表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恋猫シリーズ

恋猫②

作者: にぷる

僕は価値ある猫のようだ


その事を知ったのは


僕に対する人間の反応が兄弟とは違うからだ


人間は物凄く驚いた目をしていた




―――――


僕は三毛猫(♂)としてこの世に生を預かった




僕が人間に対して抱いた最初の感情は


『恐ろしい』という感情だ


僕はこれからどうなるのか不安でいっぱいだった








僕が最初に『別れ』というものを


知ったのは僕が産まれて一週間、


兄弟とはそれ以来会っていない


僕は一匹、太った中年のおじさんに引き取られた


……元僕の飼い主が欲に飢えた目をしていた事を


今でもハッキリ覚えている







おじさんは僕をスティールと名付け、


宝物のように可愛がってくれた


思ってたより恐ろしくはなかった


むしろ楽しかったと言えるくらいだった


そんな変わらないある日、


僕はいつものようにおじさんと散歩に出掛けた


と言っても


家の庭だけどね


とても良い香りがしたんだ


何て言ったらいんだろ


一瞬だったのに忘れられないような


気分が良くなるようなそんな香り


そのときはあまり気にしなかった


それからも変わらず毎日楽しい日々を過ごした


おじさんとおじさんの家族と、僕と…


でもそんな楽しい日々はつかの間


おじさんは新しい家族を迎えた


メインクーンの子猫だった


僕と同じくらいの


それからというもの、


おじさんはだんだん


僕を可愛がってくれなくなった


あぁ、これが『寂しい』というものなのか


そして追い討ちをかけるようにその子猫は言った


「お前はもう用済みなんだよ!!」


悔しくて、悲しくて、何も見たくなくて


とうとう僕は……家を投げ出した


と言ってもここは僕の家ではないけどね


さよなら、大好きだったおじさん…






家を出てからというもの


ただひたすらに歩き、歩き、歩き続け


お腹が空いて、疲れてもう駄目になって


死を悟った


あの香り…あの香りをもう一度…


そう思ってた時のことだった


優しそうな子供達が僕を拾ってくれた


6人の子供達は交代で面倒みてくれた


豪邸で育った僕にはちょっと物足りなかった


けど何となく暖かかった


そんな中の一人の家族は


どうやら僕の価値を知っているらしかった


なぜなら


「おいスゲーなお前、この猫どーしたんだよ!?」


「あらホントねぇ、これかなりの価値があるわよ」


「えぇ!そうなの?


この猫ね、公園で弱ってたから


友達と拾ったんだ~」


「そうなの?」


「うん、だから友達と交代で面倒みようって」


「そうか、だったらうちで飼えばいい」


「そうね、…早速オークションに出さなくちゃ!」


「ホントに!?じゃあ私、友達に言ってくる~」


という会話を聞いたから


そのときはまだ、母親らしき人間の言った


『オークション』と言う言葉の意味は


わからなかった


ということで今度はこの家族に引き取られた


そこでは僕はハッピーと名付けられた


今思えばなんとも残酷な…


そこでも僕は宝物のように可愛がってもらった


気になるところは妙に多く僕はお風呂に入れられた


おかげで毛並みは良くなった


けど僕の匂いが消えそうになるのはちょっと…


何てこと考える暇もなく幸せな日々は


数週間で幕を閉じた


その日は突然、急に、何の前触れもなく訪れた


僕は訳もわからず古く錆びた檻に入れられたまま


車と呼ばれるものに乗せられた


その時の娘らしき僕を拾ってくれた人間が


声を出して大泣きしていた


そしてそれが僕が見た最後の彼女の姿だった


彼女もまた、この状況を理解していないらしかった


でもお別れだということは理解できたらしい


だって泣きながらバイバイって叫んでたから


バイバイ…僕も泣きそうになった


なぜバイバイなのかもわからず


ただひたすら心の中で僕も叫び続けた










そして車と呼ばれるものはエンジン音とともに


走り出した


時々止まってまたは走って止まって走って


止まるときには揺れた


気持ち悪くもなった


古く錆びた檻に入れられ、訳もわからず故郷を


離れている


もう何もかもイヤになった


―――ガタン!


また止まる


…?


あれ?扉が……開いた?


檻から出られた?


古い檻が車の振動で緩んで隙間が出来ていたのだ


なんともラッキーな


このチャンス、逃してなるものか!!


僕は死に物狂いで檻の外の人間に襲いかかった


幸いにも人間は一人


そうしてこのチャンスをものすることができたのだ


人間はドアを開けた


僕はダッシュで外に出た


外は……………………水が見えた


僕はまた困惑した


僕の町はこんな絨毯のようにひかれている


水はなかったはず…


でもそんな事を考えている場合じゃない


最後の力をふりしぼって走った、ダッシュで走った










どのくらい走っただろうか


今度こそ駄目な気がした


今度こそ死を悟った


でもやはり、こーゆーときこそ希望はあるものだ


「おい、お前、大丈夫か?これ食え」


なんとか顔を上げた


先にいたのは茶色い虎猫だった


魚をくわえている


僕に…くれるの?


僕はその魚に食いついた


人間からもらったものと比べるとまずかったが


なぜかキレイに丸ごとに食べてしまった


「あ、ありがとう」


それからというもの僕は人間を信じず、


彼らとともに生きていった


彼らはさっきの虎猫率いる十数匹の猫達だ


こんな僕に生きる術を教えてくれた


そして僕は今でも彼らとともに野良猫をやっている


こんな体験を通して思うことは


人間の身勝手な行動で


僕らを巻き込まないでほしいということ


僕はただ、


一匹の猫として彼らと同じ猫として


人間と同じ生きているものとして


みてほしいだけなんだ






だからこらでよかったんだと思う……


……………


………………………!!


あぁ、懐かしいあの香り


一瞬のあの香り…


一瞬たりとも忘れてなんかいなかった


今度は一瞬ではなかった


僕は探した、どこだ?どこだ?




そしてやっと見つけた


「君、だったんだね」


そこにいたのは大人になった


あの大泣きしていた彼女だった


「違うよ」


え?


彼女は僕の言葉が分かるのか


そう答えた


「鈴蘭、鈴蘭って言う花の香りよ」


鈴蘭…というのか


「私が昔あなたの前に飼っていた


もういないけど


黒くて絹のような毛並みの美しい猫


あの子がいつも散歩から帰って来たときに


香らせてたの」


じゃあ、あのときの一瞬は…


「だからあなたと会ったとき同じ香りがして


懐かしくなっちゃったのよ」


「あの子ねっ…ヒックよくどっかの、豪邸の方に


…ヒック遊びに、いってたの」


…泣くなよ


そうか、あの香りはその黒猫だったんだね


「一度だけ、今みたいに…ヒックあの子とも


話したことが、あるの」


……え?


「あの子ねっ、あの豪邸に


気になってるっ猫がいるって、いってたのっ」


…………!


「多分、あなたっねっ…」


…そう、か


気づいていれば、よかったなぁ


「お嬢さん、教えてくれてありがとう」


「いいえ、あのときはごめんなさい


幸せそうで何より」



そうだよ僕は今が一番楽しいもの



















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ