう将軍は言い残すと首が落ちた。しかし、ハイレンも無傷ではない。
「あなたも相当ですよ」
ハイレンの右腕は根元から無くなっていた。
ふらふらと戦場を彷徨う。
…良くやったな…
また声が聞こえてくる。
…でも僕はもうダメだ…
力なく応える。
…もう休め…
…ああ、そうするよ…
そして、ハイレンは戦場から消えていった。
その後の行方は誰も知らない。そして生きているのかも。
その頃、学園は圧倒的な劣勢に立たされていた。
戦力差は圧倒的。
いくら最強と名高い生徒会も今では、会長と副会長しか残っていない。
「くっ!撤退よ!皆確認した道に逃げて!」
その合図を皮切りに学園の生徒が逃げる。と言ってももう殆ど残っていない。
しかし、ルークはまだ生きていた。
「やっとかよ!ハイレンも結局戻って来なかったし!」
急いでルークは退路へと走る。
そして、退路に辿り着いたのは二十人。
全員身体中ボロボロだ。
何故か王国軍は追って来ない。
まあ、退路の先には地獄が待っていることを知っているからだろう。
学園生徒総勢二十人は走る。退路の先に行けば生き残れると信じて。
そして、退路の先に辿り着いた。
学園生徒が見たのは地獄が去ったあとだった。
王国軍の何人もの死体。
「ど、どうなってんだよ……?」
ルークが言う。
「王国軍がなんでここに……」
そして、ルークの頭にハイレンが最後に言った言葉が頭によぎる。
…僕にしか出来ないことが出来たから行ってくるよ…
この光景を見てすぐに気づいた。
目頭が熱くなる。
「誰がやったの……?」
不意に誰かが言った。
その問いにルークが応える。
「……ハイレンだ……ハイレンがやったんだ……」
ルークの目から大粒の涙が流れる。
嗚咽も出てきた。
周りの人間はまだ理解出来ていない。
「なんで……」
誰もがそう思った。
ハイレンは嫌われていた。
嫌われているのに何故戦ったのか。
その答えを知るものはいない。
いや、一人だけ正解に近づいた人がいる。ルークだ。
ルークは涙が止まらない。
そして、学園生徒を迎えたのは沈む太陽だった。
かくして、戦は終わった。学園の圧倒的敗北によって。
〈二十年後……〉
「ふぅ、やっと書き終わったぁ」
一人の中年男が背を伸ばす。
すると不意にドアが開いた。
「お父さんっ!」
可愛らしい少年が入ってきた。
子どもは男に抱きつく。
「ルガーまた大きくなったんじゃないか?」
男は子どもを抱き上げる。
「ねぇお父さん、何書いてたの?」
子どもが無邪気な笑顔で聞いてくる。それに男は父親らしい笑顔で答える。
「小説だよ。私の親友の話し。強すぎるがゆえに皆に嫌われ、優しすぎるがゆえに守るものが多すぎて自らの身を滅ぼした僕の大親友で英雄のお話だよ」
男は微笑む。
突然、もう一人の子どもが入ってきた。
「お父さん!お客さんだよ!」
男は今日客なんて来るかなぁ~と首を傾げる。
そして玄関に行く。
「どんな人だった?」
「んっとね、身体中傷だらけだった!でもね、すっごく声は優しいんだよ!」
男に一人の人間が頭によぎる。
男は急に震えだす。
そして、恐る恐るドアノブに触れ、回して開けた。
一人の男がいた。身体中傷だらけで右腕が根元から無かった。
でも男はすぐにわかった。
あの男だと。自らの命を賭して退路を守り自分の命を助けてくれた親友だと言うことを。
何年経とうが忘れるはずもない。
傷だらけの男は笑顔だ。
その顔はどこまでも優しい。
「よっ!」
男は涙が止まらない。
「あ、あ……」
これを声と呼んでいいのだろうか。
「お父さんなんで泣いてるの?」
子どもは心配そうな声で言う。
しかし、男は涙でぐしゃぐしゃになった顔で心からの笑顔で答える。
「大丈夫だよ。悲しくて泣いてるわけじゃないから。むしろ嬉しくて泣いているんだよ。あとハイネはお母さんの方に行っててくれないかい?」
そう言うと子どもは家の中に消えていった。
「久しぶり……」
男はまだ涙が止まらない。
それでも精一杯声を出した。
傷だらけの男はポケットからカードを出す。
そして。
「ポーカーやろうぜ」
変わらない声。
そして一言で答える。
「ああ」と。
どうでしたか?楽しんでいただけたでしょうか?
文章力はまだまだですがこれからも頑張ります!
感想とかもらえたら嬉しいです!