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欲望の魔王〜世界全て僕のもの〜  作者: 暁 龍弥


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◆第7話 錬獄の鉄匠は世界を燃やす夢を見る◆

六人の守護者。

牙は、もう“群”の形を成し始めている。


血の狩猟姫ヴィオラ。

不死の実験体ラザロス。

魔眼の賢者ノア。

哀哭の吸血メイド セレネ。

地獄の闘神メルカド。

破滅の参謀カイト。


力も、知恵も、狂気も、破滅も揃った。

だが――まだ足りないものがある。


「“軍”として動くなら、そろそろ限界ですね」


玉座の間で、カイトが淡々と告げた。

その隣でノアも頷く。


「兵は集まりつつある。

 ですが、武具・兵器・補給・製造――

 いわゆる“軍需”が追いついていません」


「つまり?」


ヴィオラが、片足を玉座の階段に乗せたまま、爪を磨きながら聞く。


「獲物はまだ足りてるけど、牙の質が追いついてないってこと。

 大雑把に言えば、だけど」


セレネが笑みを浮かべる。


「壊し方のバリエーションが少ない、ということですわ。

 泣かせ方が単調では、飽きてしまいますからね」


「簡単に言うとだ」


メルカドが椅子代わりの岩を蹴りながら口を挟んだ。


「もっと面白い武器が欲しい。

 殴る、斬る、焼く以外に、“戦場の空気そのものを狂わせる”みたいな代物がな」


ラザロスは静かに壁にもたれかかり、肩をすくめる。


「死ねない奴から言わせてもらえば――

 どうせなら、一回ぐらい“本気で死にそうになる兵器”も欲しいね」


リアナはその会話を聞きながら、不安そうに俺を見る。


「魔王さま……本当にそんな“危ないもの”まで必要なのですか?」


「必要だ」


俺ははっきりと言った。


「世界を僕色に染めるには、“兵”だけでは足りない。

 国々が何百年かけて積み上げてきた術式、兵器、兵站――

 そのすべてを、こちらが一気に追い越す必要がある」


ノアが指先で空中に複雑な図形を描く。


「“戦う力”と“戦争する力”は、似ているようで別物です。

 その差を埋めるには――ひとりの狂人が必要です」


カイトが微笑みながら言葉を継いだ。


「世界を焼き尽くす道具を作ることだけに人生を捧げた、

 狂った職人――」


俺はその名を口にした。


「“錬獄の鉄匠くろがねしょう”ファルド・グレン」


◇◇◇


ファルドがいるのは、かつて聖王国直属の兵器研究都市だった場所――

今は“実験の失敗”で地図から消された、灰の谷。


黒い灰が舞い、

昼なのに空は霞んでいる。


「……ここだけ、世界が焼け落ちたみたい」


リアナが外套のフードを目深にかぶりながら呟く。

足元の地面は黒く焦げ、ところどころ溶けた石が固まっている。


ヴィオラは退屈そうに灰を蹴り上げた。


「へえ。悪くない匂いね。

 血の匂いじゃない、焼けた鉄と魔力と……失敗した命の匂い」


ラザロスが灰を指先ですくい、軽く嗅ぐ。


「……これは、何回か“全部吹き飛んだ”ね。塔ごと、人ごと、国の理屈ごと」


ノアが静かに頷いた。


「“禁忌兵装ライン・ファーナス計画”。

 聖王国が一度だけ本気で世界を焼き尽くそうとして、

 自分の喉元まで焼いた愚行の跡です」


「で、その計画の中心にいたのが――」


俺は足を止めた。


灰と鉄の匂いの奥。

一カ所だけ、微かに生温い魔力の流れを感じる。


崩れた塔と塔の間、

地面に半ば埋もれた巨大な鉄の塊。

そこだけが、まだ“呼吸”を続けていた。


「……聞いていたより、だいぶうるさいお出ましだな」


その鉄塊の中から、声がした。


掠れているのに、妙に通る声。


次の瞬間、鉄塊の表面が割れた。


ぎしぎしと軋む音とともに、中から一人の男が姿を現す。


煤で黒く汚れた作業服。

皮膚には無数の火傷。

髪は焼け焦げて短く切れ、

片目には黒いゴーグル、もう片方は燃え続ける炉のように赤い。


「錬獄の鉄匠――ファルド・グレン」


俺が名前を告げると、男はニヤ、と笑った。


「お前が呼んだんじゃない。

 俺の作品が、お前を呼んだんだよ、欲望の魔王」


リアナが目を見開く。

ノアが静かに観察を続ける。

ヴィオラとメルカドは“戦えるかどうか”という目で、ラザロスは“死ねそうかどうか”という目で。

セレネは“どれだけ泣き叫ばせる兵器か”という目で見ている。


ファルドは、俺たちの視線を一瞥しただけで、興味なさそうに肩をすくめた。


「人間、魔族、不死、賢者、闘神、吸血鬼。

 見事な見本市だな。

 ここに兵器をぶん投げたら、どんな反応するか……ちょっと興味ある」


「試すな」


俺が軽く制する声を出すと、ファルドは大げさに両手を挙げた。


「冗談だ。

 さすがに、まだ“魔王”を爆破する気はない」


「“まだ”?」


リアナが思わず聞き返す。


ファルドは楽しそうに笑った。


「そうさ。

 いつか、“魔王を殺せる兵器”を作りたい。

 そんくらいの夢がなきゃ、世界なんか焼けないだろ?」


その言葉に、ヴィオラがニヤッと口角を上げる。


「気に入った」


ラザロスは苦笑しつつ呟いた。


「俺を殺せる兵器と魔王を殺せる兵器……

 どっちが先にできるか、賭けてもいい?」


ノアは興味深そうに目を細めた。


「“目的がどこにあるか”が重要ですね。

 神でも人でもなく、“兵器そのもの”を夢にしている」


カイトが静かにまとめるように言う。


「世界を守るためでも、国を救うためでもない。

 “世界を焼き尽くす道具を完成させるため”だけに存在する狂人です」


セレネがうっとりしたように息を吐いた。


「なんて素敵な歪み方……。

 人が泣こうが、国が燃えようが、彼にとっては“副産物”でしかないのですね」


ファルドは、そんな評価を受けてもなお、まるで褒められているように肩を揺らして笑った。


「俺はな、魔王。

 世界を守る兵器も、救う兵器も、バランスを取る兵器も作ってきた。

 王のため、民のため、正義のため、平和のため。


 ――全部見飽きた。

 壊すなら、綺麗に壊したい。

 焼くなら、跡形もなく焼きたい」


ファルドの片目――炉のように赤い瞳が、俺を射抜く。


「だから聞く。

 お前の“世界征服”の先には、何がある?」


虚無ではない。

支配でもない。

栄光でもない。


俺は短く答えた。


「欲望だけだ」


ファルドの瞳がわずかに見開かれる。


「世界を僕色に染める。

 正義も秩序も信仰も捨てさせ、

 隠していた醜さも、理性で抑え込んでいた願望も、全部さらけ出させる。


 ――その結果、世界がどうなろうと構わない。

 ただ、“欲望で満たされた世界”が見たい」


ファルドは息をひとつ吐き、そして笑った。


「いいね。それだよ、それ。

 “世界を綺麗に壊す”のに、一番ふさわしい旗印だ」


彼は自分の胸を拳で叩いた。


「俺は世界を焼き尽くす兵器を作りたい。

 ただし――

 “世界が燃えるまで壊れずに動き続ける兵器”だ。


 燃料も、魔力も、人命も、倫理も、全部まとめて焼く。

 最後に残るのは、“俺が作った道具の残骸”だけでいい」


リアナの表情が強張る。

だが、俺は笑みを浮かべた。


「いい。

 おまえの夢は、僕の欲望とよく噛み合う」


「だろ?」


ファルドは、当然だとでも言うように頷いた。


「だから、俺から来た。

 “魔王の軍に入りたい”って。


 王国は俺を利用しようとしたが、

 アイツらは俺に“世界を燃やしてもいい”と言わなかった。


 お前はどうだ? 魔王」


俺は、迷うことなく答えた。


「燃やせ」


リアナが息を呑む。

ノアが目を細め、カイトが静かに笑う。


「世界を燃やして構わない。

 ただし――

 その炎も煙も跡も、すべて“僕のための景色”であることが条件だ」


ファルドの口元が、大きく歪む。


「……決まりだな、魔王」


彼は膝をついた。

誰に教えられたわけでもない、自然な動作。


「“錬獄の鉄匠”ファルド・グレン。

 この手で、欲望の魔王のための道具を作る。

 世界を焼き尽くす兵装、

 魂を燃料に変える軍装、

 国ごと飲み込む戦場――


 全部、お前のために造ってやるよ」


俺は手を伸ばし、ファルドの額に指先を当てた。


「契約だ、ファルド。

 おまえは今日から、十人の守護者のひとり――“錬獄の鉄匠”だ」


足元に、紅と黒の魔法陣が広がる。

それは他の守護者たちの紋とも違う、歯車と炉と鎖を組み合わせたような文様。


炎のように揺れる線が、ファルドの腕、胸、背中へ刻まれていく。


「……熱いな。

 だが、悪くない熱だ」


ファルドが笑う。

その笑みは、初めて炉を手にした少年のような純粋さと、

世界を焼きたいと願う狂人の笑みが混ざり合っていた。


「この契約によって、

 おまえが作る兵器はすべて“魔王の軍に優先して奉仕する”。


 兵器が暴走しようと、世界を焼き尽くそうと、

 最後に残るのは――必ず僕の軍、という形だ」


「最高じゃねえか」


ファルドの瞳が、炉よりも熱く燃え上がる。


「やろうぜ、魔王。

 世界を戦場にして、その上から“最高の作品”を降らせてやる」


◇◇◇


城に戻ると、

ファルドはさっそく地下に工房を要求した。


「静かな場所じゃダメだ。

 轟音が響いて、城ごと震えるくらいでちょうどいい」


「兵の不安が増えますよ」

カイトが言う。


「不安と期待は同じだ」

ファルドは笑った。


「“何ができるんだろう”って震えるのは、

 “何が起こるんだろう”って怯えるのと同じ感情だからな」


ノアが感心したように頷く。


「感情の利用法としては、極めて合理的です」


セレネは目を輝かせた。


「壊れる前から泣きそうな兵士が増えますわね。

 楽しみです」


ヴィオラは肩を竦める。


「戦場で爆発するときは、あたしの方に飛ばさないでよね」


メルカドは嬉しそうに笑った。


「いいじゃねえか。

 本気で死にそうな兵器なら、“本気で負けられる”」


ラザロスは空を見て、静かに呟いた。


「その時こそ、やっと俺も終われるかもね」


リアナは複雑な表情で、そのやり取りを見ていた。


世界を焼きたい鍛冶師。

世界を壊したい参謀。

未来を誤らせたい賢者。

敗北に飢えた闘神。

泣き叫ぶ心を喰らう吸血鬼。

不死の実験体。

血に飢えた狩猟姫。


そして――それらの中心に立つ、欲望の魔王と、自分。


(こんな軍が、本当に……世界を飲み込んでいくの……?)


しかし、リアナは知っていた。

もう、自分は戻れない。

神の花嫁ではなく、魔王の花嫁として――この狂った軍勢と共に歩むのだと。


◇◇◇


十人の守護者のうち、

七人目までが揃った。


残るは三人。

そして、守護者の頂点――四天王。


ファルドの工房から、最初の轟音が響いた。


世界を焼く準備は、静かに、確実に整いつつある。

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