◆第8話 国が生まれる時、世界が震える◆
城の地下から、再び轟音が響いた。
床が震え、シャンデリアが細かく揺れる。
「――できたぞォッ!!」
ファルドの叫びとともに、蒸気と火花が廊下まで吹き上がる。
兵士たちは怯えながらも期待に身を震わせ、
ヴィオラは笑い、メルカドは興奮し、セレネは陶然とし、
ラザロスは「死ねる爆発なら歓迎」と呟き、
ノアとカイトは冷静に記録している。
狂った連中のはずなのに、
誰一人ファルドを止めようとしない。
――ただひとりを除いて。
「魔王さま、本当に……あの兵器を使うつもりなのですか?」
リアナの声は震えていた。
しかしそれは、怯えではなく――責任を理解している者の震え。
「世界が滅ぶかもしれないんですよ?」
俺は彼女の肩にそっと触れる。
「滅ぼすためではなく、
“滅ぼせる力を持っていると世界に理解させるため”だ」
リアナは息を詰めた。
「力そのものではなく、“力を持つという事実”が国となる。
大陸の地図は、兵では動かない。
動かすのは“恐怖・羨望・欲望”だ」
その瞬間、カイトが一歩前に進んだ。
「魔王殿。建国宣言の段取りは整っております」
ノアが指先で空中に光の線を描き、地図を映す。
「城の名、国の名、旗印、外交の初手。
どれも既に“世界が最も動揺する形”に」
「軍を強くしただけで満足するなら、それは山賊と同じです。
魔王軍が“国家”になることで、世界は試される」
リアナが振り返る。
「試される……?」
カイトが静かに微笑した。
「世界は問いを突きつけられるのです。
“隠してきた欲望に従うのか”
“正義の仮面を破るのか”
“あるいは震えて従うのか”」
セレネが嬉しそうに手を組んだ。
「どの選択をしても、誰かが泣きますわね。
胸が高鳴ります」
メルカドは拳を鳴らす。
「国になるなら、敵も本気を出す。やっと面白くなる」
ラザロスは小さく笑った。
「死ぬかもしれない戦争が増える……いいね」
ヴィオラは牙を見せるように笑む。
「狩れる獲物が増えるってだけで充分だわ」
ファルドは工具を肩に担ぎ、満足げに鼻を鳴らす。
「国が生まれたら、戦争は“定期便”だ。生産に困らなくなる」
守護者六人と参謀が揃って見据える先は――
同じ一点。
世界の中心を奪うこと。
◇◇◇
そして――その瞬間は訪れた。
黒い旗が城門から掲げられる。
そこに描かれた紋章は――欲望の魔王の象徴。
王城の最上階、バルコニーに俺が立つと、
何万という兵たちが静かに頭を垂れた。
リアナが隣に立ち、
その後ろに守護者たちが並ぶ。
俺は声を荒げず、静かに宣言した。
「今日をもって、我が軍は“軍”ではない。
――国家だ」
地鳴りのような歓声。
「名は、《欲望魔国(ラスタ=ディア)》!!」
旗がはためき、兵たちが武器を掲げる。
「この国の目的は一つ。
すべての者が、“自らの欲望に従って生きる世界”を創ることだ!!」
リアナは目を見開き、
ヴィオラは歓喜し、
メルカドは拳を突き上げ、
セレネは涙を舐めるように微笑み、
ラザロスは静かに頷き、
ノアは未来が乱れるのを愉しみ、
カイトは計画の歯車が噛み合うのを見届けた。
「正義も秩序も神も必要ない。
欲望こそが、生きる理由だ!!」
兵たちが一斉に叫ぶ。
――ラスタ!!
――ラスタ!!
――ラスタ!!
世界はその声に怯え、
教会は震え、
王国は狼狽し、
隣国はざわめき、
商国は笑い、
地下世界は歓喜した。
同時に、ノアの瞳が光を帯びる。
「魔王――四天王が動き出します」
リアナが息を呑む。
「まだいないはずの……?」
ノアは首を振った。
「国が生まれたことで、“眠っていた強者”が目を覚ます。
魔王軍に従う者もいれば、敵として立ちはだかる者もいる。
そして――
四天王となるのに“ふさわしい者”が、自ら訪れる」
ファルドが笑った。
「つまり、『本物』が嗅ぎつけてくるってわけだ」
メルカドが拳を鳴らす。
「その4人を倒して、あるいは屈服させて……初めて本物の魔王軍だ」
カイトが淡く微笑む。
「建国は、世界への挑戦状。
それに応じてくるのが――四天王です」
リアナが緊張に震えながらも、俺の手を握る。
「魔王さま。
四天王に負けるつもり……ありませんよね?」
俺は彼女の手を握り返し、静かに答える。
「負けるつもりなどない。
――だが、屈服させるつもりもない」
全員が息を止める。
俺は笑った。
「僕が欲しいのは、四天王ですら“自ら望んで”膝をつく未来だ」
その時だった。
夜空を裂く雷鳴。
バルコニーの先、雲の中――
巨大な影が姿を現す。
吹き荒れる嵐。
電撃。
天空から降り注ぐ咆哮。
城全土に響き渡る声が落ちてくる。
『――魔王。
試練を受けよ。
四天王に値するか、見極めてやる』
リアナが震え、
守護者たちが同時に臨戦態勢に入る。




