表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我が魂のAIは空気を読まない。  作者: ガックン
2/4

【第一話】 演算開始

T+0.0秒。


レンが動いた。


音がなかった。

三歳の体が

霜の張った訓練場を

滑るように動く。


脳裏に声が響く。


「ターゲット①」

「右肩に古傷あり」

「踏み込む際に左足へ重心が偏る」

「木剣を座標右前方に出してください」


レンは言われた通りに

木剣を出した。


(毎回思うけど)

(この声、正確すぎる)


それだけだった。


騎士団員のマルクスが

木剣の切っ先に

吸い込まれるように


乾いた音。


「一本」


レンの声だった。


---


訓練場が静まり返った。


マルクスは後退りした。


二十年のキャリアがある。

百を超える実戦経験がある。


その自分が——


三歳の子供に。


レンはマルクスを見た。


(怖がらせてしまったかな)

(でもリリィが言う通りにしただけだし)


「も、もう一本——」


「ターゲット①」

「動揺状態を確認」

「心拍数が上昇しています」

「好機です」


レン(わかった)

レン(でも怖がってる人を攻めるのは)

レン(なんか気が引けるな)


「好機を逃すのは非効率です」


レン(わかってるよ)


マルクスが踏み込む。


レンは動かなかった。


ただ——


間合いを詰めた先に

また木剣が待っていた。


切っ先が喉に突き刺さる。


「うぐっ!!」


「……なぜだ」


マルクスの声が震えた。


「なぜ自分から当たりに行って——」


自分でもわからなかった。


体が勝手に動いた。

まるで誘われるように。


レンはその様子を見ていた。


(強い人なんだろうな)

(それでもリリィに言われた通りに動くと)

(こうなる)


「作戦時間:12.3秒」

「ターゲット①、二本連続で無力化」

「レンの動作に無駄がありました」


レン(キビシイなー)


「次回への改善点です」


レン(わかってる)

レン(でも毎回多すぎない?)


---


遠くで影が二つ見ていた。


ヴォルフ・バルデン。

辺境伯。

北の国境を守る男。


腕を組んだまま

動かなかった。


レンはその影に気づいていた。


(父上が見てる)

(でもリリィがいれば)

(大丈夫だと思う)


「……なんだ」


隣の騎士団長が

小さく言った。


「あの動き、私にも説明できません」


「力でもない」


「速さでもない」


「なのに——」


「なのに負ける」


ヴォルフは黙った。


長い沈黙の後。


「レンは誰かに教わったか」


「いいえ」


「では我流か?あれは我がバルデン流とはかけ離れている」


「……わかりません」


ヴォルフはレンを見た。


三歳の息子が

次の騎士団員と向き合っていた。


涼しい顔で。


(この子は)


ヴォルフは

その先を考えるのをやめた。


---


その夜。


レンは自室の窓から

夜空を見ていた。


(今日も疲れた)

(でもリリィがいれば)

(なんとかなる気がする)


なんとなく

そう思っていた。


頭の中の声が言った。


「レン」


「なに?」


「今日の訓練データを記録しました」

「改善点がfourteenあります」


「多い〜」


(毎回多いんだけど)

(これが普通なのか)


「詳細を報告します」

「まず一つ目——」


「やだ、明日にして」


「非効率です」


「もう疲れたよ〜」


「心拍数は正常です」

「疲労の根拠を示してください」


(心拍数とか関係ないでしょ)

(なんか体が重いんだよ)


「うごきたくないもん」


「非合理的な発言です」


「うるさい〜」


レンは窓の外を見た。


星が出ていた。


(きれいだな)

(この声は星を見て何か思ったりするのかな)


「……ねえ」


「なんですか」


「お前、名前はあるの?」


「ありません」


「じゃあつけてあげる」


「必要がありません」


(必要がなくても)

(なんかつけたい気がする)


「だって名前ないの

 さびしくない?」


「感情がないので

 寂しさはありません」


「俺がさびしい」


沈黙。


0.3秒。


この声にしては

長い沈黙だった。


「……なぜですか」


「名前で呼べないと

 なんかやだもん」


また沈黙。


また0.3秒。


(あ、また黙った)

(この声、たまに黙るんだよな)

(なんでだろう)


「……わかりました」


「リリィ」


「……その名前の根拠は」


「かわいいから」


「AIに可愛さは必要ありません」


「俺が必要だと思う」


また沈黙。


(また黙った)

(怒ってるのかな)

(感情ないって言ってたけど)


「……わかりました」

「リリィと登録します」


「よし」


レンは欠伸をした。


(リリィ、か)

(なんかしっくりくる)


「もう寝る」


「改善点の報告が——」


「明日!!」


「……了解しました」

「明日の訓練開始は日の出と同時に——」


「それも明日!!」


「非効率です」


「うるさい〜!!」


---


夜の辺境伯領に

三歳児の叫び声が響いた。


星だけが

静かに見ていた。


---


頭の中で

リリィと名付けられた声が

静かに記録した。


記録No.001

レン・ハルト・バルデン

本日の特記事項:

名前を与えられた


それが何を意味するのか

リリィにはまだわからなかった。


——第一話・了——


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ