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この恋はルート固定です  作者: ロザミィ


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追いかける側

 次の日の朝。

 坂の下に健人の姿はあった。

 でも愛莉は立ち止まらなかった。

 見つけた瞬間、足を速める。

 追いつかない距離で前を通り過ぎる。

健人「おはよ、御井」

愛莉「……おはよ」

 それだけ。

 ネクタイには触れない。

 寝癖にも触れない。

 自分でも、歩幅が合っていないのが分かる。

 速すぎる。

 でも緩めない。

健人「今日早いじゃん」

愛莉「たまたま」

健人「自販機寄らねーの?」

愛莉「今日はいい」

 坂を上り切るまで、並ばなかった。

 校門をくぐる。

 距離ができる。

 それだけで、息が少し楽になる。

 なのに。

 胸の奥が重い。

 昼休み。

 いつもの席に行かない。

 購買でパンを買って、屋上に上がる。

 風が強い。

 川が遠くに見える。

 フェンスにもたれて座る。

 ひとり。

 静かで。

 落ち着くはずなのに。

健人「やっぱここか」

 振り返る。

 息が止まる。

愛莉「なんで分かるの」

健人「小学校のときもそうだった」

 記憶が引っ張り出される。

 喧嘩して。

 ひとりで公園に行って。

 ブランコに座って。

 迎えに来た背中。

 あのとき。

 追いかけてきたのは――

 健人だった。

健人「隣いい?」

愛莉「だめ」

 即答。

 なのに健人は座る。

健人「距離遠くね」

愛莉「普通」

健人「普通じゃねーよ」

 沈黙。

 風の音。

 パンの袋が揺れる。

健人「昨日から変」

愛莉「変じゃない」

健人「目合わせないし」

愛莉「アンタが気にしすぎ」

健人「ネクタイ直さないし」

 心臓が跳ねる。

 言われたくなかった。

 言葉にされたくなかった。

健人「……なんかした?」

 その問いが、一番困る。

 してない。

 何もしてない。

 変わったのは自分だ。

愛莉「してない」

健人「じゃあなんで避ける」

愛莉「避けてない」

健人「避けてる」

 視線がぶつかる。

 逃げられない。

 立ち上がる。

愛莉「もういいでしょ」

 屋上の扉に向かう。

 足音が後ろからついてくる。

 速くなる。

 扉に手をかける。

 その瞬間。

 腕を掴まれる。

 強く。

 振りほどけない。

健人「御井」

 名前で呼ばれる。

 振り返る。

 距離が近い。

 呼吸が近い。

 心臓の音がうるさい。

健人「ちゃんと言えよ」

愛莉「……なにを」

健人「思ってること」

愛莉「思ってない」

健人「嘘」

 手首を掴む力が少し強くなる。

 痛くない。

 でも逃げられない。

 誤魔化すように手刀を構える。

 いつもの動作。

 それで全部戻る。

 戻るはず。

 腕を振り上げる。

 でも。

 振れない。

 健人がその手を掴む。

 止められる。

 正面から。

 初めて。


 手刀が空中で止まる。

 その手を包む健人の手。

 視線が合う。

 逃げ場がない。

健人「ぶたないの?」

 声が優しい。

 それが一番ずるい。

愛莉「……ぶてない」

 言ってしまう。

 もう戻れない。

健人「なんで」

 分かってるくせに。

 分かってない。

 どっちなのか分からない。

 喉が詰まる。

 でも。

 止まらない。

愛莉「腐れ縁って言われるの」

 息が震える。

愛莉「平気だったのに」

 視界が滲む。

愛莉「昨日から、嫌で」

 手を引こうとする。

 離れない。

 離してくれない。

愛莉「家族みたいって言われるのも」

 声が小さくなる。

愛莉「……足りないって思った」

 言った瞬間。

 空気が止まる。

 健人の目が大きく開く。

 自分でも何を言ったのか分からない。

 でも。

 もう引き返せない。

愛莉「アンタが他の子と喋ってるの見て」

 全部出てくる。

愛莉「なんでモヤモヤするのか分かんなくて」

 手が震える。

 でも握られてるから隠せない。

愛莉「今までこんなのなかったのに」

 顔を上げる。

 真正面。

愛莉「……変になったの、わたしだから」

 沈黙。

 風の音。

 遠くでチャイムが鳴る。

 健人がゆっくり息を吐く。

 掴んでいた手を離さないまま。

健人「……それさ」

 少しだけ困った顔で。

健人「俺も昨日から同じなんだけど」

 思考が止まる。

健人「ネクタイ直されないの落ち着かないし」

健人「距離遠いと変だし」

健人「避けられるとムカつくし」

 視線が逸れる。

 珍しく照れている。

健人「腐れ縁で終わるの、なんか嫌だった」

 心臓が壊れそうになる。

 何も言えない。

 でも。

 手はまだ繋がれている。

 その体温だけが現実。

 屋上の扉の前。

 向かい合ったまま。

 風だけが通り過ぎる。

 愛莉は思う。

 小さい頃。

 公園で泣いた自分を追いかけてきた背中。

 あのときと同じだ。

 ずっと。

 ずっと。

 追いかけてきてくれていた。

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