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欲望の魔王〜世界全て僕のもの〜  作者: 暁 龍弥


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◆第4話 哀哭の吸血メイドは”心の味”に飢えている◆

魔王城は、少しずつ“軍”としての形を帯び始めていた。


兵の士気は上がり、城壁の影には新たな陣が描かれ、

森と研究塔で加わったヴィオラとラザロス、そしてノアの存在は

魔族・亜人・堕天・獣人・人族の兵の間に“緊張と期待”を生み出している。


しかし――内部が強くなるほど、同時に敵も強く反応する。


「魔王さま。教会の動きが気になります。

 “聖槍騎士団”の再編が始まっているようです」


玉座の横で、ノアが静かに報告した。

未来視から導き出した決断なのだろう。


「まだ動かせない。

 守護者が4人揃うまでは、真正面からぶつからない」


「正しい判断です。……最も愚かで美しい結果を狙うなら、ですが」


ノアがくすりと笑う。

ヴィオラは壁にもたれて爪を研ぎ、退屈そうに聞き流していた。


「で、次はどんな奴を連れてくるのよ?

 狩れないと退屈で死にそうなんだけど」


「死ねるなら羨ましい」

ラザロスが気怠げに返す。


その2人のやりとりに、リアナの視線が揺れる。

魔王軍が強くなっていく喜びと、魔王から遠ざけられる不安が入り混じった目。


――その“揺れ”に反応した存在がひとりいる。


ノアが、薄く笑ったまま呟くように告げる。


「魔王。

 感情が揺れ、乱れるところに……“あの女”は現れます」


「セレネか」


「はい。

 “哀哭の吸血メイド”――泣く者の心を舐め、弱った心を喰らう悪魔。

 城にいる誰かの感情が限界を超えると、彼女は勝手に現れます」


リアナの肩がびくりと跳ねた。


(感情が揺れている――自分のせいで現れるのでは?)


その罪悪感の匂いは、塔の外からでも香るほど濃い。


ノアの声が落ち着いているのに、どこか楽しそうだ。


「魔王。

 “待てば来る”相手です。

 迎えに行く必要はありません。

 ――連れてこられるのは、あなたですから」


その言葉に、俺は玉座からゆっくり立ち上がった。


「来るというなら――歓迎しよう」


◇◇◇


夜。


魔王城の廊下に、鈴のような音が響いた。

音を聴いた瞬間、ノアの表情が変わる。


「来ましたね」


廊下の影がゆっくりと揺れ、人の形をつくっていく。

黒いドレス、白いエプロン、夜会用のメイド服。

だが瞳は涙に濡れたように深く、赤く光っている。


「……また泣いているのね、可哀想に」


最初に声をかけられたのは――リアナだった。


セレネはゆっくりと近づき、指先でリアナの頬を撫でようとする。

触れてはいないのに、リアナは息を呑んだ。


「あなた、怖いのに嬉しそう。

 独り占めしたいのに、それが罰のようで苦しい。

 その感情――とても、甘い」


リアナの膝が震え、視線を落とす。

心が剥き出しにされる感覚は、快感にも拷問にも似ている。


(このまま喰われる――)


そう思った瞬間。


セレネの指がリアナに届く前に、俺は割って入った。


「そこまでだ」


セレネの指先は俺の胸に止まる。

まるで最初から俺に触れるつもりだったかのように、ごく自然に。


「怒ってるの? それとも――守ってるの?」

ねっとりとした声。


「どちらでもない。

 僕の花嫁を泣かせるのは“僕の役目”だ」


その瞬間、セレネの瞳が大きく揺れた。


期待。

欲望。

依存。


「……最高」


一言つぶやいたあと、セレネは深く礼を取った。


「申し遅れました。

 “哀哭の吸血メイド”――セレネ・ミラージュと申します。

 泣く者の心を吸い、壊れた心を繋ぎ、砕けた心を飾る、哀哭の芸術家です」


ヴィオラが鼻で笑う。


「芸術家? ただの泣かせ魔でしょ」


「泣かせるのではありません。

 “泣きたい感情を引き出してあげる”のです」


セレネは笑った。

その声は、抱きしめられるたびに心を壊すような声。


「魔王様。

 あなたには悩みが多いでしょう?

 欲望の道は、必ず誰かを泣かせる。

 でもあなたは泣かせた者を抱きしめてしまう。


 ――優しさという、残酷な欲望を持っている」


リアナが震え、はっと俺を見る。

ヴィオラとノアも、反射的に俺の目を確かめる。


セレネは囁いた。


「あなたの“優しさ”――それこそ世界をもっとも壊す。

 だから私は、あなたの軍に入る。

 泣き続ける者たちを飾り、愛し、壊してあげるために」


この女は最初から俺に跪くつもりで来ていた。

ただ、理由が欲しかっただけだ。


俺は宣告する。


「ならば契約だ。

 セレネ――十人の守護者のひとりとなれ。

 泣きたい者を泣かせ、欲望の涙で世界を飾れ」


契約の陣が足元に展開し、黒い光がセレネの脚から全身を包む。

喉元、胸元、手首、太腿――泣きながら笑う者のような紋が刻まれていく。


セレネは震える声で誓った。


「……これから壊れる者たちの涙、全部……魔王さまのために味つけします」


契約は終わり――四人目の守護者が誕生した。


◇◇◇


そして、同時にもうひとつの火種が生まれる。


リアナが小さく呟く。


「……魔王さまは、優しくなんてありません」


誰に向けた言葉か。

否定か、願望か、嫉妬か、自分への慰めか。

そのどれであっても――セレネは見逃さない。


「その涙、楽しみですわ。

 “花嫁”さま」


城の空気が静かにきしむ。


ヴィオラは笑い、

ラザロスは肩を鳴らし、

ノアは興味深そうに目を細める。


十人の守護者――四本目の牙。


この城には、もう争いを避ける空気はない。

欲望、嫉妬、独占、依存。

魔王軍は力を増すほど、内部の感情も渦巻き始める。


だが――それこそがいい。


感情が揺れるほど、吸血メイドは強くなる。

未来が乱れるほど、賢者は狂っていく。

戦場が増えるほど、狩猟姫は歓喜し、

死線が続くほど、ラザロスは解放される。


欲望こそ、軍を強くする。


「次は――“闘神”だ」


宣告した瞬間、

ヴィオラとラザロスが同時に唇を歪めた。


闘神。

戦いへの渇望が骨に刻まれた男。


守護者5人目へ向け、魔王軍は動き出す。


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