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我が魂のAIは空気を読まない。  作者: ガックン
4/4

【幕間】 書斎の父親たち

 夜も更けた頃。


 バルデン家の書斎に

 二人の男がいた。


 一人は銀髪の大男。


 ヴォルフ・バルデン。


 辺境伯。


 北の国境を百年守り続ける

 バルデン家の当主。


 その体躯は

 まるで北の大地そのものだった。


 広い肩。

 分厚い胸板。


 銀髪は短く整えられ

 深い皺が刻まれた顔には

 長年の戦場の記憶が宿っていた。


 そしてもう一人。


 エルディア・ヴァン・アストレム。


 公爵。


 金髪を丁寧に整え

 仕立ての良い上着を

 さらりと着こなしている。


 娘ルナと同じ

 澄んだ金色の髪。


 切れ長の目には

 アストレム家代々の

 魔法使いの血が宿っていた。


 暖炉の火が揺れている。


 グラスに酒が注がれた。


 しばらく

 二人は黙っていた。


 エルディアが

 グラスを置く。


「……最近のルナが」


「うむ」


「怖いくらいです」


 ヴォルフが

 眉を上げた。


「怖い?」


「死に物狂いで

 魔法の修行をしています」


 エルディアは

 視線を落とす。


「夜明け前から

 庭に出ています」


「ほう」


「食事中も

 何かを考えている」


「……」


「あのルナが」


 グラスを持ち直しながら

 続けた。


「公爵家始まって以来の

 魔法の才と言われた娘が」


 ヴォルフは黙って

 聞いていた。


「レン君に

 勝てないと言うのです」


 沈黙。


 部屋の奥で

 パチと音がした。


「レン君のおかげでしょうか」


 エルディアが

 ヴォルフを見る。


「あのルナが

 あれほど必死になるとは」


「……まあ」


 ヴォルフはグラスを傾ける。


「悪いことではないでしょう」


「ええ」


「ええ、そうなのですが」


 エルディアは

 少し眉を寄せた。


「しかし——」


「うむ」


「何かをつかみかけては

 いるようなのですが」


「つかみきれていない

 ようですな」


「そうなのです」


 静寂の中で

 酒の香りだけが漂っていた。


 エルディアが

 口を開く。


「ヴォルフ殿」


「なんですかな」


「率直に聞きますが」


「どうぞ」


「レン君は——」


 グラスを置く音が

 静かに響いた。


「人間ですか?」


 沈黙。


 3秒。


 ヴォルフは

 表情を変えない。


 でも——


 銀髪の下の眉が

 わずかに動く。


 グラスを持つ

 大きな手が

 静かに止まった。


「……それは」


「いや、失礼しました」


 エルディアは

 苦笑する。


 金髪が

 光を受けて揺れた。


「三歳の子供に

 言う言葉ではないですな」


「……」


 長い沈黙の後。


「わしも」


「はい」


「いささか疑問に

 思っておりましてな」


 エルディアが

 目を丸くした。


「父親が言いますか」


「あやつには」


 ヴォルフはゆっくりと

 グラスを傾ける。


「何か——」


 一息。


「憑いている気がする」


「それは鬼か」


「……神か」


 ---


 書斎に

 静寂が落ちた。


 暖炉の火だけが

 揺れていた。


 二人の父親は

 グラスを傾けながら


 答えの出ない問いを

 夜の闇に手放した。


 ---


 その頃。


 当の本人は

 自室の窓から

 星を見ていた。


 頭の中でリリィが言った。


(レン)


「なに?」


(辺境伯とエルディア公爵が)

(書斎で話しています)


「何を話してるの?」


(レンが人間かどうかを)

(議論しています)


 レンは少し考えた。


「……そうか」


(辺境伯が)

(「何か憑いている気がする」と)

(発言しました)


(ある意味正確です)


 レンは窓の外を見たまま

 動かなかった。


(父上は気づいている)

(でも何も言わない)


「まぁ気にしても仕方ないな」


(了解しました)


 ---


 夜空に

 星が瞬いていた。


 それがなんとなく

 ありがたかった。


 ——幕間・了——

 ```




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