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生
ここに自由に使っても構わない札束があったとしよう。 それは数十年生きるには酷な量だが、数年生きるには十分すぎる程の紙幣の束だ。
社会人ならどう使う? 買いたいものを欲するがままに買い、後は貯金。こんなものだろうか。
学生ならどう使う? 計画性も無しに使いたいだけ使い、あっというまに0にしてしまうのであろうか。
所詮は同じ人間。動物。欲がある。それだけだ。
ならば、一銭の金もなくただただ生きることで精一杯な私のような、欲よりも生存本能という意識で物事を行うモノは、
本当に同じ人間か?動物か? そして、本当に生きているのか? それとも死んでいるのか?
・・・もし死んでいるのだとしたら、私は生存本能をもつ死人か?
自らが生んだ思考の渦に無意識の内に巻き込まれた彼、黒溝天夜は豪雨のささやかな洗礼を浴び、ひたすらに顔を歪め、皮肉めいた笑いを外に出した。
その声を聞いていたのは空から降り注ぐ洗礼だけだった。 そんな世界だった。