◆第12話 大地の獄王は、欲望に膝をつかない◆
四天王3人を従えた翌日。
魔王国ラスタ=ディアの大地が、低く唸り始めた。
「――地鳴り?」
城の床がかすかに震え、
酒場のグラスが揺れ、
訓練中の兵たちがバランスを崩す。
空には嵐もなく、冥界の気配もなく、夢魔の影響もない。
それでも震えるのは――地そのものの意思だ。
バハルザードが翼をたたんだまま玉座の間に姿を現す。
「魔王。大地が“気づいた”。
空、門、夢……
それらが貴様に従ったことで、
大地は“最後の王”として名乗りを上げる」
ゼファルが静かに告げる。
「地は、生者の源。
すべての命が生まれ、死んだあとの器が還る場所。
大地が従わなければ――国家は真に立たない」
リリスが愉悦を含んだ声で言う。
「つまり、“最後の試練”というわけですね」
リアナが胸に手を当てる。
「その“大地の王”……魔王さまの前に、立ちはだかるんですよね」
ノアが無表情に頷く。
「はい。そして、おそらく――
今までで一番、“膝をつかせづらい相手”です」
カイトが冷静に説明を引き継ぐ。
「地とは、欲望より強いもの。
飢え、痛み、生存本能。
生きるために奪い、生きるために殺す……
それは理性よりも深く、本能よりも古い」
ラザロスが淡く笑う。
「“生き残りへの渇望”を支配してる存在……ってことか」
ヴィオラは興味深そうに牙を鳴らす。
「つまり、私みたいな“生存本能の塊”の最終進化版ね」
メルカドは拳を握る。
「そいつと戦えるなら、胸が熱くなるな」
セレネが震える声で呟く。
「生きたいという叫びは、泣き声の源……
素晴らしい原料ですわ」
ファルドは工具を抱えて肩をすくめる。
「つまり、地の王を味方につければ、
世界中の“生きたい”って叫びが、魔王さまの燃料になるわけだ」
全員が揃って俺を見る。
――大地の王を従えられれば、魔王国は完成する。
俺は立ち上がった。
「行くぞ。
大地の王が待っている」
◇◇◇
向かったのは、ラスタ=ディアの南端。
見渡す限りの荒野。
草木もなく、生命の匂いがない。
ただ、地面の下から、鼓動が響く。
ドン……ドン……ドン……
「……なんか、心臓みたいね」
ヴィオラが呟く。
ゼファルが低く言う。
「違う。“大地そのものの拍動”だ。
地上の命はすべて、この鼓動の上で生きている」
振動が強まる。
砂が舞い、乾いた地面の裂け目から、
燃えるような光が溢れ始めた。
そして――地割れの中心から、巨影が立ち上がる。
最初に見えたのは、角。
次に、大地の色をした岩の腕。
体中に刻まれたルーンの紋様。
そして、燃えるような瞳。
それは巨人だった。
いや――大地の化身と言っていい。
『――魔王』
声に大気が揺れ、
地平線がたわんだ。
『天を従え、門を支配し、夢を染めたか。
だが――地は膝をつかぬ』
バハルザードが笑む。
「相変わらず、口より拳で語るタイプだな」
ゼファルが静かに言う。
「“大地に屈しない者だけが、大地に立てる”……」
リリスが愉悦を零す。
「つまり、“従わせることそのもの”が試練ですね」
巨人は大剣でも槍でも魔法でもなく――ただ、大地の拳を持ち上げた。
『魔王。
その命、強引に奪い取ってみせよ。
それができるのなら――お前の“生存”を認めよう』
リアナが叫ぶ。
「奪い取るって……命を!? 魔王さまを!? それって――!!」
ノアが淡々と言い切った。
「“生き残りたい”という原始的な渇望――
それを証明しなければ、大地の王は膝をつかない」
メルカドが燃え上がる。
「つまり――殴り勝てってことか!!!」
ヴィオラが笑う。
「最高じゃないの」
ラザロスが肩を回す。
「死ねるかもしれない痛みって、ほんと大好き」
セレネは涙を舐めて震え、
「この戦いのあとに、きっと甘美な泣き声が溢れる……ッ」
ファルドは工具を振り上げ、
「巨人サイズの武器、今から作るの間に合うと思うか!?」
四天王3人は――動かない。
天帝バハルザードが低く言う。
「これは魔王の試練。
我らが手を出せば、地は永遠に従わぬ」
ゼファルが続ける。
「“生きたい”と叫ぶ本能は――
誰かが代わりに叫んでやれるものではない」
リリスが微笑む。
「だからこそ、美しいのです。
魔王が生を選ぶのか、死を受け入れるのか」
大地が震える。
荒野が崩れ、巨影が迫る。
リアナが俺の腕を掴む。
震えている。
泣きそうだ。
けれど――離さない。
「魔王さま……絶対、生きてください……!!
“生きたい”って――言ってください……!!」
俺は優しく彼女の手をほどく。
「生きたいかどうかなんて――」
一歩、巨人へと歩き出す。
「問われるまでもないだろう」
大地の拳が降る。
砂煙が爆ぜ、
鼓動が加速し、
世界が“生存本能”だけで塗りつぶされる。
バハルザードが笑う。
「――来たぞ! 魔王、地が本気だ!!」
ゼファルが呟く。
「“死”と“生”の境目が消え始めている……!」
リリスは震える声で囁く。
「これほどの欲望……“生きたい”という叫び……
魔王は、この試練すら楽しむ……!」
リアナは泣きながら叫ぶ。
「魔王さまァ――ッッ!!!」
大地がすべてを飲み込む。
◆
――魔王 vs 大地の獄王
最終四天王、開幕
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