無限想歌:拡大家族:序章1
生者と、死者。
現在に還る、過去。
それらが紡ぐ未来は、決して平坦ではなく。
しかし、それ故にそれは、普遍なんです。
無限想歌:拡大家族:東利也vs三木彼方:みそ汁とシャケは誰が作ったか、という話
戦力差は歴然で、どうしようもなかった。
さらに言えば、取りつく島が無いとは、このことであるーーーと、一人実況してみる。
「ねぇ、としにぃ、知ってた? スーパーで売ってる最近のシャケって、自分で焼かなくても、勝手に自分で焼かれてくれるんだよ! あれ、なんかおかしいね!? 自分で言っててなんだけど、私、自分の言ってること、分かんないよ!!!」
しかも、みそ汁は勝手にみそ汁になるんだぜ、兄貴とーーーー妹が。
「生きている方の妹」が、語りかけてくる。光彩を失った目で。
へらへらと笑いながら、「意味分かんない」と。
「そうだな、今日のお前は意味分かんないな。疲れてるんじゃないのか? 俺のことはいいから、もう帰った方が・・・・・・」
バキ。
バキっ。
ペキっっと。
目の前で、妹がーーー彼方が握っていたお箸が徐々にへし折れる様を見て、俺は再びダメだと悟った。
・・・・・・何の因果か、帰ったら、妹がいた。そう、「生きている方の妹」が。
そして、「死んでる方の妹」が作ってくれたみそ汁とシャケを、二人で食べている。
もちろん、シャケは「一匹」だ。だって、シャケを作ってくた方の妹は「死んでる」わけで、所謂食事が必要ないわけで。
だから、最低限必要な一匹のシャケを、「死んでる方の妹」ーーー小羽は、俺のために焼いていてくれたんだろうけど。
「にしても、としにぃも良いご身分だよね? 専属のメイドでも雇ったの? 「としにぃの分だけ」、わざわざ夕食作ってくれるようなさ・・・・・・?」
俺のために小羽は焼いていてくれたのに、なんか、ややこしいことになっている。
そして、その根源が目に前に鎮座している妹様だ。彼女は、「早く楽になりたいだろう?」と、目で語りかけていた。
しかし。
「メイドなんて、そんなの雇う金あるわけないだろ、お前も馬鹿だな〜」
「じゃあ、シャケ作ったのだれ? わたしじゃないよ?」
「・・・・・・」
この一連の流れで、詰むわけだ。
詰むんだよ、完膚なきまでに。だって、彼方には、小羽のことは秘密だからだ。
さすがに、「死人」と同居してますとは、言えないだろう、普通?
まあ、それが真実なんだけど。けど、この流れでその真実を開示すれば、しばき倒されて終わるのも、真実。いや、現実か?
どっちでも良いが、要は、詰みだ。
「俺がつくってたんだよ、んで、作ってる途中で買い物思い出して・・・・・・」
「思い出した買い物行くのに火を消して行かないのはバカだけど、その買い物に学校指定の鞄を持って行くのはさらにバカ。さらに理解しがたいのはその鞄に参考書を詰めていること。としにぃ、どうしたん? 疲れてるんか?」
・・・・・・俺と小羽がこのアパートに同居するようになって、早1ヶ月くらいか?
まあ、そんくらいか。前回が、だいたいそんくらい前だった。
現に、彼方が此処に来てくれてるんだから、そんくらい経ってんだよな。うん、時が経つの早いもんだ。こいつってば、定期的に俺たちーーー俺と由香がきちんと生活できてるか、「園」の方から見に来てくれるんだよな。
我が妹ながら、おせっかいやきというかなんというか、以前はそれで結構助かってた面もあってたから、なんとなしに世話になっていたんだけれど。
まさか、こうなるとは思わなかった。
「まぁ、私でもとしにぃでもないなら、由香ねぇしかいないよね? としにぃの恋人だもん。最近ますますラブラブじゃん、よかったね、としにぃ?
でも、由香ねぇも、危ないよね〜? でもでも、由香ねぇならありえるかな?
なんだかんだでそそっかしいし、愛する人のための料理中であっても、火を消さずにどっかに行くこともある・・・・・・? 答えてよ、としにぃ」
俺の携帯を紋所よろしく構える、彼方。いつの間に奪われたのか、俺の携帯は今や彼方の手中にすっぽりと収まっていた。
ちなみに、その携帯は、既にワンクリックで「由香」に繋がる状態にセットされている。
・・・・・・実際のところ、このシャケは誰が焼いたのかと、目配せで小羽に聞いてみた。小羽は、先ほどから俺の正面あたり、彼方の真後ろを忙しなく行ったり来たりを繰り返している。
なもんで、ちょっと目配せすると、すぐに目が合う位置にいるんだよ。そして。
「シャケは、私が作りました。ねぇ様じゃ、ありません・・・・・・・」
そして、涙目で答えを返してくれる。
その姿が痛々しくて、おもわず「お前のせいじゃない」と、苦笑まじりにジェスチャーで伝えようとした結果。もちろん、死者である小羽の声は、彼方には届いていない。
だから、「苦笑まじりに手を振りだした奇怪な兄」を前にして、彼方が携帯の通話ボタンを押したのは仕方の無いことだと思う。
「プルルルルルルルル、なに利也? どうしたの?」
室内に響く、由香の声。
もちろんの、スピーカーオンだ。厳かに、彼方は携帯をテーブルの上においた。
そして、黙して語らない。薄ら笑いを浮かべ、俺の方を見つめるばかりだ。
「いや、すまん、まちがった。峰岸に駆けようとしてたんだけど、『っドン!!!!』」
「なに、利也? ワンピースの振り? なら私も、『っドン!!!』」
俺、やっぱこいつと結婚するしかないわ〜って、思うやり取りだ。
そして、同時に、「こいつ大丈夫か?」って、冷静に突っ込みを入れる自分がいる。
一体全体、日本人口の何割に伝わるか分からんやり取りだけど、俺たちの間では、伝わるやり取りなんだよ、これが。
まぁ、残念なことが一つあるとすれば、それは、このやり取りが「彼方の警告:『っドン!』」から始まってるってことくらいか。机割れるんじゃない勝手くらい、こいつってば叩きやがったし・・・・・・
「あはは、なんだよ、それ、あ〜もう、お前は・・・・・・・・・・・・・シャケ、ありがとな。おいしく頂きました♡」
俺たちは、以心伝心の恋仲だ。
前世からの縁でも結ばれてるし、そしてつい最近になってからは、その絆の強さで、「二人の妹」を取り戻した。
文字通り、時を超えて。
文字通り、理を超越して。
・・・・・・そう、俺たちなら。理を超えて、現在へと至った俺たちの絆なら、きっと、由香も俺のムチャ振りに・・・・・・
「ん? しゃけ? なに、それ?」
ッブツ。
ツーツーツーツーツーツーツーツーツーツーツー
さて。目の前で携帯の主電源を落としにかかった妹様を、どうやって落とすか。
ああ、兄冥利に尽きるイベントだ・・・・・・だれか、助けてくれ・・・・・・
しばらくは、穏やかなお話が続きます。