嵐の前の日
「貴方様のご冥福をお祈りしまして、わたくしの挨拶とさせて戴きます。本日は御集まりいただきまして、誠に有難うございました。ひき続き、嵐の前の夜をお楽しみください…」
仮面の男は血のように紅いマントをはためかせ、華麗にお辞儀をした。
ワァァアっと歓声が飛び交う中、おれはアホみたいに口を開けて男を見ていた。
ご冥福って…死者に使う言葉じゃないのか…?
おれが今いる場所は、古来建設された中世の城。勿論ここは日本ではない、海外だ。どうしておれが海外にいるのかというとだな…。
「兄貴、何鬱々した顔してんだよ。いい加減シャキッとしなよシャキッと」
「ああ、生憎おれは、お前みたいに能天気じゃないんだよ。こう、平凡に生きたい人間っているもんじゃないか」
「そんなこと言ってるから外見も中身もダルい男になっちまってんじゃないの?」
「弥生…お前いつからそんなに口が達者になったんだ」
「しらねーよっ」
簡単に説明すると、この…おれの妹の弥生(一応高校2年生)が、どうしても【期間限定公開】らしい、メルヘンな館に行ってみたい!と言ってきかなかったため、妹に甘い大学生のおれ(二十歳越え)は、バイトで稼いだ空虚な貯金を叩いてまで可愛い妹をこんな所に連れてきたのである。
「兄貴さぁ、感動とかしないわけ?こんな立派なお城を前にして」
感動ねぇ……。
「おれも昔はそうだったよ。お前みたいな奴だった・・・」
「なにしみじみしてんだよ、あ。弓が来た」
「弥生ー遅れてごめんねぇ?」
「いーや、いいんだよんなこと。あ、兄貴。この子はウチの友達の」
「近藤弓華と言います。はじめまして」
「おー、まあ、よろしく」
「弓は今回は家族と別行動らしくて、1人で来たらしいから、明日もウチらと一緒に回ることになる」
「あーっそ。いいけど。よろしくな、弓華ちゃん」
「あの、弓華でいいです、お兄さん。変に気を使われると、わたしも接しにくいので…」
「そうか、じゃあ、弓華。よろしく」
「はい!宜しくお願いします」
「…あれ、でも確か…掟だか何だかには【二人1組で行動】ってのが無かったか?」
「そ、そういえばそうでしたね!ど、どうしましょう…わたし」
「んー…弓に確か弟とかいなかったっけか」
「いるけど…」
「じゃあ、弟と一緒に回ればいいじゃないか。その横をウチらが一緒に歩くって言う感じでさ!」
「弟、まだそんなに体力無くって……」
「そんなことだったら、あそこにベビーカーあるからレンタルしてくれば問題ないし」
「そ、そうだね。わかった。呼んでみる」
まだ続く。この回は、まだ完結しておりません。