プロローグ〜始まりの悪夢〜
ここはどこだろう?
ぼくはなに?
暗い
怖い
怖い?
何を怖がってるんだ?
僕はそんな存在じゃないはずだ
どういうことだ
僕はなんだ?
僕は…
そうだ、僕は欲望の魔王だ
あぁ、そうだ
そうだとも
僕は世界を”欲望”に、”色欲”に染め上げなければいけない
あぁ、やらなければ
染めようこの世界を”僕色”に
◇◇◇
リアナの膝が床についたまま、僕は彼女を見下ろしていた。
拒絶も祈りも消えた。
残っているのは、理解したくないのに理解してしまった感情――
抗えない欲望。
「立ちなさい、リアナ。魔王の花嫁にふさわしい姿を見せろ」
少女は震える手で立ち上がる。
まだ聖衣だったころの名残が残る赤い衣は肩から滑り落ち、白い肌が露わになる。
彼女は慌てて押さえようとするが、僕が指を一度鳴らすだけで、布は彼女の手から逃げるように落ちていく。
「そんな……っ、わたし……恥ずかしい……」
「恥は不要だ。欲望に仕える者の感情は快楽と献身だけだ」
リアナはその言葉に抗えない。
顔を伏せたまま、肩が震える。
だが、逃げようとはしない。
僕はゆっくりと距離を詰めた。
吐息が触れるほど近い距離。
リアナは呼吸すら忘れ、胸が高鳴る音だけが礼拝室に響く。
「や、め……なきゃいけないのに……近づかないで……」
「本当に嫌なら、一歩下がってみろ」
言われた瞬間、リアナの足は固まった。
下がれない。
恐怖でも羞恥でもなく――願ってしまっているから。
僕は少女の腰に手を添えた。
リアナの身体が大きく跳ね上がり、息を飲む。
「触れられただけで…どうして…こんな…」
「それがおまえの本質だ。快楽に支配される女だ」
少女の喉からかすかな声が漏れる。
噛み殺した声。
知られたくない声。
だが止められない。
僕は首筋にかすかに触れるだけの口づけを落とした。
触れたか触れないか、その程度。
しかしリアナは全身を震わせた。
「だめっ……だめなのに……身体が、勝手に……」
「勝手じゃない。望んでいるからだ」
少女の手が僕の衣に縋りつく。
抗うためではない。
支えがなければ崩れてしまうから。
白い喉が上下し、荒い呼吸が僕の胸を濡らす。
「わたし……魔王さまに、堕とされてる……」
「違う。おまえは堕ちたくてたまらないだけだ」
リアナの瞳が涙に濡れたまま僕を見上げる。
羞恥と、依存と、悦びが混じった瞳。
人が最も壊れやすい、そして最も美しい瞬間。
僕は少女の背中に手を回し、言葉を与える。
「名を呼べ。僕を欲望と共に刻め」
リアナは唇を震わせる。
抵抗の最後の欠片が揺れて、砕ける。
「……ま、魔王さま……っ」
その瞬間、黒い魔力が少女を包みこむ。
衣の残りがほどけ、赤い魔王の花嫁の衣が形をつくる。
胸元は大胆に開き、肌の露出は多く、動けば擦れるように密着する。
自ら望んでいないのに、望んだような衣。
羞恥と快楽を両方刻みつける装い。
リアナは両手を胸の前で重ね、震える声で告げる。
「……わたし、魔王さまにだけ見られたい……魔王さまにだけ……求められたい……」
その言葉に僕は微笑んだ。
「よく言えた。――おまえはもう完全に僕のものだ、リアナ」
少女の身体は緩く震えながらも、嬉しさを隠しきれない笑みを浮かべていた。
恥辱と幸福の境界で震える――堕落の象徴。
礼拝室の静寂の中、リアナは誓うように囁く。
「どうか……この身を、壊れるまで……魔王さまのために使ってください……」
堕落の儀は終わり、魔王の花嫁が誕生した。




