最終話:幼なじみと「○○」でポッキーゲームする話。
生まれて初めて女子に告白された。
相手は同じ学年の雪宮さん。おしとやかで美人で、男子の人気度だけで言えば実菜をも上回る。俺にはもったいないくらいの女の子だ。
それが関係しているのかは知らないが、ここ数日実菜に避けられている気がする。教室でも目を合わせてくれないし、メッセージを送っても返事が来ない。
ひとまず、今日は久々のポッキーゲームだ。もし実菜に異変があれば、嫌でも気付くだろう。
そう思っていた矢先、部屋の扉が開かれる。
現れた実菜は、明らかにしおれていた。元気がないというより、生気がない。まるで魂を吸われたように、器に活力がこもっていないのだ。
「な、なんか久しぶりだな」
「……」
制服姿の実菜は黙ったまま俺のベッドに座り、スクールバッグから長方形の箱を取り出した。
「……今日はこれでやろ」
「これって……」
ただのポッキーじゃないか。
肉はどうした。ジャンクフードはどこへ行った?
「はい、こっち来て」
今日の実菜はどこか強引だ。俺は言われるがままに、実菜の右隣に座る。
俺がポッキーのチョコ部分を、実菜が持ち手の部分をくわえる。
「よーい、スタート」
次の瞬間、実菜はスティックを前歯で粉砕した。
「お、おい……」
「……成功だね。これで私も大人のレディーになれたかな」
「ちょっと待てよ。明らかにわざとだろ」
「今日でポッキーゲームはおしまい。今まで付き合ってくれてありがとう。彼女さんと仲良くね」
立ち上がり部屋を出ていこうとする実菜の腕を取る。
「……だから待てって」
「だって、こんなの不純じゃん。彼女さんに失礼じゃん……」
実菜の声は小さく震えていた。声だけじゃない。肩も、指先も。
「誰から聞いたんだよ。俺が告白されたって」
「みんなだよ。純ちゃんも、リョーコも、山野さんも言ってた。修地に彼女ができたって。相手は雪宮さんなんでしょ? 私とは正反対の、大人っぽくて素敵な人じゃん。良かったね」
雪宮さんが漏らしたとは思えないし、きっと誰かに告白の現場を目撃されていたのだろう。話題の中心人物が学校のアイドルとあらば、噂が広まるのは一瞬だ。
「いいから聞いてくれ、俺は……!」
「家に来るのも今日が最後だから。浮気って疑われちゃうもんね。ポッキーゲームのことも言わないから安心して。私なんかが修地のファーストキス奪っちゃってごめんね。私は幼なじみの立場を利用して修地と……」
「――だから、告白は断ったんだよ!」
「……え?」
ようやく実菜が振り返る。その顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
「確かに俺は雪宮さんから告白された。でも断ったんだ。『好きな人がいるから』って」
「……うそ」
「嘘じゃない。俺は……俺は、実菜が好きだ。ずっとずっと、好きだった。謝るなら俺のほうだ。実菜にポッキーゲームなんて都合のいい提案をされて、正直めちゃめちゃ下心もあった。大人のレディーになりたいっていう実菜の純粋な想いを利用したんだ! だからごめん!」
「じゃあ……雪宮さんとは付き合ってないの?」
「ああ、付き合ってない」
俺の言葉を一文字ずつ噛みしめるように聞いていた実菜は、大粒の涙をこぼす。
「よかった……よかったよぉ~~……」
俺が抱きしめると、実菜もそっと腕を背中に回してくる。そしてしばらくの間、小さな子どものようにわんわんと声を上げて泣いていた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「落ち着いたか?」
「……うん。だいじょぶ」
ひとしきり体の水分を出し尽くした実菜と俺は、改めてベッドに横並びに座る。
「……それで、返事聞かせてもらっていいか?」
「へんじ?」
「や、さっき一応告白したんだけど、その答えを…」
俺が言い終える前に、実菜はポッキーの先端を唇ではさんでいた。
「ん」
実菜は瞳を閉じ、わずかに顎を上げる。それを受け、俺も反対側のチョコ部分をくわえた。
ぽき。ぽき。ぽき。
体の距離が、心の距離が、一口ずつ縮まっていく。体に触れていないのに、実菜の温もりが伝わってくる。
やがて、俺たちはゼロになった。
「……えへへ」
唇を離した実菜が小さくはにかむ。
俺も照れくさくなり、思わず口内のポッキーに意識を向けてしまう。
硬くて、ところどころ柔らかくて、何より甘い。
「ねえ、明日からもまた付き合ってよ。ポッキーゲーム。私が大人のレディーになれるまで」
女子高生の実菜も、大人の実菜も。俺は実菜の成長を一番近くで、余すことなく見ていたい。
「ああ、実菜が大人になっていくのを、一番近くで見守ってやるよ」
幼なじみとのポッキーゲームはまだまだ終わらない。




