第6話「鈴の音の真実と、未来へのプロデュース」
1. 呪いの深刻化と、NYANGOROUの警告
市場の劣勢よりも、つたねこやを悩ませていたのは、すずの鈴の音と彼女の才能から生じる不協和音だった。箸置きを手に取った猫が記憶や未来の幻影を見る騒動は続き、MIKEMARUは「筆がすずの強い願いに操られている」と異変を訴えていた。
この「鈴の音の呪い」は、ニャレドネコマチの「現実」を根底から揺るがし始めていた。
つたねこやは、事態の深刻さに、町火消NYANGOROUを訪ねた。NYANGOROUは、いつものように冷静沈着だったが、事態を聞くと顔色を変えた。
「鈴の音が、記憶や未来の幻影を見せる、だと?そして、MIKEMARUの絵が現実を侵食する…それは、ただの才能の暴走ではない。火消し組の記録にも、『清らかな鈴を持つ猫が、街全体に不思議な影響を及ぼした』という、古い伝説がある…」
NYANGOROUは、伝説の詳細については語らなかったが、警告だけを残した。
「つたねこや、お前はプロデューサーとして、街の現実と、すずの鈴が呼ぶ『特別な現象』のどちらを守るのか、決めなければならない。この現象は、このままでは現実の街のあり方を変えてしまう。そして、その現象の真の糸口を知っている者が、このニャレドネコマチに一人だけいる」
「それが花魁NEKOODAYUUだ。」
彼は、この「呪い」を物理的に鎮めるための最後の手段についても言及した。
「だが、根源を理解しても、この『想いの残滓』は消えぬ。この呪いを祓うには、この街で最も強い、清らかな『力』が必要だ。それは、力士RAINYANの四股の力。古来より大地を清める儀式だ。だが、まずは根源を知れ。」
2. 謎の解明を託された花魁
花魁NEKOODAYUUは、「猫たちの心の深奥」を見通す洞察力を持つ、この町の「粋」の精神的支柱とも言える存在だった。つたねこやは、一縷の望みを託し、すずにNEKOODAYUUへの相談を持ちかけた。
「すずさん、君の鈴の音と、君の描いた光景が、この町に不思議な異変を起こし始めている。その謎を解くために、NEKOODAYUUに助けを求めたい。彼女は、この町の『粋』の裏にある、深くて暗い感情を知っているはずだ。君の鈴の音の『力』を制御しなければ、君自身が、この街を飲み込む『呪い』になってしまうかもしれない。」
すずは、自身の鈴の音がつたねこやのプロデュースを狂わせ、町に異変をもたらしていることに心を痛め、NEKOODAYUUに会うことを決意する。
3. 廓での対峙:鈴の音の真実
つたねこやとすずは、静寂に包まれた花街の奥、NEKOODAYUUの部屋を訪れた。
NEKOODAYUUは、二人の姿を見ると、静かに、そして全てを見透かす奥底に吸い込まれる様な複数の色が混ざり合う瞳で、すずの簪の鈴を見つめた。
NEKOODAYUU: 「その鈴の音は、『願いの残滓』よ。清らかであればあるほど、『叶えられなかった想い』の力が強く宿る。すず、あなたの鈴の音は、あなた自身の『深すぎる孤独』と『現実への強い不満』が生み出した『未来の幻想』を、ニャレドネコマチに投影し始めている。」
彼女は、つたねこやに視線を移す。
NEKOODAYUU: 「つたねこや。あなたがプロデュースしたかったのは、MIKEMARUの才能でも、NYANGOROUの英雄性でもない。あなたは、すずのこの『孤独な夢』を、『現実の幸せ』に変える、たった一人のプロデューサーになりたかった。それがシャムの言った『私的な欲求』の真実よ。」
NEKOODAYUUは、すずの心の奥底に隠された、「誰にも理解されない才能を持つ者としての孤独」と、「つたねこやのプロデュースの隣で、彼の理想とする『粋』を共に創りたい」という、切実な願いを明らかにした。彼女の鈴の音は、その「願い」を現実のものにしようと暴走していたのだ。
4. 優等生の殻を破る、最後のプロデュース
真実を知ったつたねこやは、優等生としての殻を完全に破り捨てる。彼は、個人的な感情を越え、ただ一人の女性、すずの「孤独」と向き合うことを決意する。
つたねこや: 「すずさん、君の鈴の音が呼ぶ幻影を、俺は否定しない。それは君の真実の想いだ。だが、俺がプロデュースしたいのは、幻影の未来ではなく、君という『最高の才能』が、このニャレドネコマチで、いまを笑顔で生きていく姿だ。」
彼は、すずの隣に立ち、彼女の簪の鈴をそっと触れた。
つたねこや: 「俺は、君のプロデュースを続ける。君の孤独な願いを、俺たちの手で、『共有できる、温かい現実の粋』に変える。それが、俺の『粋な目』が辿り着いた、最高のプロデュースだ!」
つたねこやは、すずの描いた幻想的な風景を、「今はまだ無いが、皆が目指すべき希望に満ちた未来」として、そのままの形で版画化することを命じる。そして、ドロのら商会の『日常の温もり』というテーマを正面から受け止め、すずの鈴の音とNYANDAMATSURIの技術を用いて、「孤独な願いを、他者との絆に変える」新しい日常グッズをプロデュースすることを宣言した。
個人的な劣等感を完全に克服したつたねこやは、真のプロデューサーとして覚醒した。
5. 終幕:呪いは継続し、最強の力士へ
つたねこやが個人的な劣等感を捨て、すずの「孤独」という最も私的なテーマに切り込んだことで、猫組の新作は市場に深く浸透し始めた。しかし、鈴の音の呪いは、公的なプロデュース力だけでは完全に鎮めることはできなかった。新しいグッズは猫たちの心に響くものの、それを手に取った者たちが、ふとした瞬間に「叶えられなかった過去の情景」や「あり得たはずの未来」をフラッシュバックする現象は継続していた。
市場では、ひっかき親分の『親子の背中合わせ風呂桶箸置き』が、根強い人気を保ち、ドロのら商会は依然として挑戦者の座を譲らない。
ひっかき親分: 「チッ、また奴らが派手な商品で猫の目をくらませたか。だが、和解など断じてない。この泥臭い挑戦は終わらねぇ!お前の『粋』は、まだ『呪い』に振り回されているようだぞ、つたねこや!」
つたねこやとすずの間に、個人的な気持ちのすれ違いはなくなった。しかし、すずの鈴が呼ぶ『呪い』は未だに解決されていない。
つたねこや: 「すずさん、君の願いは俺が受け止めた。だが、この鈴の音の力が、この街を、そして君自身を苦しめている。NEKOODAYUUの言葉に従えば、この『願いの残滓』を、物理的な力で鎮める必要がある…」
すず: 「チリン…(不安げな鈴の音)。つたねこやさん、私、この力で誰かを傷つけたくない。この鈴の音を、もう一度、清らかな『希望の音』に戻したい…」
つたねこやは、NYANGOROUの警告を思い出し、決断した。
「行くぞ、すずさん。この街の『現実』を取り戻すために、ニャレドネコマチ最強の力を借りる。
力士RAINYANに、神社の土俵で奉納四股を踏んでもらう!
彼の清められた力ならば、この呪いを払えるかもしれない!」
この現象の正体は...




